第28話 ヒャッハー汚物は消毒だー、というわけで一部の首刈り族を従えられそうだぞ

 さて、台湾の西の低地にすむ原住民も色々いるが、その中の一つであるタオカス族のところにある倭寇の拠点に俺たちは船をつけた。


 そしてタイ米や開墾のための道具などを船から下ろすとともに、さっそくタオカス族の首長のところに俺は向かう。


 手土産には米、芋焼酎に薩摩芋を引っさげてな。


 首長は俺に聞く。


『ふむ、今日は何と何を交換するために来たのだ?』


 俺はそれに答えた


「いや、今回は水や食料がほしいわけじゃないんだ。

 そのかわりお前さんたちが今は使っていない湿地やその周辺の土地を使わせてほしい。

 使わせてもらえれば今後こういった食いもんや酒をこちらから提供できるはずだ」


 そう言って俺は米や薩摩芋、芋焼酎などを見せた。


 俺の言葉を聞いて首長は首をかしげている。


『あの悪霊の住まう土地を使いたいだと?

 それは構わぬがお前たちが悪霊に襲われても一切手助けはしないが良いか?』


 俺は頷く。


「ああ、それで構わない。

 先ずは米や芋を食ってみてくれ」


 俺は米を炊き、薩摩芋をふかして、芋焼酎とともに首長達に食わせてみた。


『これは確かに美味いな』


「だろう、俺たちが田畑を作ればこれが毎年が食えるようになるはずだ」


『うむ、それはよいことだ。

 成功を祈っておるぞ』


「ああ、ありがとうな」


 首長の許可も取り付けたのでさっそく低湿地の開拓を始めよう。


 彼ら狩猟採集民族は現状では原始的な焼き畑でのタロイモやヤムイモ、バナナや粟などの雑穀の栽培はしているが手間がかかり技術や労力も必要な水稲の米作りはしていない。


 むしろ芋やバナナや雑穀はおまけで春は野草、秋は樹の実、夏は海や川などでの魚介類、冬は鳥や獣の狩猟がメインだ。


 最も台湾は熱帯に位置するので冬はごく短いが。


 そして、水が淀んだ湿地には蚊が多く済むので蚊が媒介するマラリアなどの病気になりやすい。


 そのため湿地には病気をうつす悪霊がいると信じているわけだ。


 無論、湿地だけでなく水田などの水の溜まっている場所には蚊が発生しやすいのでマラリアなどの蚊が媒介になる病気にはなりやすくなるがそれは日本の西日本でも同じこと。


 特に西日本は冬に雪が積もる山がないために水不足になりやすく、水の確保のために溜池を作ることが多いためマラリヤには古来から悩まされてきた。


 そのための蚊の対策には蚊を食べる天敵となる生物が豊富な状態にしておくのがいいだろう。


「さて、先ずは神社をつくって神様に田んぼや畑作りの成功を祈ろう」


 湿地帯から少し離れた雑木林の木を切り倒して材木を作り、簡単な稲荷神と八幡神の祠を作り朱塗りの鳥居をつくって簡易的に神社を作り上げる。


 これは村人の精神的な安定安心のためや俺たちの領有権の主張のためでもある。


「お稲荷さんどうか、田畑をお守りください。

 そして八幡様どうか我らに武運を」


「どうかお守りください」


 神社を作ったら家や共用の厠、家畜小屋や井戸など生活に必要なものを作りつつ、小川の近くの湿地帯から田圃を作り始める。


「田んぼは四角に作れよー。

 そのほうが後々色々楽だからな」


「わかりましたー」


 高低差が激しかったり川がうねっていたりする日本の田んぼは明治に「耕地整理」を行い大きく作り直すまでは殆どが棚田の寄せ集めなようなものだったから、牛や馬を使って耕せる家などは殆どなかったし真っすぐ走ったあぜ道などもなかった。


