第115話 まずは石山の土地を本願寺から奪って本拠としよう、その頃の弟たち

 さて、播磨が遠江と同様に同格の国衆どうしでの大きな内乱にならぬように、俺自身が姫路城にはいって赤松宗家と赤松庶流の仲を取り持ちつつ、播磨の火種を鎮火させ、摂津の淀川の私的な関所を潰して小規模な反乱を鎮圧することで播磨と摂津の平定は完了したと思う。


 そして次の本拠地についてだが……。


「やはり淀川河口の大坂に本拠を置きたいところだな。

 石山本願寺は京の都にもう一つ本願寺を再興させてそこへ移ってもらうか。

 まずは今上陛下などの許可を取らねばならぬが」


 臼杵鑑続はうなずく。


「左様ですな。 

 もっともそう簡単に石山から退出はせぬかもしれませぬが」


「確かに石山は交通と経済の要衝であるがゆえに、本願寺もそう簡単には譲り渡したくはないではあろうな

 最悪は武力で追い出さざるを得ぬか」


「そうならぬのが一番ではございますな」


「うむ、そうであるな」


 俺は京に上洛して近衛前久に提案してみた。


「石山を本願寺に押さえられたままではいざという時に淀川の水運も全て止まりかねませぬ。

 そうなれば京の民は飢えに苦しむことにもなりましょう。

 現在石山にいるものも新たに山城に本願寺を立て、山城の国の中で本願寺を分けつつ彼等を監視したく思いますがいかがでしょうか?」


 と提案してみた。


 実際には本願寺の武装・合戦の禁止、派閥・徒党の禁止、年貢不払いの禁止、新しい坊の建設禁止などはまもられているのだから言いがかりではあるが。


 これに対して近衛前久は


「ふむ、まあ良いのではないかね、

 山城の新たなる本願寺の御坊についてはそのほうで建てさせるのであろうな」


 と言ってきた。


 比叡山延暦寺や興福寺がおとなしくなっても、そのかわりに石山本願寺が暴れるようでも困るからだろうか。


「はい、こちらにて石山本願寺の住人の移動先は提供いたします」


「うむ、ではそのように進め給え」


「ありがとうございます」


 というわけで西本願寺が本来立つ場所に新たに南本願寺を立てて、石山からは移動してもらうことにする。


 石山は戦略的観点から言っても本願寺にこのまま押さえられているのはまずい場所だ。


 なにせ淀川の河口の上町台地にたっている石山御坊は京の都と堺の通過点でもあるのだからな。


 伊勢長島の一向一揆は伊勢湾からの木曽川などの水運を完全に停止させることで、美濃一色に致命的なダメージを与えたが、流通の要である川の河口を押さえるというのはその河川における流通と経済を押さえるということでもある。


 織田信長が本願寺と10年にわたって戦い続けたのは一向宗を滅ぼしたいからではなくて、石山の土地を押さえたいがためだったわけだ。


 そして山科に対して京の南の土地に立てたことで、南本願寺と呼ばれる建物が完成したと共に石山本願寺への使者を送る。


「山城の南本願寺を立てましたので実如殿を含め石山よりの移動をお願いいたします」


 実悟は渋い顔だ。


「どうしても我々は山城に移動せねばならぬのかね?」


 まあ、京は日蓮宗の影響が未だに強いからな。


 もちろん経済的な要衝である石山からは移動したくはないだろう。


「ええ、ぜひともそうしていただきたいのですが、お互いのためにも。

 ああ、長いこと使っておらぬ大砲をたまには試し打ちしておく必要はあるかもしれませぬな」


 史実では毛利や各地の一向一揆により織田信長と長く戦い続けた石山ではあるが、現状では戦力として当てに出来る場所は少なく、月山富田城の末期の様子を伝え聞いていれば籠城しても勝目はないと思うであろう。


 細川晴元は石山本願寺をたびたび攻撃しても落とせなかったとは言え、その時と状況は全く違う。


 山科と石山で分割されている上に周囲はすでに鷹司がほぼ完全に平定しているし、紀伊や大和などの一向宗寺院は破却され河内などの一向宗は大和に攻め込んで島津に多数斬り殺されている状況では、石山が滅ぼされれば山科が幅をきかせるだけでもあろう。


「……わかりました山城へと移動いたしましょう」


「うむ、ご理解いただけ光栄ですよ」


 石山本願寺と無駄に戦わずに済んで良かったぜ。


 もともと半端な城よりも堅牢な作りの石山御坊を焼いたりすること無く占拠した俺は姫路城から本拠を移し、建築物を改修して新たなる本拠としたのだった。


 もっともこの時代だと寺を一時的な本拠地にすることは特に珍しいことでもないけどな。


 この頃、九州の大宰府において、弟の畠山義弘は朝鮮半島の状況の報告を受けつつ、九州の統治や明や琉球、女真との交易を統制していた。


「ふむ、全羅道においては中央から派遣された両班の排除はほぼ完了。

 地元の有力な者による統治に置き換わっていると」


「はい、慶尚道においても有力商人が両班を排除して新羅自治政府を名乗っているようです」


「なるほど、あのあたりはもともと商人が活発に活動していた地域であればおかしなことではないな。

 予定外ではあるが悪くはない。

 そして彼等はこちらとの交易を望んでいるのであろう」


「はい、対馬経由での商売のみならず釜山での商売の再開の用意もあると」


「それについては今のところはやめておこう。

 その他の地域についてはどうか?」


「は、平安道ならびに咸鏡道においては豆満江以北は女真勢力により奪取された模様ですが、こちらも中央から派遣された両班の排除はほぼ完了し独立を果たしたようです。

 鉄や石炭、金などの採掘に目の色を変えているようですな」


「ふむ、朝鮮半島において北と南は独立成功といったところか」


「はい、黄海道において林巨正の反乱の影響も大きくなっているようです」


「もはや李氏朝鮮の命運は尽きたかもしれぬな」


「そうかもしれませぬ」


 一方、遠江に派遣された一条歳久は、遠江の治安維持を進めつつ甲斐の武田の取り込みのために躑躅ヶ崎館の跡地へ武田晴信を祭神とする武田神社を建築することにした。


「難治の土地である甲斐を富ませた武田晴信公の霊を鎮めるために神社を創建する。

 我々鷹司もそのための銭は出すが地元の皆さんにもぜひ協力を願いたい」


 それに対して地元の有力者は諸手を挙げて賛成した。


「晴信さまの神社を作るならぜひ銭を出させていただこう」


「ならばこちらは人足を派遣させていただく」


 などと甲斐の領民には武田晴信はやはり慕われていたらしい。


 割と信濃の領民などにはひどいこともしていたんだけどな。


 何れにせよ今川に攻められて滅んだ武田家を名目上復活させ、武田晴信を祭神として祭り上げることは甲斐の領民に悪い思いは与えないであろう。

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