第108話 結果的に寺の権威権力を結構そげたし市を管理することにするぜ、美濃では君側の奸を討つことになった

 さて、比叡山の悪僧共が毒酒を飲んで死んだ件は、比叡山やその他の寺院の権威を大きく失墜させた。


「うむ上手くやってくれたようだな」


 俺に状況を報告する宇喜多直家と毛利元就たち。


「はい、延暦寺のみならず、その他の寺社に対しても今回の強訴にて悪僧共が酒を飲んで死んだことは影響を及ぼしておりますし、更に追い詰めるようにしております」


「あまりやりすぎないようにな」


「ふふふ、わかっておりますとも」


 うん、ニヤッと笑って、お前さん達二人が言っても説得力がまったくないよ。


 で彼等が行ったことなんだが……、次のような噂を広めたのだな。


 ”すなわち仏教徒が、酒を自ら造り、他者に酒造法を教え、麹米などを酒の原料として所有し、酒造器具を所持し、酒を作るために必要な原材料を保持し、酒を販売せずとも他者に酒を与え、他者に酒類を販売させ、酒類を販売した場合の利益を計ること、酒類の販売価格ならびに内容量を決め金銭の授受をすること、これらは大変な重罪であり、酒類を飲むことはそれにくらべれば軽罪であるとお釈迦様はおっしゃられた。そして罪人のつくった酒や麹を用いた味噌を食べるものには必ずや天罰が下るであろう。実際知人の友人の父親が聞いた話だとどこどこの酒蔵の酒を飲んだものは狂って死んだらしい”


 と仏教の十重禁戒(じゅうじゅうごんかい)に酤酒戒、すなわち酒の売買をしないという項目があることをついたものだ。


 十重禁戒は本来は特に天台宗系や真言宗で重んじられ、浄土宗や曹洞宗・臨済宗などの禅宗でも、守るべき戒とされているのだな、ほぼ守られていないのが戦国時代の日本の仏教の実態だが。


 そして噂の元がはっきりしないのはこういった風聞の常ではっきり言えば風評被害を撒き散らしてるわけで、もちろん流しているのは宇喜多直家や毛利元就の手下の忍びや行商人などだが、坊主がつくったり坊主が関わってる座の酒を飲むと仏罰が当たると信心深い敬虔な信者は本当に思ったし、それを酒を売る坊主が仏罰を否定すれば自分の身を守る権威を否定し、仏罰はあると言えば酒を買うものがいなくなるのだった。


 そうして実際に酒の席で酔っ払ってろくでもないことをした事がある過去があったりすれば、あれば仏罰だったのかと恐ろしく感じるものだしな。


「効果は抜群だな」


「ええ、そもそも坊主は坊主としての戒律を守るべきなのですよ」


 これによって寺院が持っていた酒・麹・味噌などの座の特権は崩壊した。


 飲んだら仏罰があたり死ぬかもしれない酒を誰が買うだろうか?。


 結果として酒蔵は酒を扱っていた商人が管理を引き継ぐが、そこに坊主が利益的に絡むことはできなくなったのだ。


 もっともこの時代には他にも多数の座があり油や絹などの座はそのままだったから、寺院の門前町での収入がまったくなくなるわけではないが。


 そもそも座というものが古来から存在する理由もちゃんとある。


 市場での市場原理に逆らって武力で言うことを聞かせようとするものに対してはやはり武力が必要だ。


 そして法外に高い値段で押し売りをする商人は史実での南蛮商人などはともかく普通の座にはいない、それをやれば締め出されるからな、だが逆に法外に安い値段で押し買いをする買い手や店主に対しての乱暴狼藉強盗の類を行われないようにする必要はあるのだ。


 もともと市には決まった定価と言うものはない、購入価格は売り手と買い手の目利きや交渉次第だがそれを暴力で無理やり安値で商品を買ったことにする連中が出たら商売にならないからな。


 坂本や京の東西の市は俺が直轄して管理することにしたが、押し売りは当然として押し買いや乱暴狼藉強盗も徹底的に禁止し場合によっては斬り殺しても良いとした。


 もっとも権力や武力を用いて強引に高価なはずのものを買いあさるためのは武家が多くて「公方買い」やら「守護買い」やら言われてるのは皮肉でもあるがな。


 平和的なやり取りのためにこそ暴力が必要というのも皮肉なものだが、武とは本来矛を止めるという意味で平和の手段なのだ。


 だから商人が自治が可能なくらいの規模がある港町か寺社の後ろ盾というものがいままでは必要だったのだな。


 全くもって経済とは複雑なものなのだがシンプルに言うならば取引される商品の需要と供給と取扱に必要な銭と公正な取引が行われる環境を整えてやるのが商業の推奨には大事だと言うことだ。


 で、これをきちんと行えた戦国の大名ってものすごく少ないのだな。


 大内家や結城政勝、安土山下町中掟書を書いた織田信長や豊臣秀吉くらいか?


 ちなみに近江では六角の家中は義賢にはもう従えんという家臣国人もでてきているようだし、北近江の浅井や西近江の高島七頭も俺に六角からの独立を認めるように言ってきている。


 六角とは和睦しただけで敵対はしていないが島津に臣従しているわけでもないので、現状は微妙なところだ


 最も高島七頭は足利義秋を支持するものもいるのが面倒なところでもあるがな。


 四国三好や三好宗家と畠山は実質的に島津の下についてるけどそうでない六角とは浅井と同盟しつつ戦うことになるかもしれないな。


 それから美濃の一色からは人材が流出してきてるな。


 尾張では森可成、丹羽長秀、坂井政尚(さかいまさひさ)、斎藤 利治(さいとう としはる)などが俺の下に下った。


「もはや龍興様では美濃はおさまりませぬ」


 一色龍興は己の耳に良いことを言うものを重用していたというが、特に斎藤飛騨守秀成と呼ばれる男は周りに反感を受けているらしい。


 というか10歳の当主に実権があるわけもないから、側仕えの者たちが好き放題しているのではあろう。


 そして一色の家中は島津につこうとするものと、それに反対するもので分かれているが、反対派のほうが少数であるらしい。


「ならば君側の奸を討つべきであるか?」


「はい、そうでなくば美濃と信濃からまた乱れましょう」


「ふむ、分かったでは島津は一色の内部の君側の奸を討つ!」


「おお、ありがとうございます」


 まあ、名目はそうしておかないとな、結局いつものように幼い当主をかつぎあげて美濃や西尾張の斎藤の直轄地は結局俺の直轄地になる予定だ。


 そして信濃の国人たちは一色の内紛に乗してそれぞれ独立を宣言しているようだ。


「諏訪の土地を取り返せるのももうすぐかもしれないぞ」


 諏訪勝頼は若狭などでも活躍しているので諏訪の土地を継ぐのに問題はなかろう。

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