第5話 お出かけとお守り

 小一時間ほどしてクロウが三人のいる部屋に通される。

 バルトも後に続いて入ってくる。


「クロムウェル氏は、数日中に王都へ来られる。

 我々はサロメ王女の護衛があるので同行できない。

 というわけで、君らに彼の道中案内と護衛をお願いしたい。」


 バルトに促されて三人と対面に座るクロウは少々ばつの悪い顔をしている。

「すいませんが、よろしくお願いいたします。」


 深々と頭を下げるクロウ、隣ではウインクをするバルト。

「さ、さぁ、話は終わったようですし、日も傾いてきてるから、食事にでも出かけましょ!」

「異議な~し!」

 セラが促し、ロムとマックが応じる。


 セラがクロウの腕を抱え上げ、出口側の扉にひいていく、ロムはクロウの背を押しながら後に続く。


 バルトが立ち上がり扉を開くと、四人は部屋から出ていく。

 ただマックがバルトとすれ違いざまに聞く。

「彼は?それとも、?」

「恐らくは後者とサロメ王女は考えられている。

 いずれにしても今は時期が悪い。

 詳しい話は王都で。」

「わかった。」


 ◇ ◇ ◇


「…で、どんな話だったんだ?」

 ロムが目の前の料理を頬張りながらクロウに聞く。

「今回の旅行の経緯と、私の身の上話を少々。」


「馬車の事とか…ムグゥゥ~~~」

 話を続けようとするロムの口に食べ物を押し込むセラ


「でも、王都に行くってどういう事?」

「はい、場所を改めて話がしたいと王女様が仰られたので…。」

 さえぎったものの話が続かないセラ、ひたすらモグモグのロム。


「旅の成果が得られそうですか?」

 マックが食べる手を休めてクロウに話しかける。


「わかりません。

 それを確かめるために王都に行くしかないのだと思います。」

「そうですか、主人に良い土産を届けられるといいですね。」

「はい。」

 二人の会話についていけず、モグモグタイムのロムとセラ。


 それから二・三日、クロウは出かけるための準備をしている…はずなのだが、日がな一日、町を散策しては人々の生活風景をつぶさに観察している。


 屋台で何気ない世間話をする店主と女性客、通りをはしゃぎながら走っていく子供たち、たまに通りを横切る冒険者。


 おそらく彼にはこれらの光景が新鮮なものに映っているのかもしれない。


 監視役の三人も、クロウに着かず離れず物陰から彼を見ているのだが…セラとロムは飽きている。

 クロウは三人の尾行を知ってか知らずか日常の喧騒けんそうに埋没することなく、ゆらりゆらりと歩いていく。

 街道の外れまで来るとクロウは外の風景を眺めながら、後方の三人に聞こえるように話す。


「明朝ここを発ちます。馬車で二週間程度の道則みちのりになるそうです。」

 それだけ言うとクロウは振り返ることなく宿へ向かっていった。


 ◇ ◇ ◇


 翌朝、街道の外れに商隊の荷馬車群が待機していた。

 クロウは商隊長に途中までの同乗をお願いしている。お供の三人分ぼうけんしゃも含めて…。

「ふむ、御三方には護衛ということでお願いしましょうか。」

「分かりました。」


「そりゃ、徒歩で行くよりも、幾分楽はできるよ。

 楽はできるけど、よりにもよって商隊の荷馬車に同乗して、することになろうとは…」

 お守り以外のオプション依頼がついてしまい、仕事嫌いのロムはモゴモゴと愚痴を言っている。


「まぁ、お給金付きで馬車に乗せてもらえたんだから、文句を言わない!」

 上機嫌のセラに、積み荷を確認するマック。

 積み荷次第で、王都までの道程に影響が出てきてしまうからだ。


 もっとも今回は、王都手前の城壁の街の一つが終着点ということで、ほぼ道程は完了できる。


「それにしても、この商隊の情報をどこで聞いたんでしょうね、クロウさん。」

 マックが頭を掻きながら、クロウの方を見る。

 クロウはといえば、商隊の面々と談笑している。

 よくよく見るとクロウが服の中からいろいろと土産物を取り出している。

 およそ服に入りきらないほどの品々が手品よろしく出てくる。

「アイテムボックスか…」

「あいてむぼっくすぅ??」

 独り言ちるマックと言葉の意味を理解できないセラ、ロムは商隊を眺めていた。


「嵌められたってのも、もっともな話か…」

「ハメラレタ??」

「あぁ、こっちの話。」

「???」

 セラの視線に気付いてマックが慌てて誤魔化すのだった。

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