天文21年(1552年)

第47話 五ヶ瀬川の戦いの勝利による日向の完全平定

 さて、俺は大友の他姓衆の調略による取り込みや、四国の土佐一条氏と伊予西園寺氏を島津が保護したいと言う名目での島津勢力下への取り込みの交渉をしつつ、薩摩や大隅、日向の最南部の島津と伊東の勢力の境界だったような場所で長引く戦乱で行われた村への乱妨取りや略奪刈田狼藉により村人が離散して廃村となり、誰も耕さなくなって放棄された耕作地にも地頭を派遣しつつ、農家の次男、次女以下などの土地を継ぐことができない男女の移住希望を募ってそういった廃村へと赴かせて土地を耕させることで農地を確保し農作物の収穫量を増やしていた。


 そういった場所で麦と稲の二毛作を行えば食料の確保もだいぶ楽になるしな。


 そして高山国の父上から手紙とともに米が贈られてきた。


「今年こちらは豊作で美味い米が取れたんでそっちに送るな」


 下宿に住んでる大学生に親が食べ物を送るようなものだろうか、どうやら父上は高山国でスローライフを満喫しているらしい。


 島津宗家の養子になって守護職を継いだかと思ったら、やっぱなしなと言われてそれから長いことずっと薩摩の島津分家や国人と戦い続けていたからきっと大分疲れていたのだろう。


 高山国の農地や港町も大分発展しているようだがあちらは大きな争いも起こらないのであろうし羨ましいことではあるが、アユタヤで買ったものも含めて米を送ってくれるのはありがたいことである。


 そして、そのうちに天文21年(1552年)になった。


 近江国守護・六角定頼ろっかくさだよりが死んだり、室町幕府の将軍・足利義輝が三好長慶と和解し京に帰還したが、細川晴元はその和睦を認めず出家して、若狭守護の若狭武田氏の武田信豊を頼り若狭国へと下向したため、細川氏綱が管領に就任したらしい。


「ふむ、畿内は一旦は落ち着いたということか」


 まあそれほど単純でもないだろうがな。


 そして土佐の一条氏や伊予の西園寺氏は俺が献金をして保護並びに中央朝廷への顔つなぎを申し出たら両方共喜んで保護下に入ると申し出た。


 その代わりに一刻も早く上洛できるようにせよと両家とも言ってきたがやはり貴族にとっては京都以外は田舎という認識なのだろうか。


 そしてどちらも元は貴族だから自らが戦うのではなく誰かが代わりに戦って自分たちの生活を保護してくれればそれに越したことはないのだろうか?。


 こちらも両家の経済的既得権益を奪うつもりはないので四国における兵権と通過権さえ与えてくれれば御の字だったりするがな。


 そして、小原鑑元や佐伯惟教ら大友に冷遇されている他姓衆とのつなぎも取れた。


 もっとも小原鑑元や佐伯惟教は菊池義武を肥後から追放した人物でもあるが現状では反大友ということで利害は一致しているだろう、それに関しては文でそれぞれに伝えたのでそのあたりは菊池義武と小原鑑元には上手くやってほしいものだ。


 日向の土持親成はこちらの調略のあと臣下の土持高信をこちらに派遣してきて大友氏から離反したので、俺は土持に旧伊東の領地をいくぶんか与えた。


 しかしながら、元は伊東の配下であった門川城主の米良四郎右衛門、潮見城主の右松四郎左衛門、山陰城主の米良喜内ら五ヶ瀬川から高瀬川付近の元伊東家家臣の国人衆はやはり大友の調略に従い、我々島津を裏切って土持親成を攻めようとした。


 やはり長きに渡り島津と敵対していた伊東に仕えていたものには主君の敵ということも有って俺に仕えるのは心情的に納得行かなかったのだろうか。


 しかしながら俺はすぐさま弟の島津又四郎忠平を総大将と又六郎歳久を副将として薩摩、大隅の主なるものを従えさせて日向を南側から五千の兵をもって攻め込ませた。


 兵役の志願者には自前での食糧の持参をさせずに、招集場所にて麦飯を支給することで人夫雑兵を集めさせ、さらには戦功を上げれば裏切った伊東家の城を与えると宣言することで元伊東方家臣を背後から攻撃させた。


 そして俺は薩摩水軍の比志島義基と雑賀衆の鈴木重意を率いて七千の兵をもって千の兵で松尾城にこもる土持親成の救援に向かう。


「伊東や大友は島津の食糧の備蓄と水軍を侮ったな」


 本来史実の島津は高城川以北に兵を送ることができなかったため、土持親成を見捨てざるをえなかった。


 これは伊東の崩壊があまりにも早く日向における地盤と兵站の確保ができていなかったからと、木崎原の戦いで伊東の中枢部が壊滅した後、残りの家臣団は合戦をしないで降伏し兵力がそのままに生き残っておりその後に起こっていた日向での細かい反乱の鎮圧に手間取っていたたから、兵の再編成や食糧の確保が間に合わなかったからではあるが、俺は高山国とシラス台地の開墾による食糧の大増産をしていたし、大友などが早急に兵を動かすことも予想内だったので対応ができたのだな。


