第120話 奥羽から上洛するものもあればせぬものもあるか、そして上杉も京へやってこなかった
さて、越前の朝倉・関東の後北条に続いて、出羽の最上義守(もがみよしもり)・義光(よしあき)親子が上洛して挨拶にやってきた。
「お初にお目にかかります。
最上修理大夫でございます。
こちらは我が息子出羽侍従。
そろいて挨拶をさせていただきます」
「出羽侍従にございます。
どうぞよしなにねがいます」
「うむ、遠路はるばるよくこられた」
最上氏は、清和源氏の足利氏の支流で、三管領の一つである斯波氏の分家にあたる。
そして室町幕府の羽州探題を世襲できる家柄でもあり結構中央とのつながりは深い。
また羽黒流と呼ばれる出羽三山のひとつである、羽黒山の山伏の一部を諜報員として召し抱えてもいることから比較的中央の情勢には明るいはずだ。
「最上家の現所領は鷹司の名において安堵いたしましょう。
もし最上家の所領を攻撃するのもがあれば、鷹司の名において仕置をいたしましょう。
しかしならば、これより最上も不要な争いを起こすことは厳禁となりますので注意なされよ」
「は、かしこまりてございます」
その後には陸奥北部を統一した南部晴政(なんぶはるまさ)、出羽北部の檜山系と湊系の安東氏を統一した安東愛季(あんどうちかすえ)、佐竹と敵対している蘆名盛氏(あしなもりうじ)、最上と同族である葛西晴信(かさいはるのぶ)、伊達と敵対している相馬盛胤(そうまもりたね)などもやってきたので彼等の所領安堵を行なった。
今回上洛しなかったのは上杉政虎、その配下である本庄繁長と縁が深い大宝寺義増(だいほうじよします)、佐竹と同盟関係にある伊達晴宗(だてはるむね)、伊達と関係が深い大崎義直(おおさきよしなお)、二階堂盛義(にかいどうもりよし)や岩城重隆(いわきしげたか)などだ。
関東では里見義弘、佐竹義昭、宇都宮広綱なども上洛しなかった。
「ふむ……上杉に佐竹と伊達、それらに関係の深いものは来なかったか」
上杉にも伊達にも諜報員はいるはずなのだがな。
だが織田信長が事実上の天下人となった後、奥羽から信長のもとへ挨拶しに行くものは多かったが上杉や伊達、佐竹などは織田信長のもとには挨拶にいっていなかったようだし仕方ないのであろう。
上杉は関東管領、伊達は奥州探題であることから俺になど従えぬと考えたかもしれぬ。
それに上杉政虎はお手紙公方を見捨てることは大義名分を立てるためにも出来なかったのであろうな。
「まあいい、上杉やそれに協力する連中がどう動くかが問題だが……」
俺は角隈石宗、岩切善信、川田義朗、楠正具などを集めて俺は上杉の行動を予測することにした。
「今回上洛してこなかった上杉政虎は今後どのように動くだろうか?」
角隈石宗がまず答える。
「越後を含めた東国は飢饉が続いておりますゆえ、上杉政虎は作物の収穫後に関東に侵攻し略奪を行うのではないかと。
そうしなければ領民を食わせてゆくことは出来ますまい」
ふむ、実際この頃の北条氏康は毎年のように秋になると襲撃してくる上杉と、それによる田畑狼藉や乱妨取りとそれによる北条氏と上杉氏の間で離脱従属を繰り返す国人衆の統制に悩んではいたはずだな。
「ふむ、とりあえずは食わせねば越後の国人衆もついては来ぬであろうからな」
しかし楠正具がそれに異を唱える。
「しかしながら、矢島公方足利義昭の願いは速やかなる上洛と自らが公方に成り代わることかと。
であれば東山道を進んで軍を京へ進めようとすることも考えられるかと思います。
古の北畠顕家命が行ったように」
「ふむ、一度三好を京より追い出した実績もあるからにはその可能性も捨てきれぬか」
上杉政虎が関東管領としての大義名分を優先するなら関東の制圧を優先するだろうが、お手紙公方の要請を優先するなら京に入り俺と現公方足利義栄を追放して足利義昭を擁立しようとするかもしれないな。
実際古河公方の首をすげ替えたばかりでもあるわけだし。
「なるほど、北信濃や越中から飛騨を経由して美濃に至れば山城はすぐというわけか」
「はい、ですのでこの際は美濃にて迎撃を行うのがよろしいかと」
「北畠顕家と土岐頼遠らの青野原と同様というわけか」
関ヶ原とは同じ郡だが違う場所であるとは言え、関ヶ原の戦いは青野原の戦いと伝えられたように美濃は交通の要衝であり、迎撃をするとしたらここが一番良いのであろう。
「そうなるかと思われます」
「たしかに京の都にこもって公方を守ろうとしては不利になるであろうからな」
三好と六角なども京を巡って争っているが京は四方八方から攻め寄せることが可能なので防御には非常に不向きな場所でもあるし、市内に入られて略奪をうけては意味がない。
もちろん一向宗と手を結んで越中・加賀・越前経由というルートもありえなくはないがそちらには5万からなる大規模な軍を送ることをすでに予定済でわざわざそちらへ突っ込んでくる可能性は低いだろう。
北条・今川・一条歳久などを蹴散らして東海道を進むというのは兵站を考えても難しかろう。
「では北陸の一向一揆を討伐するための軍と飛騨の姉小路嗣頼(あねがこうじつぐより)、江馬時盛(えまときもり)に再び上洛を促すことにするか」
「それがよろしいかと」
飛騨の連中が上杉から離反すればよし、離反せぬならばその時は一緒に打ち破るしかあるまい。
いずれにせよ日本では大軍を展開できる場所はさほど多くはないのでどうしても同じような場所が戦場になるのだがな。
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