第90話 山名を取り込むための策を進めつつ朝鮮がまたしても対馬にちょっかいかけてきたんで逆襲したぞ
さて、大内は室町幕府では名門の大名だったが、毛利や尼子は国人からのし上がった戦国大名だった。
その2つは現状島津の傘下に入り畿内の三好の勢力との間にいる勢力も少なくなってきたが、播磨の赤松と赤松の庶流の別所、因幡と但馬の山名、丹後の一色、若狭の若狭武田などは家格的にはかなりの名門だ。
もっともそれぞれかなり衰退していて21世紀の現代人だと名前も知らない可能性が高いというレベルではあるが。
「別にそれぞれを踏み潰していっても構わん。
だが、三好や俺に対抗するために名家で連合されればちと厄介なことになるしできれば穏当に取り込んでゆきたいものだな」
島津の執事である伊集院忠朗が頷く。
「そうでございますな。
一つ一つは恐れるほどではありませぬが手を組んで対応されば厄介なことになりましょう」
一方の島津四天王の一人である新納忠元は首を傾げる。
「今更気にするほどでもないのではないでしょうか?
仮に山名と一色や武田が連合したとしても我らにかなうほどの戦力になるとも思えませぬが」
「うむ、だがそれに山陰における佐々木の血族も加われば面倒なことになるのも事実であろう」
「ふむ、それはそうでございますな」
「うむ、播磨や越前、若狭、近江などの島津分家の協力も得たいところだな」
とはいえこの時代の分家は薩摩や大隅の近くの分家同士でも争っているくらいだから本来であればさほど関係性があるとはいえぬが、俺達の勢力がここまで大きくなればその名を利用することを考えるものも出てくるだろう。
そんなことを考えているうちに赤松の分家であり重臣ではあるが半独立勢力でもある播磨の小寺則職(こでら のりもと)やその息子の小寺政職(こでらまさもと)、播磨島津の島津忠之が俺への臣従を求めてきた。
「もはや赤松の衰退は確実です。
故に我らは島津の下で働かせていただきたく思います」
「うむ、今後は我が下でその力を示すがよかろう」
「はは、ありがたき言葉にございます」
現状の赤松の当主である赤松晴政(あかまつはるまさ)はもともとは播磨・備前・美作の守護であったが、尼子に備前・美作の守護職を奪われ、さらに西播磨を浦上に奪われ三好に東播磨の国人を調略されその権威を失墜する一方であった。
そして小寺則職・政職父子の下には小寺孝隆、いわゆる黒田官兵衛がいる。
俺への従属を進言したのも彼かもな。
「小寺が臣従してきた以上はこれ以上播磨については深く関わる必要もないか」
赤松と別所は三好長慶に従ってるわけではないが東播磨の国人は長慶に従っているものも多い。
そして西播磨は宇喜多が切り取りつつあるが浦上宗景の影響もまだ強い。
島津にとって播磨は三好との緩衝地帯になっているしこれ以上は三好と接近したくもないな。
因幡については因幡山名氏である山名誠通(やまなのぶみち)の嫡男である山名豊成(やまなとよしげ)をもともと尼子が持ち上げて山名豊定と争っていたこともあり、俺達は尼子に引き続き山名豊成を支援している。
因幡山名氏と但馬山名氏で別れて争うことは不毛と思うが戦国時代では珍しくないことだ。
そして現状では山名豊成のほうがやや優勢という感じだな。
伊勢や志摩の状況だがまず志摩は九鬼水軍を先頭にしてその他の地頭を打ち倒し、九鬼が志摩に返り咲いた。
そして伊勢南部や北部・西部を島津が抑え志摩が落ちた事により北畠具教が籠城する大河内城は東西南北の糧道を断たれることになる。
「ふむ、北畠の降伏ももうすぐかな」
事実上伊勢の海路は島津が封鎖し、雑賀の本願寺鷺森別院が破却され、北陸では越中の一向一揆が長尾に大敗して、越中一向一揆は壊滅し、加賀の一向一揆は長尾と和睦した、俺達が長島の一向一揆の糧道も遮断していることから、島津と朝廷を和平の仲介役として長島一向一揆と一色の和睦もなったようだ。
「さて三好と本願寺はどうするのかね」
和睦したとは言え一色の被ったダメージは大きく六角や長尾とともに上洛をしたり、尾張で今川と争ったりできる状況ではないようだ。
しかし、長尾の軍は越中から飛騨へ進み近江の六角と合流したようだ。
それに細川晴元や将軍足利義輝、比叡山の僧兵などが加わって山城へ軍を進めようとしている。
三好は将軍には戻ってきてほしいようだが、細川晴元に戻らせるつもりはないからおそらく受けて立つしかないだろう。
おれは将軍義輝からは伊勢長島の一揆を鎮圧せよと言われていたが、結果的に一色と和睦させることでとりあえずは鎮圧したと言ってもいいはずだ。
とは言え、まだまだ油断はできないけどな。
一方対馬だが、李氏朝鮮が再度対馬に兵を向けてきた。
その数は前回の3倍の15000とかなりの数だ。
