天文16年(1547年)・天文17年(1548年)
第29話 台湾島への入植は順調に進んでるぜ
さて、台湾への入植は順調だ。
年が明けて翌年の天文16年(1547年)は300人ほど、その翌年の天文17年(1548年)は600人ほどの入植者を日本から台湾に連れてきて治水開墾や港町の整備など従事させた。
そして天文16年(1547年)には義久に並ぶ釣り野伏せの達人となるはずの後の家久も無事に誕生しておる、ただし別腹なので若いうちは肩身の狭い思いをしておるのだがな。
「うむ、頼もしいことだ」
九州の大友や中国の大内、四国の三好などが売っている乱妨取りで囚われた元は農民の戦争奴隷や戦争の刈田刈畑で農地を荒らされて田畑を捨てて逃げ出した難民達、祀ろわぬものと差別を受けている河原者や戦のたびに主君を変えるような破落戸(ごろつき)どもなどを集めれば意外と人数は集まるものだ。
それから叔父上には毎年日の本と琉球、明とフィリピン、マラッカとアユタヤなど各地を回って銭を稼いでもらいつつ広州で生糸や陶磁器や家畜、アユタヤで硝石やタイ米、香料や香辛料や宝石類、マラッカでの西洋の野菜や芋や豆や西洋の家畜を仕入れてもらっている。
前回は購入できなかった乳牛や大型の馬なども買い入れてそれらは台湾に連れてきてもらってもいる、薩摩ではちょっと厳しいが台湾の平原でなら大飯ぐらいな馬や牛も十分に喰わせることが出来るからな。
無論生糸などで銭をかせぐのは当然行っているぞ。
交易は儲かるからな、無論中継交易でもそれなりには儲かるから台湾にもそれなりに金は落ちるようになってきている。
港も人員を動員して整備し、坊津や琉球などから交易商人を呼び寄せ、明や東南アジアの華僑などを中心にインドやペルシアの商人なども使える交易拠点として港町は発展している。
宗教に関しては改宗を強要しなければ道教やイスラム教の信仰そのものは認めておいた。
そして港には酒場や宿場、商館や娼館、賭場などの歓楽や宿泊の施設も自然と出来上がっているな。
「うむ、この街もなかなか活気も出てきたのう」
そしてもともと現地人が使っていなかった湿地帯や火山灰の多い場所などの彼らの焼き畑農業や居住にあまり適していない場所から入植を始めたのが良かったようだ。
それに現地の人間にはちゃんと食糧を渡しているしな。
「うむ、米や薩摩芋というのはまことに美味いものだな」
「だろう、だからもっと田んぼを作らせてもらってもいいかい?。
そっちが狩った鹿なんかの革をわけてくれるのはありがたいし交換ももっとできるようにしたいしな」
「うむ、構わぬよ、ただし林には可能なかぎり手を付けないでくれ」
「ああ、わかってるさ」
雑木林というのは保水力も高く様々な獣のすみかとしても重要だ。
これを切り開いてしまうと洪水が多発したりもするんだよな。
台湾の先住民はそういったところを住処や焼畑農業の場所や狩猟の場所としているからそういったところにはなるべく手を出さないようにしている。
「若さま、美味い鯉の味噌煮込みが出来たから食っていってくだせえ」
「おう、ありがたくいただく」
そして田んぼを開墾しそこに鯉や鮒などを放すことで稲の害虫の幼虫や蚊の幼虫、生えてくる雑草などを鯉や鮒が食べてくれるし、鯉や鮒などが水をかき混ぜることで稲の根を刺激し酸素や養分の吸収が良くなるなどのメリットもある。
また鮒を食べるヤゴが育ってトンボになれば蚊の成虫も食べてくれたりとなかなかいいことが多い。
蚊は古来より人間を最も多く殺してきた生物ではあるが、脆弱な生物でもあるので天敵も多いのだ。
台湾は熱帯もしくは亜熱帯なので薩摩芋の三期作や蕎麦、麦、米の三毛作などもやりやすい。
たまに台風で作物が風でなぎ倒されるのが欠点ではあるがこればかりは仕方がない。
「うむ、たしかに身に脂ものっているしうまいな」
「でしょう」
ちなみに鯉は泥を吐かせないと身が泥臭くなると言うが実はそんなこともなかったりする。
鯉を〆てさばく人間の腕の問題で別に元から鯉の身が生臭いことはないのだ。
気をつけるのは鯉が死んだらすぐにエラや内臓、表面のぬめりなどを取り血抜きを徹底することだ。
そうすれば白身魚は身の腐敗などはそう進まない。
また、泥抜きをしないのであればさばくときに胃腸を絶対傷つけないことだ。
胃腸を傷つければその中の内容物がぶちまけられてしまうからな。
それは鹿などの獣などでも同じだが内臓を傷つけてしまうと内臓の中身が切った身の切り口の中に入ってしまうと言うだけのこと。
むしろ清水で何も食わせず泥を吐かせると身の脂を使ってしまったりするのでむしろパサパサで味気なくなるのさ。
ちなみに日本でも大正時代から昭和30年以前ぐらいは田んぼに鯉を入れて田んぼで養殖した鯉や鮒を水を抜く前に引き上げたりして食べることもよく行われていた。
しかし、農薬や化学肥料が普及すると収穫量で劣ることから次第に鯉養殖農法は廃れていったが、その結果田んぼからは魚や昆虫やカブトエビなどの数多くの生き物が姿を消しそれにより雑草が生えやすくなったり害虫が発生しやすくなったりしたのだな。
鯉養殖農法は合鴨農法とほぼ同じようなことが出来るわけだが、合鴨農法と違い猛禽や野生動物に対しての柵などでの防御の対策が必要ない、合鴨農法のように雛でないと米の苗も喰われてしまうということがないメリットは有る。
もっとも合鴨のほうが卵や肉などの栄養は優れているとも言えるがな。
「うむ、我々に協力すれば飯に関しての心配はなくなるが我に下るか?
