第69話 中村伊右衛門を木下藤吉郎へ名前を改めさせて、刀の買い取りと鍬や立鎌の販売を任せることにしたぞ

 さて、俺が直轄地での刀の買上げや農具の販売をしていたら戸次鑑連に説教を受ける羽目になった。


「御屋形様よいですか?。

 大宰大弐にて征西大将軍、そして九州探題の長たるものが刀の売り買いやら鍬の売り買いやら商人の真似事を何故なさるのか。

 我々武家の行うべきことは戦に勝ち田畑を守って土地を治めることでございますぞ」


 俺はそれに対して言おうとした。


「いやいや、だからそれをしやすくするためにな……」


 そうしたらくわっと目を見開いて戸次鑑連が怒りながらいう


「そんなことは商人にやらせておけばいいのです」


「いやでもな、俺がやったほうが早いんだよ」


 なんせ農具の改良なんて俺が元は農業やってたからわかるのであってこの時代には国ごとや村ごとで土地にあった鍬を作らせている時代だからな。


 おそらく大多数の農民にも鍛冶屋にも意味はわからんだろう。


 ついでに言えば薩摩は貧しいから島津自らや重臣である伊集院が直接琉球への貿易にでたり山の中で獣を狩ったり、兵士と一緒に調練したりもしている。


 うむ、貧乏とは切ないものだ。


「たとえそうであっても伝統ある島津の当主がやるべきことではありませぬ」


 うむむ、どうやら大友や大内、少弐の国人と島津では考え方もだいぶ違うらしい。


 薩摩では権威なんて全く通じなかったのだがな……。


 鎌倉末期から南北朝時代だと商人系の武士である悪党も意外と多いのだが、この時代だと土地を重要視する地侍を中心とした武士が多い。


 そしてこの時代における商人で一番力を持っているのは土倉(どそう)と呼ばれる連中だ。


 土倉というのは簡単に言えば質屋みたいなものだが質草は土地の権利だったりする場合もある。


 そして酒の醸造元と土倉を兼ねた商家が多く、彼等は大量の米と銭の両方を持ち合わせているわけだが、多くの武士のいうところの商人というのは要は金貸しという虚業なので基本的にはとても嫌われているのだ。


 その他には馬借(ばしゃく)や問(とい)のような陸路や水路における輸送業者も倉を持っているので土倉をしてる場合が結構多いのだが。


 しかし、応仁の乱以降は土一揆の襲撃を受けたり、徳政令の対象とされ始め衰退するものも多かったのだが、博多や山口、堺のような勘合貿易の利益を受けている大都市の商人たちは自らの財力で一部の武士を雇い、また自らも武装して土一揆に対抗していき、自治な性格が強くなって博多の商人は大内や大友の制御を受け付けなくなりつつ有った。


 そして干ばつなどの飢饉の時にそういった連中から銭を借りてその場をしのいでも、複数年に渡り飢饉が継続してにっちもさっちも行かなくなった国人もいたのだな。


 戸次鑑連などが商人を目の敵にしていても別におかしくはないし、貿易でボロ儲けしていた大内の家の大内義隆の幼少時の逸話として、子供達が銭を玩具にして遊んでいたのを見て、義隆も銭で遊びたいと守役の杉重矩に言ったときに「主君となるべき人が、銭のような汚らわしい物を見るのは恐れ多い」として銭を黄金の笄で突き刺し、そして笄と一緒に銭を汚物の中に投げ捨て、それを義隆に見させて銭が如何に武士にとって賤しいかを認識させたという話もあるくらいだから島津はかなり例外なのだろうけど。


「大体、そんなことをしていて御屋形様に何かあったらどうするのですか?」


 これは確かにそう言われるとぐうの音も出ない。


「わかったわかった、ではあとは俺の部下に任せるものとする。

 それで問題なかろう」


 戸次鑑連は大きく頷いた。


「そうですな、早速そうしていただきたいものです」


 そして俺は尾張からつれてきた日吉こと中村伊右衛門やその弟の小一、その親族の福島と加藤も呼んだ。


「ああ、皆よく来てくれた。

 お前達には頼みたいことがあるのだがその前に。

 中村伊右衛門の名を変えることにする」


 伊右衛門は首を傾げている。


「なぜですか?」


「うむ、もはや尾張の中中村とは関係ないのにいつまでもその名のままというのも良くなかろう。

 これよりは今住んでいる木ノ下村の名を取って木下藤吉郎と名乗るが良い。

 また、弟である小竹は元服し木下藤次郎と名乗るがよい」


 二人は平伏していった。


「はは、ありがたき幸せにございます」


「これよりは木下藤次郎と名乗らせていただきます」


 俺は前髪を切るなど簡単な小竹の元服をあげてやった上で言う。


「うむ、でお前達にやってもらいたいことだがな。

 木下兄弟は俺の直轄している村を回って刀を買い集め加藤と福島はその刀で鍬や鎌をうちそれが出来上がったら木下兄弟は再び村へ行き鍬などを売ってきてほしいのだ。

 俺がやると怒られるのでな」


「なるほど、かしこまりました」


「どうぞおまかせください」


「うむ、よろしく頼むぞ」


 こうして島津に直轄地においては木下一族に刀の買い取りと鍬や立鎌の販売を任せたのだが、俺がやるよりずっとずっと彼等の方が上手くやってみせたのだった。


「なぜだ、解せぬ……」


 俺は藤吉郎に商売の才能で負けてるのか?。


 いやいや立場の差だと思いたいが、それだけでもなさそうなんだよな。

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