第128話 越後の上杉を降伏させ上洛もさせたのでまずは馬揃えでもあるお爆竹の準備を行うことにしようか

 さて、一度越後へ戻った上杉政虎に対しての恫喝の意味も含め、俺は弟の一条歳久並びに島津家久に3万の兵を持って北信濃への出兵の準備を行うように申し付け、それを商人や旅芸人などを通じて噂を広め、越後や北関東の少大名や国人にも伝わるようにしつつ、実際に兵を集めさせていたが、やがて、本庄実乃、直江景綱と共に本多正信が再び使者としてやって来た。


「ふむ、上杉関東管領はどうされると言われたかな?」


 それに対して本庄実乃が答えた。


「は、家久殿を上杉家の養子として迎え入れ、関東管領職をついでいただく事を受け入れるので、朝敵認定の取り下げと上洛の許可をいただきたいとのことでございます」


 どうやら上杉政虎も観念したようだ。


「ふむ、なるほど。

 では、上杉政虎殿の上洛の安全は保証いたしましょう」


「ありがとうございます」


「俺は先に京へ戻りますが上洛はいつになりますかな?」


「は、我々が戻り次第すぐに上洛を行います」


「ふむ、上杉関東管領のもとで北条と戦っていた下野や常陸・安房や上総の方々も来られると考えてよろしいですかな?」


 本庄実乃、直江景綱・本多正信らは顔を見合わせていたがやがて直江景綱が答えた。


「はは、お館様には下野や常陸、安房や上総の皆様に上洛に従うように伝えていただきまする」


「承知いたしました、従わぬ物は鷹司により討伐するともお伝えくだされ。

 では京にてお待ちしておりますぞ」


「はは、よろしくお願いいたしまする」


 上杉が同盟もしくは臣従させていた連中と共にすぐさま上洛するというのであれば、迎える準備もしなければなるまい。


「ふむこの際馬揃えを行うのも良いかもしれぬな」


 馬揃えは名馬を披露するという意味合いもある軍事パレードのようなもの。


 1184年に源義経が駿河国浮島原で行った馬揃えというのは嘘だが、その元は奈良時代に伝わったペルシャから伝わった打毬ぎっちょうと呼ばれる、馬に乗りながら馬上で毬杖ぎっちょうと呼ばれるラクロスやポロ・ホッケーのような遊び。


 杖を使って、地上に置かれた毬を打って、毬門に入れる競技のために馬を揃えたのが平安時代に変化形式化して”左義長さぎちょうや”ご爆竹”という小正月に行われる火祭りの行事になっていったが、神社では神事として伝え残され、武家では正月の祭りの際に家臣を呼び寄せそれらが乗る馬を集めて祭りのために集まったものへと見せることが続けられていたようであった。


 当然ながら戦国時代などでは具足をまとって馬に乗り行進するわけであるが、この時代の具足や名馬はかなり高価なものでも有った。


 具足の値段はそれこそピンからキリまであるが、大名が身につけるものであれば50貫文から100貫文(おおよそ500万から1000万円)軍馬でも体高が高い名馬と呼ばれるものであれば10貫文(おおよそ100万円)以上したようだ。


 馬の場合は購入する値段そのものよりもそれを調教して能力を維持させるための維持費の方が問題だったりもするので軍馬は具足より安いとも言い切れない。


 やがて秋も終わりに近づいてきたところで上杉政虎あらため出家した上杉謙信や先代の関東管令上杉憲政・東上野の総社長尾氏の長尾景総ながお かげふさ、白井長尾氏の長尾憲景ながおのりかげ、出羽の大宝寺義増、その他佐竹義昭、宇都宮広綱、小山秀綱、小田氏治、それに以前に上洛に応じた上野の館林赤井氏、下野国の那須氏、下総の結城氏、千葉氏、臼井原氏、上総の土気酒井氏、常陸国の大掾氏なども上洛してきた。


 上杉謙信は疲れた表情で頭を丸めており、おそらく上杉の家中の全てを完全にまとめられたわけではないのであろうな。


「鷹司執柄相国様にはお初にお目にかかリます。

 上杉弾正少弼謙信でございます。

 此度はご挨拶が遅れ誠にもうしわけなくございます」


「うむ、上杉謙信殿も今上陛下や公方様のために忠節を尽くそうとしたのでしょうな。

 今上陛下並びに公方様へのお目通りについては俺の方でお膳立てしておきましょう。

 お伝えしたとおり我が弟である家久を上杉家の養子とし関東管領の地位は譲っていただきますが、家久はまだ年若く経験も足りませぬゆえ、後見役として家久を補佐し、朝廷の臣下として関東の諸将をまとめ上げる関東管領や領主、侍大将としての教育をお願いしたい」


 上杉政虎はそういう俺に頭を下げる。


「はは、寛大な処置いただきありがたく思います」


 まあ戦国期における軍事的素質というのは個人的なところも大きいのでうまく伝えられるかはわからんがな。


 俺は近衛前久を通じて上杉謙信を今上陛下にお目通り出来るようにさせ、公方へも目通りをさせた。


 そして上杉が事実上支配していた越後・上野・出羽南部などは上杉をついで関東管領となる上杉家久が直接統治し下野・常陸・下総なども鷹司の支配下に入った。


 後は未だに上洛してこない上総と安房の里見と中野宗時が実権を握っているせいなのかやはり上洛してこない伊達晴宗とそれに従う連中をどうするかだが、来年度の夏にでも討伐するとしようか。


「里見は北条の動きを警戒してるのか時勢が見えていないのかね」


 毛利元就がいう。


「おそらくそのどちらもでありましょうな。

 鷹司とは北条を挟んでるゆえ状況が見えておらぬのかもしれませぬ」


「そういうものであるかもしれぬな。

 まあ良い朝廷の儀式としても重要であるしお爆竹のために新たな馬場を構築させるとしよう」


「それはようございますな」


 まず俺は”来年度はお爆竹を盛大に行うので具足と馬の用意を行うこと”と俺の家臣や臣従している大名、羽林家の公家などに布告し、大きな馬場を造成させることにしたのだった。


 年始は宮廷祭祀で毎年大変だが来年は争いがほぼ収まったことを天下に示せそうだな。

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