それとも皆火で焼かれるか選ぶが良い」
『我々は火の化身たるあなたに従います』
高地に居住している首狩り族もちょこっとずつ従えている。
彼らの首刈り行為の草の中に隠れ人が通りかかったらその背後から襲いかかるという方法が我々には通じない上に、そもそも竹槍や石鎌などの武器しかない彼らと戦場で真正面から敵を倒すために刃金の槍や刀をもち剣術や戦闘訓練も行っている我らの島津兵児では多少の数の差たとえば十倍程度では負けたりはしないのだ。
「そのうち山を掘り返して使える石なんかを掘り出したいんでその時はよろしくな」
『わかりました』
台湾は日本と同じくプレートが沈み込んでいくところにできている火山島なので、日本と同じように金銀銅などの鉱物資源が豊富なのだがそういった金鉱などは大抵は山の中にあるから食うに余るくらい食糧が取れるようになったら金銀銅なども掘って使わせてもらうつもりだ。
そして村が整うのにつれて鍛冶職人や鋳型職人、具足職人も薩摩などから連れてきている。
農具や武器など鍛冶職人を必要とする場面は多いから引く手あまたなのだな。
明の人間に関しては綿の栽培方法や紡ぎ方を知っているものを広州の市場で買い取ってきたが中国人をたくさん連れてくるつもりはない。
「なんせ中国人は衛生観念がないからな」
広州の市場を見ればわかるのだが彼等は家畜などが糞尿垂れ流しでも気にしなかったりするのだ。
水質も悪いから中華料理は油で炒めたり揚げたりする料理が非常に多いが加熱を十分にしないと病気になってしまうということでもあるのだな。
ちなみに日本が台湾征伐を行い直接統治をする前の台湾はコレラ、ペスト、赤痢、天然痘、発疹チフス、腸チフス、ジフテリア、猩紅熱、そしてマラリアなど様々な伝染病が蔓延する瘴癘(しょうれい)の島と恐れ呼ばれていたが、その原因は汚物を路上に投げ捨てるオランダ人や中国人の衛生観念のない不衛生な生活により広まったもので、現状ではそこまで疫病がはびこっているわけではないし、日本が統治してからは検疫の強化やネズミや蚊の駆除により疫病などはかなり減った。
そして俺たちは当然海上での略奪行為にも勤しんでる。
今回はヨーロッパのガレオン船を無事制圧した。
「よーし、敵船の制圧完了だな」
俺に従って船に乗り込んでいるタイヤル族の戦士たちは薩摩兵児に劣らぬ勇猛さで敵船を白兵戦で制圧する頼もしい味方だ、もともと山間部は海のような貝や魚が豊富な地域ではないし、焼き畑も粟くらいしか育たなかったりするからとても貧しくそれ故に狩った獲物の数などで狩人としての地位が決まるというのもあったからこういったお仕事と相性が良いのだろう。
『俺たち首をたくさん取った、だから飯食わせてくれ』
「おお、たんと食うていいぞ」
『ははは~、飯が食えるぞー、酒が飲めるぞー』
戦いが終わればみんなで飲めや食えやのどんちゃん騒ぎだな。
この時代の西洋のガレオン船などは必ずしも中国のジャンク船に対して性能が勝ってるとも言い難い。
積載能力や砲の性能では負けているが、ジャンク帆は縦帆と横帆の両方を併せ持つ便利な帆なので操船性能では勝っているから船を斜めから近づけ、接舷して乗り込んでしまえばこちらのものだ。
そしてこの時代の西洋人は壊血病の克服法を知らないので台湾付近まで来てもまともに戦えるやつは少なかったりもする。
「鹵獲したマッチロック式マスケット銃に大砲に火薬、これだけあれば十分だな。
食糧の乳山羊やジャガ芋などもありがたく頂いておこう。
南瓜や西瓜、地球儀やメガネももらっておこうかのう。
それにラム酒とワインはなかなかの旨さだしな」
青銅製や鋳鉄製のカルバリン砲、カノン砲、セーカー砲、ファルコネット砲などの艦載砲や現地制圧用の大砲なども順調に鹵獲できている。
ジャガ芋は台湾の高地で粟の代わりに栽培すれば山間の民族の食糧不足を解消できるだろう。
鬼に金棒、島津に大砲ってな、台湾での川を利用した水車式ふいごをもちいての刀鍛冶による鉄砲制作や鋳造職人による大砲の生産も順調で台湾での島津倭寇海軍の戦力は順調に上昇中だぞ。
来年には薩摩にザビエルも来るしそろそろ薩摩へ戻ろうかのう。
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