とはいえ対馬の守備隊は5000に増やしてあるし、水軍の迎撃態勢も万全を期している。
李氏朝鮮がそういう行動に出るだろうことも予想ケースの一つに入れてあったから、前回と同じように李氏朝鮮の水軍が対馬の周辺海域に到着しその一部を意図的に上陸させ、島への上陸の事実を再度作っておいて守備兵により討ち取らせつつ、残りは対馬に設置したカルバリン砲の沿岸砲台による砲撃と島津直属水軍のジャンク船のカノン砲やカルバリン砲によって、身動きを取れないようにしつつ、若林水軍や佐伯水軍、松浦党が敵船への切り込みを行うことでまたしても侵攻してきた船の多くを沈めたか操船不能に陥らせた。
そして李氏朝鮮政府により無理やり兵員として動員されたものには農民や僧侶などの差別階級のものがたくさんいた。
そういったものを降伏させ一旦は手元においてきちんと飯を食わせることで一度手元においてある。
「では、こちらからもお返しをしてやろうか」
明では僧侶は知識人として優遇されていたが、李氏朝鮮では仏教は弾圧され高麗末期には1万以上もあった寺は山奥の36の寺院だけを残し他の寺は廃され、青銅の仏像は取り上げられて武器にされ石仏は首を斬られて僧侶は差別階級に落とされているのだった。
韓国人は秀吉の朝鮮出兵で寺が焼かれたと易うがそれは大嘘で自分たちが寺を壊してきたんだ。
日帝が朝鮮半島の文化を破壊したなどの主張は大嘘なんだよな。
俺は大内義長と宗義調と波多隆を呼んだ。
「朝鮮は性懲りもなく対馬にちょっかいを出してきたがもう一度俺たちはそれを撃退した。
しかし、このままでおくつもりはない。
大内義長殿は大内の子孫だがはるか昔高麗国王により百済の故地を授けてもらうことを受諾しているはずですな。
ならば今こそ全羅道に渡り弾圧されている僧や民衆とともに百済を再興されるべきでしょう。
宗義調殿は商人と顔を繋いでそれを手助けしてやってほしい」
「百済を再興ですと?」
大内義長が驚いたようにいう。
「ああ、あくまでも日本の臣民が李氏朝鮮に下るわけではなく朝鮮王と対等の立場の百済王として全羅道を抑えるのですよ」
「なるほど、私に全羅道の支配権を与えてくださると」
「あくまでも百済王の末裔としてその再興をするのですよ。
そして弾圧されている民たちに対して今の王よりましな政策をすれば良い」
「かしこまりました」
まあ、上手くできなければ殺されるがな。
あとは力量次第だろう。
「波多隆殿は彼を伴って平安道や咸鏡道で高句麗を再興させてくれ」
波多隆が驚いたようにいう。
「高句麗を?。
ところでそちらの方は一体?」
「うむ、こちらは狛左馬之助頼綱(こまさまのすけよりつな)殿だ。
狛氏は高麗王朝の高麗氏(こまうじ)の血筋であるのでな」
「なるほど、そういうことですか」
狛氏は、山城国一揆でそれなりに有名な興福寺領の狛野庄の下司として勢力を誇った南山城の有力国人の一人で、大和の国人を調略しているうちにたどり着いたのだ。
「私が高句麗王……ですか?」
「うむ、ぜひとも上手くやっていただきたい。
既に李氏朝鮮で僧や神人だけでなく日本との交易を再開させねば没落する交易商人たちの不満も爆発寸前だからそういったものの力と情報を上手く利用してな」
李氏朝鮮に不満を持ってるのは白丁のような被差別階級だけでなく、商人や職人、農民もそうだ。
そして三浦の乱の後日朝の国交は断絶状態となったが、胡椒などの香辛料・丹木などの香料・銅など金属の輸入を対馬に全面的に依存している朝鮮は宗と和解して国交が復活するわけだが、今回はすでに明との私貿易が開始されてることも有って日本側には特段のデメリットはなかったりもする。
だが朝鮮側の商人はそうもいかんだろう。
おまけに黄海道開城周辺では林巨正を旗頭にした反乱が起こり彼らは50年ほど前の洪吉童と同様に不正により蓄財していた両班や役人達の財産を奪ってそれを安く貧しい人々に分け与え、庶民たちから義族と呼ばれる様になったという。
それが本当なのか江戸時代のねずみ小僧のような勘違いなのかは分からないが李氏朝鮮の中央朝廷は彼らを漢城に入れまいと首都に通じる道を閉鎖して侵入を防ぐのがせいぜいらしい。
「商人とは日本との対馬を介した私的な交易を許可することで味方につけ、全羅道の僧侶には禅宗を、平安道や咸鏡道の僧侶には真言の修験密教を許可し職人の待遇を改善して現状で差別されているものたちの支持を集めるのだ。
必要な絹や木綿、米などは用意する」
「かしこまりました」
さて、朝鮮半島の商人、職人、農民、僧などが彼等をどこまで支持をするかわからんが、現状の李氏朝鮮の状況では略奪などを行って現地住民の反感を買わなければ最初はうまくいくだろう。
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