第124話 しばらくは加賀を中心とした北陸の治安維持を優先するか
さて、越前と加賀において根切りにした一向一揆に参加した連中の埋葬と、天台宗や浄土真宗高田派、時宗の僧侶による弔いと共に、逃げた本願寺の坊間などへの責任追及を行い、捕らえたものの公開処刑を行った結果として、生き残った民の俺に対しての憎悪などはある程度緩和できたと思う。
加賀の一向一揆を根切りにした柴田勝家やその勝家が秀吉に敗れた後にその後を引き継いだ前田利家も統治には苦労していたようだが、当然ながら統治者は領民の行動などが気に入らなければ殺せばよいというものではない。
それでも加賀の一向宗は根切りにせざるを得なかったのだがな。
「とりあえず加賀での刀狩りを徹底せよ、刀を鍬に持ち替えさせ他人から奪うことではなく、土地から実りを得させることを再教育せねばならん」
「かしこまりてございます」
「古の唐国の法三章にある殺すな・傷つけるな・盗むな。
最低限北陸の民衆にはそれを叩き込まねばな」
ある意味武家というのはいろいろなものを他人から奪うことで生活が成り立って入るわけでもあるが、一般大衆からはそういったことを禁止せねば農業を主とした社会が成り立たぬ。
だからこそ南無阿弥陀仏を唱えればどのような悪行もすべて許されるという一向一揆は殲滅せねばならなかったのだが。
しかし、その本拠地の加賀の衆徒が殲滅されたことで後はなんとかなるであろう。
そんな中で俺に会いに来たものが有った
「お館様、飛騨の内ケ嶋氏理がお目通りを願っております」
内ケ嶋というと飛騨の北西部の白川郷の統治者で、囲炉裏での硝石の培養法を伝えていたことで有名だが、そこには当然一向宗とのつながりもあったし、白川郷の近辺には上滝金山、落部金山、六厩金山、森茂金山、 片野金山、横谷銀山、天生金山などがあり、川では砂金が採れる鉱物資源の豊富な土地である代わりに農作物を育てる土地には不足している場所だ。
「ふむ、よかろう会うとしよう」
「お初にお目にかかります。
内ヶ嶋兵庫頭でございます。
鷹司執柄相国殿へのお目通りが誠に遅くなり申し訳ございませぬ。
せめてもの償いとしてこちらの金銀をお収めくださいませ」
結構な量の金銀を持ってきて入るようだな。
「ふむ、そちらは照蓮寺を通し越中や加賀の一向一揆と組んでいたはずであるが、俺に今更なんのようであろうかな?」
「私のような小さな土地しか持たぬものでは一向宗に逆らうことは出来なかったのでございます。
その一向宗を草でも刈るように根切した鷹司執柄相国に逆らえるわけはございませぬ。
どうかその下へとつかせていただきたく」
「ふむ、では一向宗とは手を切ったと言いたいわけか」
「はい、そのとおりでございます。
何卒遅参したことをお許し願えれば」
「まあ、よかろう。
そのかわり帰雲山城からの城下町の民を含めた移転を申し付ける。
代わりに照蓮寺とそれに従う者たちをそちらへ入れるがよかろう。
また、飛騨における一向宗の統制はそちらで取るように」
「か、かしこまりました。
ではこれにて失礼いたします」
のちの天正13年(1586年)に天正大地震が発生したときに、帰雲城が帰雲山の山崩れによって城主内ヶ嶋氏理とその一族に加え城下町のものはほぼ全員行方不明となり、内ヶ嶋氏は滅亡しているがこれで予め対処はできるだろうか。
この地震では伊勢湾や若狭湾での津波による被害も小さくなかったようであるしな。
そして史実において加賀の一向一揆が鎮圧された後は、飛騨の一向一揆は目立った動きは見せていないようでもあるし、とりあえずは彼に任せておいてもおそらく大丈夫であろう。
「ま、必要以上に民衆に好かれようとする必要もないが恨まれるのは良くはないからな。
国人や大名相手でもそうだが」
こういうことに関しては豊臣秀吉は本当上手くやったもんだ、秀頼が生まれる前まではだが。
だが信長も相手より優位な状況以外では頭を下げ、相手よりも優位になったときに果敢に攻め滅ぼすということをなるべく行うようにしている。
信長はそれを徹底できたわけでもないが状況が許さないのも有ったろう。
さてここから越中の椎名や越後の長尾の討伐に出るとしても北陸道は大軍の移動に向かない。
なので北陸は牽制レベルに抑え、陸路では東山道から信濃を北上していきそれと共に水軍を動かして海路で佐渡を抑えた後に、揚北衆などを調略しつつ上杉の背後を脅かすべきであろうな。
越後上杉にも水軍はあるが規模はそこまで大きな物でもない。
「越後を攻める前に能登畠山と越中神保の処遇も定めねばな」
現状能登の畠山の方は加賀の一向一揆が討ち取られ、能登の反乱にそれが大きくかんでいたこと。
そしてこのままでは俺に根切りにされると言うことを伝え聞いているのもあるが、能登の一向一揆の影響は一郡とそこまで大きくなく畠山は武装解除に成功しているようだ。
だが、越中の方はあまりうまくいっておらぬらしい。
越中の一向一揆は勝興寺と瑞泉寺のもとで強大な勢力を維持しており、本願寺直系の加賀一向一揆とは必ずしも仲が良かったわけでもないのも災いして、神保による武装解除に抵抗しているようだ。
「さて神保はどうするかね」
もう一度一向一揆と組むなら叩き潰し、手に負えぬと泣きついてくるなら改易が妥当だろうな。
能登も珪藻土の入手先や日本海の水運に重要な輪島港など、奥能登は直轄とするつもりではあるがまったくもって一向一揆の対処は面倒なものだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます