永禄5年(1562年)

第129話 お爆竹の馬揃えは派手に華やかに行ったぜ

 さて年が明けて永禄5年(1562年)正月恒例の宮廷行事や正月の挨拶、正月評定などを行ないつつ小正月に行われる”お爆竹”の準備を進める。


 信長の馬揃えは朝廷への圧力と言われることがあるがそんなことはなく、安土で行われたお爆竹に馬揃えとしての要素を強めて行わせたのは信長だが、その様子を聞いて立入隆介たちいりたかすけを安土に遣わし、京都御所の近くで再現してほしい、我々も見たいと言ったのは朝廷であるのだからかなり的はずれな意見だと思う。


 むしろ毛利の元で将軍復帰を狙う足利義昭や将軍を担いでいる毛利などの西国大名への牽制である可能性のほうが高いだろうし、翌年本能寺の変を起こす明智光秀は割と真面目に足利・細川の室町幕府再興を考えていたらしい。


 晩年の信長は畿内の貨幣経済をぶち壊したり軍役の負担が大きすぎたりして、領地統治に支障をきたした配下の武将の不満もかなり大きかったらしいしな。


 ちなみに爆竹と言ってもこの時代の爆竹は20世紀のような紙に火薬を詰めて導火線に火をつけて爆発させるものではなく、青竹を火の中に放り込んで”ボンボン”と爆ぜさせるものでその音で魔を払うのだがどうせなら火薬を詰めた爆竹や手筒花火、仕掛花火なども使っていきたいな。


 ちなみに竹で枠を作って火で「薄・桔梗・仙翁花」などの花の形を表す仕掛け花火やねずみ花火、ロケット花火のようなものはかなり前から明から日本に入ってきているらしい。


「日本の争いももうすぐ収まるだろうし、派手にやろうじゃないか。

 各々爆竹を用意し、具足を豪華ににしつらえ、金襴豪華に思い思いの出立ちにて15日には参加するようにせよ」


「あい、わかりもうした」


 朝廷の許可の上で上京の東に馬場を構築させ今上陛下やその臣下のものが観覧されるのにふさわしい仮内裏も建てさせそこに金銀などの装飾も施させる。


 騎乗するものの具足や兜にくわえてその上に纏う装束もそうだが馬そのものの見栄えも重要だ。


 日本各地から名馬を集めさせるようにもさせた。


 そして当日を迎えた。


 馬場の内裏では今上陛下や宮家の方々、殿上人の公家・女官であり陛下の実質的な妻でもある女御・更衣などもいるようだし、馬場の観覧席は満員御礼で馬場まで通じる道の両脇にもそのまわりにも群衆が集まってきているらしい。


 目ざとい商人が酒や食べ物などを売って歩いているようだ。


 もちろん警備は厳重に行わせている。


「盛り上がってるようだし結構結構」


 馬場には青竹4組の青竹でお爆竹が組み立てられ、それを覆うように藁や茅で組み上げられた櫓には今年使った締め飾りや注連縄、扇子、短冊、今上陛下の吉書などが結びつけられている。


「よしこんなもんか」


 金紗の礼服をまとい、柄の部分を金銀飾りで装った太刀・脇差を身に着けて俺も出張ることにした。


 馬場に向かう順番は基本的に古くから島津に仕えているものからで先頭は畠山義弘と薩摩の島津一門衆や種子島・肝付・菱刈などの薩摩・大隅などの国人、それに続くのは肥後守護の菊池やそれに従う阿蘇・相良などの国人、日向の土持、土佐の土佐一条や長宗我部などの国人と伊予の西園寺や河野などの国人、豊後・筑後などの大友に従っていた国人、筑前の守護の少弐や秋月・肥後の松浦党などの国人などが付き従い皆が金襴豪華な衣装や派手な飾りのついた兜をかぶって馬を進める。


 その次は俺が率いる大内・毛利・尼子・山名・細川・三好・畠山・丹後一色・若狭武田・丹波赤井・六角・朝倉などと有力国人などが馬を進めていく。


 その次が一条歳久と上杉家久で今川や徳川・吉良・能登畠山・上杉や美濃・尾張・加賀より東の国の有力国人たちが馬に列を作って進んで、最後は公家や羽林家の公家・坊主などが狩衣姿で馬を進めてその姿を披露していった。


 そしてまずは母衣衆を集めて紅白に分かれ騎馬毬杖を開催させた。


「今上陛下の御前であるからには負けるわけにはゆかぬぞ!」


「おおー」


 これもなかなか白熱した試合であったがこれが宮廷行事として発展しのちの日本母衣にほんぽろになっていくことになる。


「よーし、本番はじめるぞ」


 やがてあたりが暗くなってきた頃に馬場には竹に火薬を詰めた爆竹が爆ぜる音が響き、松明によって青竹の根元の藁に火がつけられお爆竹の炎が燃え上がると共に竹が爆ぜる音が響き渡り、それと共に鶴亀や様々な花の形に組まれた仕掛け花火に火が付き地上の花火として夕闇に染まる馬場に彩りを添えた。


「おお、なんと美しい」


「唐の花火遊びとはこういうものと聞いたことがあるがなるほど素晴らしいものですな」


 俺は更に声を掛ける。


「まだまだいくぞー」


 その掛け声とともに騎馬に乗った男達が竹筒を使った吹き出し花火を片手に入ってくると、それに次々に火が灯され、馬場を早駆けし火の粉を馬場に振りまいた。


「鉄砲大砲用の火薬を惜しげもなく使うとはなんとも鷹司様は剛毅なことだな」


「もう鉄砲大砲は必要ないっていうことじゃないか」


「確かにもはや天下は鷹司様が抑えられたも同然ですな」


 そんな感じで無事にお爆竹は終わった。


 今上陛下より勅使がきたが、陛下はとても感激されていらっしゃったとのことだし派手にやったかいが有ったな。

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