第25話 冬は冬でやることがたくさんあるが芋焼酎をつくってみようか

 さて、薩摩芋は豊作でこれなら量的には余裕で来年まで食いつなぐことが出来る。


 そしてサツマイモは、深く掘ったいも穴に藁(わら)などを敷いてその上に乾燥させて水分を減らしていれて保存しておくと翌年までは持つ。


 だからといって冬の間はのんびり過ごすというわけにも行かない。


 まだまだやることはたくさんあるんだ。


 農民たちには一反ごとに違う種類の作物を試しに作らせてみた。


 冬に作る小麦や大麦などの麦類、大豆やエンドウ豆や空豆などの豆類、ほうれん草や大根、蕪などの冬野菜、いちごなどを作らせて、二毛作で美味く育つか試させつつ、まだ手を付けていないシラス台地に畑を新たに開墾させ、溜池もちょこちょこ作らせている。


 水が必要なものは溜池から水をまくようにさせている。


「しかしこれ以上畑を作っても芋が余るんじゃありませんか?」


 農民の一人に聞かれた俺は答える。


「余ったら米と交換すればいい。

 それに酒を創ってもいい」


 答えに納得したのか農民は頷いた。


「なるほど、それは良いお考えです」


 薩摩芋は米に比べても狭い土地でたくさん取れるし米程は手間もかからない。


 とは言え主食に出来る穀物や豆もやはりほしい。


 薩摩芋はやはり甘すぎるのだ。


 米の代わりに主食が毎食全部ダダ甘なホットケーキだったらやはり嫌になるだろう、それと同じだな。


 飢えないで済めばそれで満足するほど人間は単純ではないらしい。


「あとは薩摩芋の保存のために干し芋や芋餅(かんころもち)を作りつつ焼酎も作りたいところじゃな」


 弟が不思議そうに聞く。


「この芋で酒ができるのか?」


 俺は頷く。


「ああ、いままで作っていた雑穀酒よりよほど作りやすいはずだぞ」


 弟は顔を輝かせる。


「うむ、それならばさっそく作りたいものじゃな」


 焼酎はもともと芋やコメなどが豊富な東南アジアで作り始められ11世紀ごろのシャム国(タイ)のラオロンと呼ばれる蒸留酒を元にして周辺地域へ広まっていったらしい、木製の蒸留器も中近東や西洋の陶器や真鍮などとは違って独自に改良されたようだ。


 この蒸留酒が日本へ入ってきた経路ははっきりしないが、シャムから琉球経由で一度日本に入り様々な焼酎が作られ、それが琉球に製法が戻って伝わり泡盛になったという説が最も有力らしい。


 その他には中国の雲南地方から、福建を通って琉球に伝わった、中国から朝鮮半島を経由した後、日本へ伝わった、倭寇経由で伝わったなどいろいろ説がありそれぞれのルートで別々にいろいろな酒が入ってきた可能性もあると思う。


 薩摩の焼酎は琉球経由の可能性が高いし北九州であれば朝鮮半島経由の可能性も高いだろう。


 いずれにせよ日本へ焼酎が伝わったのは15世紀の中ごろつまり100年ほど前にはすでに伝わっていて、九州では焼酎はかなり広まっていた。


 当然だが製造に必要な蒸留器や麹(こうじ)についてもこの時に一緒にはいってきている。

 そして琉球や薩摩を含む南九州では、米を用いた日本酒よりも雑穀をもちいた焼酎の生産が盛んであった。


 南九州のシラス台地の多い地域では米が取れる量が少ないので酒に回す余裕が無いのだな。


 なのでキビ・ヒエ・アワ・ソバなどを麹で発酵させて酒にしてそれを蒸留して飲んでいるわけだ。


 いや、これはこれでうまいものではあるのだが。


 俺は干し芋などを作らせながら酒造りをすすめることにする。


 酒造りには専用の小屋を作り城下から酒造りをしているものを呼び寄せた。


「ふむ、この芋で酒を作るのですな。

 では麹作りを先ずはせなばなりませぬ」


 酒造職人の言葉に俺たちは頷く。


「うむ、ではまずは麹を作らんとな」


「うむ、さっそくやってみようではないか」


 麹作り酒や味噌などを作る際に最も大事なのは麹造りであるともいわれる。


 米を水で綺麗に洗って水切りをしたあと蒸して、さました後、それに麹菌を散布し、菌を繁殖させる。


 ちなみに麹菌は納豆菌より繁殖力が弱いので納豆を食べた後に手を洗わずこれをやると麹が全滅する。


 そして製麹して増えた麹に、水と酵母を加えて酵母を増やす。


 この時温度が上がりすぎると酵母が弱り酒の原料が腐りやすくなるので秋から冬にかけてやるわけだ。


 こうやってつくった酒母に、傷のない芋を選別し、ヘタを取って皮を向き、水洗いして蒸した後、潰してペースト状にした薩摩芋をくわえてさらに発酵させていくと麹がデンプンを糖にし、酒母が糖をアルコールに変えていくわけだ。


 微生物の力はすごいな。


 で、二週間ほど発酵させれば焼酎のもとであるもろみが出来上がる。


 で、もろみを蒸留機で加熱蒸留してアルコールを抽出すれば一応焼酎は飲める状態になる。


「うむ、うまくできたようだな」


 酒造職人も喜んでいる。


「薩摩芋が多量に取れるのであれば今後は酒も作りやすくなりますな」


「ああ、そうだ、これからは飢えないで済むし酒も飲めるようになるはずだ」


 もっともこの時点の原酒は焼酎油が多く含まれているので油を分離しないといけないけどな。


 後は瓶に入れて蓋をして貯蔵熟成すれば風合いも深まる。


 そして俺は瓶を見て言う。


「ふむ、少し飲んで見るか?

 美味く熟成いっているかどうか確かめたほうが良かろうしな」


 弟は嬉しそうに言う。


「うむ、出来具合を見るには大切じゃからな」


 瓶から柄杓で盃によそってみる。


「ふむ、なかなかに良い香りじゃ」


「うむ、苦労したかいが有ったのう」


 お前さんはみていただけではなかったか?


 まあいいが。


 そして、出来上がった芋焼酎を口にすると。


「うむ、これは良いな」


「ああ、上々な出来具合じゃな」


 蒸留酒は醸造酒とちがってほぼ糖分を含んでいない。


 しかし、アルコール度数が焼酎だと40度前後と結構高い、それでちょっとくらいが芋焼酎の旨さにあと少しになっていってガバガバ飲んでるうちに目が回ってきた。


「む、目が回ってきたぞ?」


 グルングルン目を回してる弟も言う。


「兄上もそうか、実は俺もだ」


 うむ、焼酎は水かお湯で割って飲むべきだったな。


 そして翌日。


「うー、頭が痛むな」


「うむ、兄上もか俺もだ」


 ガンガン痛む頭を押さえつつ水を飲んで二日酔いをさますためにしじみ汁を飲む。


 まあ、酒造りは美味く行ったようだし良しとしよう。


 あと深酒にも今後は注意せねばな。

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