第93話 上洛して重要な宮中祭祀である新嘗祭を復活させたぜ

 さて上洛をするにあたり現状の再確認をしてみよう。


 九州は肥前を除けば島津の安定した勢力圏内と言えるが、朝鮮半島は絶賛大規模に内乱の発生中。


 まあ、内乱と行っても実際は俺が朝鮮水軍を叩きのめした後に、大内や狛などを放り込んだせいではあるが、そもそもその前から林巨正の反乱が起きていた時点で国内の不満は爆発寸前だったんだろう。


 女真とは明の総督を通じて高句麗が再興したら交易を増やし総督へ利益供与することでとりあえず現状介入をしないようにさせている。


 もっとも女真族が明の完全な統制下にいるわけでもないとは思うけど。


 四国は本山が滅んで以来反乱が起きるような気配はない。


 ま、皆殺しにはされたくないよな。


 三好も特に西四国に攻め入ってくるつもりはないようで、特に土佐は貧しいから細川は撤退したんであるから現状では当たり前ではあるが。


 中国の統治も大分落ち着いてきたし、九州の中の火種になりうる肥前も龍造寺が朝鮮にいって野心の大きいものはそれについて行ったから、後は既得権益の確保さえできていれば問題はなさそうだ。


 そして安芸の毛利元就は家督を嫡男である隆元に完全に譲って楽隠居を決め込むようだ。


 尼子と大内に挟まれて家の存亡をかけて謀略に生きてきた元就だが、いい加減疲れたのかもしれんな。


 出雲の尼子国久は吉田に名を変えて尼子と距離をおいたが尼子も現状は不穏な動きはしていない。


 宇喜多は備前東部や播磨西部を順調に切り取ってるようだ。


 因幡は担ぎ上げてる因幡山名家の勢力下にあり但馬山名家とはにらみ合いの途中。


 伊勢の北畠は冬に入り兵糧が尽きたことで降伏開城した。


 伊勢においての北畠の名は未だに強い影響力があることからも北畠具教きたばたけとものりの命は助けるが隠居させて、嫡男の北畠具房きたばたけともふさを名目上の当主として担いでおき、伊勢と志摩の主要な港や伊勢神宮など所要経路の街は島津の直轄地として抑えることにした。


 こうして南朝から生き残った最大勢力であった、名門北畠家は島津の傘下に入ることになり雑賀・熊野・志摩などの紀伊半島の主要な港は島津の勢力下に入った。


「まあ、現状なら上洛してもしばらくは問題はなかろう」


 俺は以前と同じように船で京の都を目指すことにした。


 いままでの上洛でも一緒について来た町資将や西園寺実充・一条房通などを山口で迎え入れ、ゆうゆうと京へと向かう。


 もちろん今回も彼等の旅費食費などの上洛の経費は全部俺持ちだ。


「今頃の京は寒いのは難儀ですな」


「とはいえ京はやはり良いですからな」


「全くですな」


 ホホホと本気なのかおためごかしなのかわからんが、愛想よく笑い合う公家たちとともに貧乏公家たちのなかにも一生懸命働いて手に入れた銭を持って京の実家に戻る者が結構いるようだ。


「うーむ、山城で加治木銭が通用するかな……」


 俺が実効支配している地域では通用するが、そうでない場所では使えるかどうか結構微妙だ。


 質的には問題ないようにはしてはいるけど、このあたりは今上陛下なり将軍様なりの考え一つだとは思う。


 もっとも鐚銭よりはずっとまともだとは思うんだけどな。


 そして山口から瀬戸内を経由し堺に到着すれば船を川船に乗り換え、銭や献上品も載せ替えて川を登って京へ向かう。


 面倒だが町資将などを通して関白左大臣になった近衛前久、右大臣の西園寺公朝、幕府の実質的な権力者である三好長慶や将軍足利義輝などにも百貫ほどの宋銭と木炭、絹織物や米などの食糧を送って官位奏上の根回しをしておいた。


