第80話 東国ではいつの間にか武田が滅んだと思ったら一向一揆で偉いことになってるみたいだな
さて、中国西部での政治の中心は山口、交易や商業の中心は山口港、工業の中心は防府にわけそれぞれの整備を行いつつ山口で手に入れた先進的技術は博多や鹿児島、土佐中村などの島津が支配している他の地域にも広めて工業を奨励させることを進めていた。
もちろん島津法度も中国の支配地域に適用したが、一向宗こと真宗については本願寺派である一向衆と、その他の真宗や時宗、本来の一向宗とは切り離し真宗内部でも本願寺と対立している真宗高田派や真宗佛光寺派、真宗三門徒派など本願寺と対立して一向一揆に従わぬものは保護するものとした。
すなわち
九州・四国・中国地方における島津の支配地域においては真宗本願寺派、天台宗山門派、天台宗玄旨帰命壇派、真言立川派、日蓮宗の不受不施を唱える者、キリスト教の布教並びに信教を禁ずる。
それらの布教を辻角で勝手に行ったものは即刻殺害して構わない。
それらのものが他国からの関を通ろうとした場合追い返すようにせよ。
また、諸宗派間での宗教に関しての論争及び武力闘争を禁じる。
としたのだ。
日蓮宗は京や堺では既に許され商人の間では支持されてるから不受不施を唱えて問題行動を起こすもの以外はそろそろ外しておこう。
堺や京の商人などと割符のやり取りをするのに日蓮宗を禁止したままだと都合が悪そうだしな。
また杵築大社などに寄進として銭と米をおさめることで新宮党の支援は続行していた。
新宮党は戦闘集団としては結構高い能力を持っていることも有って尼子本家とのつぶしあいは順調な感じだな。
尼子晴久は天文21年(1552年)に山陰山陽の八カ国である出雲・隠岐・伯耆・因幡・美作・備前・備中・備後の守護に任じられているが、現状では因幡は山名に奪われ、備前は尼子が従えた守護代である浦上政宗と反尼子でその弟の浦上宗景で争っているが、宇喜多直家を擁する浦上宗景が優勢になりつつあり、備中の三村家親も尼子派の庄為資を圧迫している、備後はほぼ毛利が制圧済みというという状況で尼子の支配が万全なのは東出雲・隠岐・伯耆・美作くらいになっており尼子の勢力はかなり衰えつつ有った。
また瀬戸内海の村上水軍ももともと毛利についていた因島村上氏は毛利氏が島津に臣従した時に一緒に臣従し、来島村上氏は河野氏とともに臣従していたが、能島村上氏も島津に従うことになった。
これにより瀬戸内の航路も島津と三好でほぼ完全に掌握できたな。
そんな折に届いたのが先ずは武田の滅亡。
話を聞いた雑賀衆が俺に伝えてくれたのだ。
「なに、長尾と斎藤と今川が同盟して武田を攻め滅ぼしたと?」
「はい、その際は上洛して今上様に謁見した長尾が尾張に下向して三家の同盟を取りまとめたとの話でございます」
「まさか長尾がな……」
俺がまさかと言ったのは長尾の戦術能力が低いからでは当然ない。
長尾景虎、後の上杉謙信は戦術においては最強の戦国武将の1人とも言われ、苧麻の衣を用いての商売なども行っており経済についてはそれなりに評価できるらしいが外交に関してはあんまり得意でなかったはずだ。
能登の畠山などとは海上交易の関係上から仲良くしていたはずだが、信濃や上野、越中、出羽などから救援を要請されると秩序回復のためと名義建てて幾度となくそちらへ出兵し、武田、北条、織田、越中一向一揆、蘆名、神保らと合戦を繰り広げたために長年にわたって領土拡張の機会を逃してしまったはずなんだがな。
もともと守護代というのは自分の国を守るためには頑張るがそれ以上の領土を拡張することまでは考えないことが多いので、越後への敵の侵入を先に阻止するためとか乱妨取りや食料の略奪を行うことで米のあまり取れない越後の人間を冬の間食わすための出兵だとも言われているが。
「今川と斎藤、いや今は公方様より一色の名を与えられていたか。
その両家が尾張を分割し、武田の信濃攻略もあとは木曽を残すのみとなれば武田が何処かに全面攻勢するのは確実。
その可能性が一番高い長尾が今川と同盟を結ぼうとするのはおかしくはないがな。
長尾はそんな風に頭が回る感じだったかな?」
「いえ、越後の家中をまとめるのも完全にできているわけではないはずですが」
「そのはずだな。
しかし斎藤が公方様の力添えにて一色と名を改めたならば三好の討伐のために六角とともに動くのは確実か」
「はい、三好殿もそう考えたようで。
そして石山本願寺に一向一揆の要請を出したようです」
「なんだって?
