第96話 さて、本願寺を分裂させて長尾や美濃一色に文をおくりつつ山口に帰るついでに三好長慶にあっていこうか
さて、朝廷や幕府との交渉ごとは終わったし一旦山口に帰る前に本願寺に関しての始末を朝廷と公方に提言しておこうか。
”全国にて一向一揆を蜂起させたのは既に亡き証如であるが、一向一揆により重大な損害が出たことを軽く見ることは出来ない。
それ故にそのあとを引き継いだ顕如及びその祖母、慶寿院鎮永尼と、その師である実従を石山本願寺より退去。
山科本願寺を再興させそちらへ移動するものとする。
末寺・門徒は近江美濃尾張三河方面の寺とする。
そして今後十年、山科本願寺は世俗権力の争いに介入せず一揆も行わないとしないと宣誓させる。
石山御坊は蓮如の息子実悟に入ってもらい末寺・門徒は北陸方面の寺とする。
このように山城と摂津で本願寺を分ける。
そして実如が行った改革を双方はすすめるものとする。
このような差配はいかがでしょうか?”
と提案してみた。
実如が行ったのは、武装・合戦の禁止、派閥・徒党の禁止、年貢不払いの禁止、新しい坊の建設禁止などだが、これが続けられてれば面倒なこともなかったろうな。
これに対して近衛前久は
「ふむ、まあ良いのではないかね、朝廷への献金は良いが争うのは良くないからな」
という反応であったし、足利義輝は、
「うむ、早速そうすべきであろう。
山科本願寺の再興は島津がやってくれるのであろう?」
と言うものだった。
一向一揆で流通が妨げられたのは朝廷にとっては手痛い出来事であったし、公方にとっては一向一揆がなければとっくに三好を追い落とせていたろうから憎く思ってるんだろう。
本願寺が山科へ本拠が戻ればむしろ監視や管理が簡単になる上に本願寺が妙な動きを見せたら武力で攻撃もできるだろうし。
早速それは実行されることになり、俺は山科本願寺を再興させた。
顕如達は京に移るついでにということか三条公頼の娘で六角定頼の猶子となった如春尼が顕如と結婚し山科本願寺に輿入れした。
これで六角は一向宗徒を手駒に出来たし、山科本願寺も比叡山延暦寺と単独で立ち向かうことにならなくてすむようになったし、三条は本願寺から金の援助をえられるようになったわけだ。
そして長尾と美濃一色に文を送っておくことにする。
”当方但馬の山名、丹後の一色の討伐を公方より任ぜられたゆえそれが終わった後に今川や北条討伐の兵を挙げる時期について相談したく。
また文をおくらせていただく所存”
とまあすぐ攻めるにしても長尾や美濃一色と攻撃の時期の歩調を合わせたり国人への通知をしてもらうためにやり取りは必要なんだが、現状では本当に後顧の憂いを取り除かないと駄目だからな。
今回は俺たち兄弟が既に妻を迎えていることも有って特に妻をとか言ってくるやつはいなかった。
そう言えば京にはいなかった三好長慶にも挨拶しておかないと駄目だな。
年始が終わって町資将や西園寺実充・一条房通、貧乏公家などは既に先に仕事のために戻っているから付き従ってるのは警護の兵だけだが。
「一旦、摂津の
「わかりました」
予め使いを送っておいて芥川山城へむかう。
そして場内で面会した三好長慶は疲れてはいるが憑き物が落ちたという感じでは有った。
「これはこれは島津内府殿。
随分と久しぶりな気がしますな」
「三好修理大夫とお会いするのは七年ぶりでございますからな」
「うむ、あの頃とはお互いだいぶ変わったものよな。
まあ、島津内府殿はもうおわかりだろうと思うが山城では生まれた家で全てが決まる。
朝廷や室町殿やそれに求められた家の生まれのみ頭を下げる者たちばかりだ」
しみじみという三好長慶は7年前にあった時に比べて何かを悟ったようであった。
「我々は黙って銭さえ差し出せば良いと」
「うむ、まあそうだな。
公方が御所へ戻った後各地から上洛してきたものは今上様にお目通りをした後公方にも同じようにしているが公方がいなかった時に私に会いに来たものはいなかったからな」
そう言えば俺も前回はあってなかったか、といってもちょうど三好が出兵中だったんだよな俺の場合。
「それは……」
「いや、島津内府が京にいたときには私が京にいなかったからな。
だが私が京にいても誰も面会など求めてこなかったのだよ。
三好は細川の陪臣であるという認識は他の大名たちには変わらぬ認識であったらしい。
だから私は室町殿の中枢から外れることにしたのだよ」
「なるほど、もっとも現在も堺などをおさえている以上細川の下に戻るつもりはないということですな」
「うむ、やはり父の敵であるからな。
それはそうと本題は何かな?」
「ああ、九州や西四国、中国地方の商人と堺や尼崎などの商人の間で割符を許可してほしいんだ。
重い銭を運ぶのは大変なんでな」
割符というのは為替もしくは手形や小切手のようなものだ。
商取引や寄進に銭は必要だが、高額な商品を購入しようとすると大量の銭を準備しなければならないが銭はとても重い。
そのために金や銀を使った商取引の制度も進めてはいるがまだまだ追いついていないのだ。
なので商取引の際にはまず商品を買う側が割符屋に銭を預け必要な金額分と受取人の名前の書かれた証文を割符屋に発行してもらい、それを売る側にわたし、売る側が地元の割符屋で銭を引き出せるようにするもの。
もちろんそれだけでは手数料程度でほとんど稼ぎにならないが多額の金を扱っていれば手元に残る金も多くなるからそれを元手に金貸しを行ったり別途の商売を行ったりするわけだ。
要は銀行みたいなもんだな。
「ふむ、加治木銭の鋳造権を私にももらえるということかな」
「ああ、ついでに公方様や朝廷への寄進もしてもらえると助かるぜ。
ただあくまでも堺衆には良銭で作らせてくれな。
悪銭じゃあ、割符の意味がない」
「ふむ、良かろう。
それについては話を通しておく」
「ありがたい、では失礼させてもらう」
「うむ、達者でな」
こうして堺などをおさえている三好長慶と割符手形での取引を行う許可をもらった。
これからは重たい銭を運ぶ必要が省けるはずだ。
手数料がかかっても運んだりする人員や馬などにかかる金を考えればむしろ安いってもんだ。
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