 結局食糧と金がどれだけあるかが戦をどれだけ継続したり早く行えるかの鍵になるわけだ。


 この頃大友勢は吉岡長増を総大将、志賀親守として二万の兵をもって日向に侵攻し土持親成を攻撃し、近隣の伊東方の武士も大友勢に加わって土持氏を攻めたが、俺は五ヶ瀬川の北岸、北川との間の土地に船をつけて五千の兵を上陸させ大友の軍を東側から攻撃させた。


 そして艦砲には球形弾を詰めて待機させる。


「土持親成を殺させるわけには行かぬ。

 ゆくぞ皆の者!」 


「おお!」


 そして戦端が開かれる。


「よしいつものようにいくぞ」


「了解ですぜ、若!」


 双方の陣から矢と石が飛び交う矢戦の後でお互いの槍隊がぶつかりあい奮戦するが、当然数で劣る我が部隊は崩れて完全敗走する。


「くそ、これはかなわん一度引くぞ」


 ニヤッと笑いながら俺はそう指示をする。


「了解ですぜ、若!」


 俺達は海岸線に向かって逃げる。


「はは、島津など大したことはないではないか」


「いくぞ、この機会を逃すな!」


 大友の兵が松尾城の囲みをといて逃げる俺達を追ってくる。


 逃げ場所のないところに追い詰めて包囲殲滅するつもりなのだろうな。


 俺達は海岸線にたどり着くと沖に泊まっているジャンク船の艦砲の射程上からそれるように海岸線に集結する。


「よし、皆船と船の間に逃げよ!」


 その後を追ってくる海岸へ押し寄せてくる大友の兵にたいして俺は旗を振ることで艦砲での攻撃をさせた。


「よし、艦砲射撃を開始させよ!」


「艦砲射撃開始!」


「艦砲射撃開始!」


 各10門ずつ10隻のジャンク船に搭載されたキャノン砲は 口径:7インチ(おおよそ180ミリメートル) 砲身長:11フィート(おおよそ3.4メートル) 砲弾重量:42ポンド(おおよそ19キログラム) 有効射程:2000mというこの時代においては最大の火力を持つがその重量など故に艦砲以外としては利用できない砲だがそれに二十キログラム近い鋳鉄製の弾丸が装填され計100門が一斉に火を吹き、島津兵を押しつつもうと密集していた大友兵に向けて放たれたのだ。


「ギャアアーーーッ!」


「うがああ!」


「ぎゃあああ!」


 あちこちで人馬がなぎ倒されて血しぶきが上がり元は人や馬であったものがバラバラの肉片に砕けて周囲に飛び散った。


 カノン砲は大きな砲弾ほど火薬の量が多く、それ故に弾の速度が速くて威力も強い。


 また戦国時代の冶金技術では鉄で完全な球体を鋳造することもできないので、砲弾は必ずしもまっすぐに飛ばないし地面でバウンドする時に予想外の方向へ飛ぶこともあるが、カノン砲の砲弾は密集している場所に打ち込めば10人から20人の人体をなぎ倒して貫通するほどの威力がある。


 例えば100発の弾で10人ずつなぎ倒せば1000人が20人ずつなぎ倒せば2000人が即死するという計算だ。


 そして大友の戦列に文字通り砲弾で穴が空いたところへ俺達は切り込む。


「敵が混乱している今だ。

 皆の者!

 敵大将首を狩るのだ!」


「おお!」


 大友形の生き残っている者の馬上にある指揮官らしきものを我々は優先的に狙って薩摩・大隅の武士と高山国の首狩り族が疾駆しわらわらと大将首と思わしきものに群がっている。


 やがて大友の兵は大きく崩れて豊後に向かい潰走をし始めた。


 そこへ城から打って出た土持親成が横より襲いかかり我々は後ろから襲いかかり、北川で足止めをされた敵兵が次々に討ち取られていった。


「よしこの程度でいいだろう、勝どきをあげよ!」


「えいえいおー」


 結果としてこちらの損害が500ほどに対して大友は4000近い損害を出し、司令官であった吉岡長増と志賀親守を打ち取ることに成功した。


 そして俺達は島津に反旗を翻した日向の高城川から五ヶ瀬川の間の城主たちを南北から挟み撃ちにして各個に撃破していったのだった。


「これでしばらくは大友の攻撃はないだろうな」


 2万の軍の4千が討ち取られるというのはとてつもない大きな損害だが特に指揮官クラスを多数失うのは致命的なはずだ。

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