石山本願寺に一向一揆の要請を三好が?」
「はい、そのために各地では不穏な状況になっているようです」
「それはそうだろう」
本願寺は三好長慶の父親である三好元長を自害に追い込んだ敵だったはずだが、細川の勢力が衰えるに連れて畠山が三好からはなれつつもあり、三好は相変わらず周囲を敵に囲まれている。
現時点で三好長慶の押さえている領地は讃岐、阿波、淡路、摂津、山城、丹波全域に加えて和泉、河内、近江や伊賀の一部を加えて150万石程度。
更に京や堺の商人からの運上金もあるから三好長慶に単独で匹敵するのは俺を除けば伊豆、相模、武蔵、下総に加えて上総、常陸、下野、上野の一部を押さえている北条氏康(ほうじょううじやす)くらいだ。
しかしながら畿内周辺で三好長慶に単独で対抗できる大名はいないとしても、浅井久政を従えている六角の近江に一色の美濃と尾張半分で三好に匹敵する石高になるし、若狭武田家や丹後一色家も加わった上で紀伊河内を押さえている畠山も三好包囲網に加われば三好長慶もかなりやばいだろうな。
だからといって親の仇の石山本願寺と手を結ぶとは予想外ではあったが。
そしてその後の状況を伝えたのは志摩から脱出してきた九鬼一族だった。
一族を代表して俺と面会しているのは現在の当主の九鬼浄隆(くききよたか)。
彼は疲れた表情を隠せない様子だった。
「我らを匿っていただきありがとうございます。
しかしながらこれほどにも早く島津殿を頼ることになるとは思いませんでした」
「ふむ何があったのですかな?」
「はい、伊勢北部は一向一揆に与するものそれと戦うもので混沌としておりましてこれ幸いと志摩の他の地頭が北畠具教の援助を受けて私達のいた田城城を攻めてきたのです。
彼らは私が島津殿との交易で儲けていたのが気に食わなかったようでして。
そしてなんとか海に逃げ熊野の堀内氏善(ほりうちうじよし)殿の助けも得てここまで参った次第でございます」
「うむそれは大変でしたな。
暫くはゆっくりとされるが良いでしょう。
体調が治りましたら我が直属の水軍として働いてもらいいずれは志摩を取り戻せるように計らいましょう」
「ありがとうございます」
続いて彼を助けた堀内氏善とも面会する。
「この度は九鬼殿を保護していただきありがとうございます」
「いやいや、商売の伝手がある相手を見捨てるのは気分が悪いですからな」
堀内氏善はキラっと目を光らせたように見えた。
「しかし、志摩のアワビなどが手に入らなくなるのはお困りでしょう。
ついてはわが熊野と取引をしていただくのはいかがでしょうか?
お互い損のない話ではないかと」
「ふむ、そうですな。
噂に名高い熊野水軍の協力が得られるのでしたら私も心強いというものです。
アワビやナマコなどの海産物の干物以外にも筆や墨、紙や木材などの取引もさせていただきましょう」
「おお、それはありがたい」
熊野は熊野三山の信仰が古くからあるため札を作るために製紙や筆記具の生産も盛んだ。
”熊野”というブランドはこの時代ではかなり名高い。
それを利用しない手はないだろう。
そんなことを考えていたら大和で享禄5年(1532年)にも起こったように大和守護である興福寺や筒井・十市らを攻め滅ぼすべく一揆軍がまた北大和に突入したらしい。
やはり一向一揆は統制が必ずしも取れているわけではないらしい。
そして根来寺より使者がやってきた。
「興福寺並びに根来寺よりの通達である。
島津は兵を派遣し大和に侵入した賊徒をすべて討ち滅ぼすべし」
なんで根来寺がこんな偉そうなのかというと、もともと俺の祖父島津忠良(日新斎)に教育を施し資金援助を行って薩摩半島の統一に助力したのが根来寺だからだ。
もちろんそれは島津の主家である近衛の差配によるものであったからで、島津が鉄砲を手に入れたあとで根来寺に鉄砲を持っていかれたのも近衛の差配によるものだと思う。
正確には近衛の氏寺である興福寺によるものかもしれんけど。
近衛が島津伊作家に肩入れしたのは薩摩の島津が管理している荘園の上がりをちゃんと差し出させるためだけどな。
とりあえずはここは従っておこう。
「かしこまりました。
至急手配いたします」
俺は朝廷及び三好長慶、畠山尚誠(はたけやまなおまさ)や畠山高政(はたけやまたかまさ)などには一向一揆が大和における一向宗の永代禁制を破り、大和各地において彼らが寺の鹿や鯉を食い尽くし、寺を焼いて乱暴狼藉を働いていることから賊徒としてこれを討つことを奏上し伝えてから、弟である又四郎忠平に紀伊へ赴いて雑賀より上陸し、興福寺や根来寺の支援を受けつつ大和に侵入した一向一揆を討つように指示を出した。
その際には雑賀や熊野、九鬼の水軍にも協力を頼んでいる。
興福寺は藤原の氏寺で根来寺とは島津は縁が深いから島津にも協力を求めてくるのはわかるが、大和になだれ込んだ一向一揆を弟が上手く殲滅してくれることを祈るしかないな。
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