 しかし、人力での耕起は大変な重労働だし今から作りはじめるなら四角につくったほうが色々効率良く稲を作れるはずだ。


 田植え定規を使うにしても四角であれば使いやすいしな。


 それとともに火山灰が積もっていたりする水はけが良い地域には薩摩芋を、乾燥しているがそこそこ水が豊富な場所にはトウモロコシを植えるための畑を作る。


 木綿やゴーヤ、サトウキビと言った以前に種を入手したが薩摩のシラス台地での栽培は難しいものもこの土地なら植えられる。


 そしてある程度村の入植の見通しがついたら、船にのり日本に立ち寄って硫黄や日本刀、海産物の干物などを船に積んで、その後広州に船で渡り、市場にて豚や食用山羊、鶏、牛、驢馬などの家畜や鯉や鮒などの魚を購入し、さらに以前刀を売りさばいた好事家の商人からある武器を購入した。


 しかし商人は首を傾げている。


「あんな骨董品が役に立つのかね?」


「ああ、十分に役に立つと思うんで助かるよ」


 台湾に戻った俺は家畜は家畜小屋で飼育し、山羊や驢馬には雑草を食わせて除草させ、その糞は硝石小屋にて硝石の生産に利用する。


 川に水車小屋を作って穀物の脱穀や製粉を楽にし、鍛冶のふいごやハンマーの動力としても使えるようにさせる。


 鯉や鮒などは水を張った田んぼに放して、ボウフラやウンカなどの害虫の幼虫を食わせつつ稲の促成にも役立たせる。


 ある程度田畑の見通しがたったったところで村の男を集めて俺は言う。


「じゃあ、そろそろ山の首狩り族のところにも挨拶に行こうかね。

 槍働きの出来るやつが10人位ついてきてくれるといいんだが一緒に来てくれるかい?」


 俺の言葉に男たちが手を上げてくれた。


「おう、若様がいくというなら俺も行く!」


「俺も行くぞ!」


 こうして10名ほどの薩摩兵児に一間槍や弓、火がついた松明、そして広州で購入した車輪の付いた四角い箱の上にポンプとノズルがついた兵器を押しながら俺たちは”台湾の首狩り族たるタイヤル族”の住まう山の土地へ向かっていく。


 そして道の脇に背の高い草が生い茂る低地と高地に間の地域にたどり着いた。


 その茂みが時折風もないのにがさっと揺れていたりもする。


「ふむ、茂みの中には50から100人といったところか。

 おそらく村の総出だろうがなかなか盛大な出迎えだな」


 俺は兵児の一人に聞いてみる。


「そんなところですかな。

 草に隠れておっても殺意が隠せておりませんな」


 俺は草むらに向けて言い放つ。


「さて、草に隠れてる連中に告げる。

 おとなしくそこから出てくればよし、10数えて草から出て来ぬのであれば相応の対処をさせてもらおうかのう。

 ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ」


 俺は数を数えながら広州で買った、猛火油、古代中国のポンプ式火炎放射器を使う準備を行わせる。


 相手はこちらが道を進んで包囲できるようになるのを待っているのだろう。


「ななつ、やっつ、ここのつ、とう、やれい!」


 俺は手を上げた後それを振り下ろす。


「はっはー、皆焼き殺してやるぜ!」


「燃えろ燃えろー!」


 猛火油のノズルの先から蒸留を繰り返してアルコール濃度を揚げた芋焼酎が霧状に吹き出されそこに松明を掲げると炎が草むらに向かって伸びてゆく。


『ぎゃあああああああああああああああ!』


『ぎええええええええええええええええ!』


 草の焼ける匂いとともに肉が焼ける匂いもあたりに漂う。


「どんどん焼いて燻り出せ!。

 そして道に出てきたものは仕留めよ!」


 俺は兵児たちにそう伝える。


「おおう!」


「わかりました!」


 猛火油は900年ごろの中国の宋で使われた”攻城兵器”。


 真鍮の四角い燃料タンクの上に水平に真鍮のポンプと小口径ノズルがセットされていて、ポンプを押すとタンクの中の蒸留されたナフサが霧状に吹き出すのでそれに焼けた鉄を近づけて炎を投射する仕組みになっている。


