第24話 収穫の秋が来た!芋がたくさん収穫できてよかったぜ。

 さて、芋を植えるための畑を作り、畑に芋を植えて、穴をほって貯水池を作り、民家を立てて、家畜小屋と硝石作成のための肥料小屋を作っているうちに、薩摩芋が収穫できる季節になった。


 その間の食料はアユタヤで買い付けたタイ米だったり、鶏が産んだ卵だったり、芋の葉っぱを狙う猪や鹿などの肉だったりするが、途中でどこかの敵対勢力に攻撃されたり、飢えで困るようなことが起こらなかったのは幸いだ。


 飼っている家畜たちも元気に雑草を食っているから除草の手間も省けているぞ。


 とくに山羊と驢馬は除草に役に立ってる。


 まあ、周りにいる敵対的な勢力の人間も俺の行動を”何をバカなことをしているのだ”くらいにしか思わなかっただろう。


「とは言え、ここで芋が十分取れんと困ってしまうのだがな」


 それを聞いた弟が苦笑しながら言う。


「おいおい、そんなことになったら困るぞ」


 俺は気楽に答える。


「まあ、最悪の場合は村のものを船に乗せて海に出て、何処かで食いもんをうばってきても良いがのう。

 とは言えそれではいつまでたっても薩摩が発展せぬから、ちゃんと芋が取れてくれるに越したことはないのだが」


「まあそうじゃのう、せっかく作った村じゃし」


 そして村人総出で薩摩芋を掘りにかかる。


 皆がさつまいもの蔓を引っ張り上げると、まるまるとした薩摩芋が4つ5つ実った状態でシラスの中から出てきた。


「おー、こんなにも芋ができとるぞ」


「頑張った甲斐があったねぇ」


 俺も畑から薩摩芋を引っこ抜いてみた


「ふむ、これはいいな」


 もともと薩摩芋はいろいろな理由で雑草すら生えにくいシラス台地に適応した植物だけ有って今年は大豊作だった。


「これだけあれば一年以上は困らんかのう」


 弟の顔も緩んでいる。


 薩摩芋は地下で育つので台風などの強風の影響などほとんどもうけないし、肥料も水やりも必要なく、光合成に必要な日照と適切な気温さえあれば育つという薩摩芋だからこその豊作だな。


