第62話 番外編:そのころの日本各地の様子
さて島津が肥前を残して九州の殆どを制圧下においた頃の日本各地における様子であるが……。
肥前は龍造寺・少弐・千葉・波田・松浦・後藤・大村・西郷・有馬・平戸・宇久などの小勢力が狭い領地を巡って争っていた。
肥前は地形的に狭隘な場所が多く、大軍を展開しづらい場所でもあり、大友の手をはなれた途端に争いが再発したのであった。
その頃畿内では近江朽木に滞在していた細川晴元が近江の朽木元綱(くつきもとつな)や六角義賢、丹波の波多野晴通(はたのはるみち)、阿波の香西元成(こうざいもとなり)らが三好長慶を山城から排除するために兵を起こし、前年度に京に戻った足利義藤は結局のところ将軍の地位が有名無実で、三好長慶とその家臣・松永久秀の傀儡でしかなかった状況を変えるために山城から脱出して細川晴元と和解して合流し近江・丹波・摂津より東西からの挟撃を行った。
これにより三好長慶は絶体絶命の危機に陥ったが松永久秀の奮戦により細川軍の撃退に成功。
三好と同盟していた畠山高政(はたけやまたかまさ)の援軍によって細川晴元・足利義藤の軍が敗北し、義藤は近江朽木に逃れたが、三好長慶は将軍に随伴する者は幕府よりの知行を没収すると通達したため、将軍の随伴者で側近である相伴衆や内談衆の多くが義藤を見捨てて帰京した。
これにより少しだけ集められていた戦力も権力も将軍義藤はほぼ全て失ってしまったのだ。
またこの戦いは畿内において初めて大規模に鉄砲が投入されそれによる損害もお互いに大きなものとなった。
そしてこの戦いの勝利により足利義藤と細川晴元の権威は山城では地に落ち三好長慶の権力がほぼ確立された。
また三好は丹波を制圧後は細川氏綱を丹波守護として実効支配し、阿波守護である細川持隆(ほそかわもちたか)は三好実休(みよしじっきゅう)によって見性寺において殺され、その子である細川真之(ほそかわさねゆき)が傀儡として擁立されると三好の阿波における権力は更に強まった。
播磨では赤松義祐(あかまつよしすけ)の要請により東播磨を制圧下においた。
東讃岐は十河一存(そごうかずまさ)が抑えていたのだが、西讃岐の細川家家臣である香川之景(かがわゆきかげ)は三好には従わなかったため三好の勢力は西讃岐には及ばなくなったとは言えその勢力はいよいよましたのであった。
一方中国地方では大寧寺の変で主君大内義隆を自害に追い込んだ陶晴賢であったが、応仁の乱以来より長年敵対していた石見の吉見正頼(よしみまさより)は反隆房の急先鋒として挙兵。
更には島津が豊後・豊前・筑前を制圧したことで山口での海外との交易も減少することで陶晴賢は追い詰められていた。
また、安芸の支配権を確立していた毛利元就は大寧寺の変においては陶の行動に同意しており、隆房は元就に安芸・備後の国人領主たちを取りまとめる権限を与えていたが、元就は速やかに安芸と備後を支配下に起き、毛利は尼子晴久の安芸への侵入を撃退した。
この際に防衛した城に陶が直属の代官を入れようとしたため戦後処理は大いにもつれたうえに毛利氏の急速すぎる勢力拡大に危機感を抱いた陶隆房は元就に支配権の返上を要求したが元就はこれを拒否したため、徐々に両者は対立していくことになる。
信濃では第一次川中島の戦いが行われ痛み分けに終わるが、武田は村上氏の本領である埴科郡を完全に掌握し、信濃における勢力を着実に広げていた。
関東では後北条氏が伊豆・相模・武蔵・上野・下総・上総と常陸の一部を専有し、かっての古河公方や関東管領の支配地をほぼ制圧していたが、上野などの状況ははなはだ不安定なものであった。
能登では大寧寺の変後に畠山義続(はたけやまよしつぐ)が隠居したことによる温井総貞(ぬくいふささだ)と遊佐続光(ゆさつぐみつ)との権力争いに温井総貞が勝利して能登の実権を握った。
畠山義続の隠居には大寧寺の変での大内という超大国の守護が家臣によって討たれてしまった衝撃があったと言われている。
尾張では太原雪斎率いる今川勢が三河と尾張の境を支配していた水野信元(みずののぶもと)や佐治信方(さじのぶかた)を軍事力で臣従させ、東尾張に勢力を拡大した。
また織田伊勢守当主である織田信安(おだのぶやす)は織田信清との所領争いも有って美濃の斎藤義龍と呼応し清須の織田信友と対抗しようとしたが、斎藤義龍により背後を突かれ織田伊勢守家は滅亡した。
尾張下四郡を統一したはずの織田大和守家の織田信友は籠城戦で今川に抵抗するがジリジリと今川に尾張下四郡を侵食されているところであり明らかに劣勢であった。
東北や肥前、紀伊半島の伊勢・大和・紀伊のように小勢力が入り乱れている場所もまだまだあるが、概ね日本各地において大名の勢力は統合されつつ有った。
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