 いや、別に俺はもういいんだよ。


 ただ弟たちにはそろそろ高い官位が必要になってきてると思うんだよな。


 いままでのパターンから言えば今上陛下が弟達や俺に下った有力な守護や国人に対して相応な官位を与えることを嫌とはいわれないであろう。


 今回は石見などの銀山も手に入れたので寄進するのは銭6千貫文分にプラス食糧や絹織物などもつけたぞ。


 そして今回も今上陛下に拝謁がかなったのだ。


 俺は御所で玉砂利の上に平伏して御簾越しに拝謁をしているところだ。


「今上陛下、ご出御」


 今上陛下の側付きである女官の声とともに、御簾の向こうで衣擦れの音がかすかに聞こえ誰かがそこに座るのが聞こえた。


「島津権大納言義久。

 米俵、干鮑、干し海鼠、干し椎茸、並びに絹反物のご寄進」


 近衛前久がやはり扇で口元を隠しながら言う。


「うむ、今上陛下においてはそちの寄進を許すとのことである。

 ありがたく思い給え」


 俺は口上を述べる。


「は、今上陛下におかれましては、

 ご機嫌麗しく恐悦至極に存じ奉ります。

 此度は我が弟達並びに家臣に過大なる官位を頂いた上で今上陛下への拝謁を許可して頂きましたこと、誠にありがたくそのお礼を言上する為に、罷り越しました」


 二条晴良は扇で口元を隠しながら言う。


「うむ、島津権大納言、この度の遠方よりの上洛と寄進遠路遥々大義である。

 まずそなたには従二位・内大臣・左馬寮御監・志摩守・美作守・鋳銭司じゅせんしの位を授けるものとする。

 そちの弟である畠山義弘には従三位・右馬寮御監の位を。

 一条歳久には従五位上・左馬頭・土佐守の位を。

 島津家久には従五位上・右馬頭・周防守の位を。

 それぞれ与えるものとする。

 そしてこれからも御意に従い天下の敵を討伐せよ。

 そして必要に応じて銭を鋳造しこれからも藤原の家令として国司の任に努めよとおっしゃられている」


 この時代における左馬頭は本来副将軍的な代理になり得る存在、あるいは次期将軍が就任する官職と見なされたはずなんだが、俺が左馬寮御監、弟たちが右馬寮御監や左右馬頭と言うのは本当に室町幕府と手を切って島津を朝廷の新たな財源としたいらしい。


 さらに与えられたのは鋳銭司などという、ずっと昔になくなった銭貨鋳造を行う令外官任命するとはね。


 現在の将軍である足利義輝は京に戻った後に従三位権大納言、右近衛大将をあたえられてはいるはずだがどう思われるやら。


 その他に毛利隆元が安芸守・吉田(尼子)国久が出雲守・尼子義久が伯耆守・三村家親が備中守・浦上政宗が備前守・仁木長政が伊賀守・北畠具房が伊勢守などを与えられている。


 戸次鑑連は正五位下・兵部大輔、臼杵鑑速は正五位下・式部大輔、吉弘鑑理は正五位下・治部大輔、楠木正虎は従四位上河内守などだな。


「はは、もったいなきお言葉にございます」


「うむ、これからも潤沢な朝廷への寄進を望むと今上陛下はおっしゃられて居ますぞ」


「は、戦にかまけており申し訳ございませんでした。

 かしこまりてございます」


 こうして俺は朝廷より従二位・内大臣としての称号を得た。


 そして寛正3年(1462年)後花園天皇の治世において行われて以来中断されていた新嘗祭を今年は執り行うことにしたのだ。


 新嘗祭は日本の宮中祭祀におけるもっとも重要な収穫祭だ。


 おおよその冬至になる、旧暦11月の二の卯の日に、今上陛下が五穀の新穀を天神地祇てんじんちぎつまりこの国に住む神々すべてに勧め、自らもこれを食してその年の収穫に感謝するもので天皇が即位の礼の後に初めて行う新嘗祭を践祚大嘗祭という。


 史実通りであれば今上陛下は来年には没されることになる。


 その前に新嘗祭を何とか復活させたかったが何とか間に合ったな。


「長年苦労されてきたのだからせめて国家と国民の安泰を祈る祭りを安心して執り行えるようにしないとな」


 とは言え正直に言えば島津が単独で朝廷のためにここまでする必要があるのかという気がしなくもないが。


 公武合体したのだから室町幕府はもっと宮中祭祀に金を出すべきじゃないのかね。


 そもそも大内などがあまり畿内に近づかなかったのは室町幕府の代わりに朝廷に取り込まれて金を際限なく出させられるのが嫌だったからという話もあるけどな。

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