 そしてこれだけあれば半分を年貢として差し出させて、開墾用の種芋にするとしても、来年の収穫まで食べるのに困らないと、はっきり断言出来る量だ。


 開墾した面積は広くないが十分な量が収穫できて本当に良かったぜ。


 しかも薩摩芋は甘藷とも呼ばれ、戦国時代では貴重な甘味を持っているうえに、調理の手間もあまりかからないしな。


「じゃあ、軽く焼いてみて、後はさつま汁にぶつ切りにして入れるか」


 俺の提案に弟が首をひねる。


「うむむ、焼くだけで良いのか?」


 俺は頷く。


「ああ、薩摩芋は軽く熱を加えるだけで十分うまいんだよ」


「では軽く焼いて食うてみるか」


 まあ、里芋や長芋は軽く焼いて食ったりはできないからな。


 薩摩芋は人間の唾液などに含まれているアミラーゼを保有しているので光合成でつくったデンプンを自己分解してエネルギーに出来るらしい。


 なので、薩摩芋はある程度ほおっておいても糖分が増えるから酒の原料にももってこいなわけだ。


 もちろんデンプンは加熱してアルファ化しないと美味くはないがその手間も薩摩芋は割合少ないのが良い。


 米以外の麦、蕎麦、粟、稗、黍などがあまり栽培されないのはコメに比べて面積あたりの収穫が少ないからでもあるし、粉にしないと美味くないからでもあるからな。


 そして、穀物を粉にすると言うのはかなりの重労働なのだ。


 美味い食べ物を得るためにエネルギーを多量に使うというのも結構本末転倒ではあるよな。


「よし焼けたな、じゃあ、みんなおつかれさん」


「お疲れ様じゃ」


 俺と弟が音頭を取ってまずは薩摩芋を食い始める。


「うむ、あまくてうまいな」


「本当じゃな、しかもこれだけ取れるとはすごいものじゃ」


 村人たちも芋を食い始めた。


「うむ、あまい」


「甘くておいしいわね」


「あまーい」


 見た目の皮の部分が紫色ということで最初はこわごわ食べていたものたちも、一口食ってその甘さに魅了されたらしい。


 そしてぶつ切りにした薩摩芋に鶏肉とさつまいもの葉っぱを入れたさつま汁も良い。


「うむ、良い感じに腹がふくれるものだ」


 弟は頷く。


「陣中食にも使えるかもしれんな」


「ふむ、たしかにな」


 戦をすれば腹が減る、そして腹を満たすには米などの主食でなく汁物も重要だが薩摩芋は芋だけでなく葉も美味く食える、干せばそれなりに保存もできるだろう。


 スペイン人やポルトガル人のアメリカ大陸での所業は許せるものではないにしても、乳山羊や日本や中国大陸にはない芋や豆や野菜類をマラッカまで持ち込んできたのは俺にとっては僥倖だった。


 薩摩芋があるのとないのとではシラス台地の活用方法に大きな差が出るからな。


 大豆などの豆は窒素固定能力があるので肥料はいらないが水は必要だし、蕎麦や粟などは台風で根こそぎやられてしまう可能性もあるから、やはりシラス台地での主要作物は薩摩芋を中心とするべきであろう。


「来年はもっとたくさん村を作ろうかのう」


 弟が頷く。


「うむ、それはよいことじゃ」


 今年は試しという意味も有ったし時間もあまりなかったので、さほど大きな畑は作らなかった。


 しかし、薩摩芋の生産がうまくいく目処もついたし来年はもっと人を集めることも出来るだろう。


 あと、お祖父様や父上、叔父上や元服前の弟たちにも焼き芋とさつま汁を振る舞ったが概ね評判は良かった。


「お祖父様、来年度はもっと手広くシラスを開墾してもっと芋をたくさん取れるようにしたいと思いますが許可はいただけますか?」


 祖父は頷いた。


「うむ、正直に言えば成功するとは思っていなかったが、結果を出したのは見事だ。

 人はこちらからもだそう」


 俺は頭を下げる。


「はい、お祖父様ありがとうございます。

 ではさっそく畑を開墾する民を集めようと思います」


 お祖父様が俺の言葉に驚いている。


「なんと!

 もう今から畑作りを行うのか?」


「はい、来年はもっと早くから栽培を始め春植えと夏植えに出来るようにしたいと思っております」


「ふむ、なるほどな。

 食料はどうするのだ?」


「今年収穫した芋を半分渡し、残りの中で種芋とする分をのぞいても同じ人数であれば食べさせることはできます」


「つまり40名程度であればすぐに集めても問題はないということか」


「はい、そうなります」


「ではそうするが良い」


「ありがとうございます」


 いままでは無価値とされ放棄されていたシラス台地を活用できるとなれば話もだいぶ変わってくるだろうし、二期作も成功すれば更に収量が増えるはずだ。


 薩摩は暖かいので薩摩芋を4月上旬に苗を定植し7月末に収穫することで、二作目は8月上旬に苗を定植し11月末に収穫する二期作も可能だし薩摩芋は連作障害もない。


 そして、養える人数は倍々に増えていくはずだ、だから薩摩のシラス台地に関しての開墾が俺の手を離れてもうまくいくようになれば、次は台湾の平地の開拓だな。


 薩摩で養える人間を増やすのも必要なことだが台湾の平地の開拓も早めに行っておきたい。


 貿易拠点となる港町を作り上げて貿易の中継地点にすれば商業の発展も見込めるしな。


 しかし、ザビエルが薩摩に上陸する天文18年(1549年)の8月15日には俺も薩摩にいて、きちんと奴らを抹殺しないといけないし、まったくもって体が一つでは足らないな。

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