 最も大砲の普及により射程の短い猛火油は次第に使われなくなっていくのだが。


 さらに向かい風が吹いているときなどに使ったら悲惨なことになるが、その威力はかなりのものと聞いていたがこれほどとはな。


 最も火炎放射器自体は第二次世界大戦でも使われている立派な兵器でその効果も狭い空間や可燃性のものが多い場所では絶大なものがあるのだが。


『があああああああああああああああああああ!』


『うわああああああああああああああああああ!』


 アルコールの霧を被って燃え広がる茂みから竹槍や石鎌を手に持った男たちが逃げてくるのを一間槍で突き、弓矢でいかけて打ち倒していく。


 やがて、敵はほうほうの体で逃げ出し山に戻っていったようだ。


「倒したのは20人というところか、まあまあじゃな」


 そういう俺に晴れ晴れとした顔で言う兵児。


「これで薩摩の恐ろしさを奴らも思い知ったでありましょう」


「しかしさすが若ですな。

 草に隠れ潜んでいるならば草ごと焼いてしまえば良いとはよく思いついたものです」


 俺は頷く。


「ああ、連中はいままで同族間の争いで火攻めにあったことはおそらくなかろうからな。

 それだから草の中に隠れ潜むという手段を取っていたのだろう。

 それはともかく倒したものの首を袋に入れて槍にくくりつけよ」


「わかりました!」


 俺は兵児たちに地面に倒れ動かなくなったタイヤル族の男たちの首を小刀で切り落として袋に包んで槍に掲げさせると村落へ向かう。


「たのもう!」


 結構大きめで家も多いタイヤル族の村落はひっそりとしている。


「誰かおらぬのか?

 おらぬなら小屋をすべて焼き払っても良いが!」


 俺が大声でそういうとこの村の首長らしき男が出てきた。


『やめてくれ、この村は炎の化身たるお前に従う!』


 どうやら猛火油による火攻めはよほどのトラウマらしい。


 しかし炎の化身?


 ああそうか進みすぎた科学は魔法と区別がつかないってやつだな。


 彼らにとっては炎が飛び出してくるというのは魔法のようなものなのだろう。


「おお、そうしてくれれば助かるぞ」


『一度に20の首を上げたものなどここ最近はおらぬ。

 お前は恐ろしい男だ』


「鬼島津は俺ではなく弟なのだがな。

 それはともかく俺に従うというのなら西のタオカス族や俺たちに対しての出草は今後禁止する。

 そしてお前さんたちのところの男には俺の下で槍働きをしてもらう。

 無論とった首の数や相手の地位によってはその分報酬も出すそれでどうだ」


『わかった、村の男で戦えるものはお前に従わせる。

 だから女子供まで全て焼き殺すのはやめてくれ』


 いや別にそんなつもりはなかったんだが。


「わかったそちらが従ったならばこれ以上これを使うつもりはない。

 今後は上手くやっていこうじゃないか」


『ああ、わかった。

 それと他の村と出草をやりあう時は力を貸してほしい』


「ああもちろんその時はお前さんに力を貸すぞ」


『そうであれば助かりますぞ。

 何なら我が娘をあなたに捧げましょう』


「ああ、いやすまんそれはいらん」


『そうですか我が娘ながら良い娘だと思うのですが』


 うん、すまん。


 中国人とフィリピン人をあわせたような外見がちょっと俺の好みに合わないだけなんだ。


 そしてどうやらこの村の人間は俺を炎の化身と信じ込んでしまったようだな。


 だが、こうしてタイヤル族の山の端っこの村の一つを俺は従えた。


 狩猟採取民族に対しては公益的な利益を与えての土地の譲歩を、狩猟民族に対しては力を見せつけることでとりあえずは部下として従わせることができたようだ。


 無論数多いタイヤル族のごく一部を従わせたにすぎないのだけどな。


 こうして台湾島に俺の直接統治を行う足場はできた。


 あと、俺に従ったタイヤル族の男たちは薩摩兵児に負けず劣らず勇猛果敢で優秀な兵士だ。


 お陰で明の海軍船や日本の大名の商船、ポルトガルなどのガレオン船などに対しての接舷攻撃では負け知らずになった。


 そして薩摩兵児もタイヤル族もたらふく食わせてやれば割りと満足してくれる。


 倭寇としての活動が捗るようになってなによりだな。

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