第23話 家畜小屋を作れば硝石も作れるようになるな
さて、開拓したシラス台地に畑ができ、溜池ができ、人間が住める民家もできたことで村らしくなってきた。
民家は掘っ建てのシラスコンクリートづくりだがそれとともに家畜小屋も作った。
こちらは全木造だな。
周りはシラスの壁ではなく木の格子でおおって通風性を良くしたりしているぞ。
「ふむ、ようやっと家畜や鶏用の小屋ができたのう」
俺が出来上がった家畜小屋を感慨深げに見ていると弟が言った。
「うむ、これで芋と鳥畜生の卵や肉で食いつないでいけるということじゃな」
俺は弟の言葉に頷く。
「うむ、そうだ、そうすれば買い付けた米のもとも取れるはずじゃな」
鶏は鶏小屋で平飼いしており、そのなかに産卵箱や水桶、エサ箱、止まり木などをおいてあるが、わりと広いスペースで自由に動けるようにしている。
餌は刈り取った雑草や貝殻などで、狭い場所に閉じ込めず自然に運動できる平飼いであれば、鶏にとってもストレスが少ないので病気にかかりづらいはずだ。
鶏小屋の中の糞はまめに掃除して別の小屋に積み上げている。
豚もある程度動けるスペースを設けて柵で個別に部屋を作ってやっている。
基本的に豚は食う寝る遊ぶを十分やらせてやればいいので飼育も簡単な方だ。
ただ鶏と豚はインフルエンザや日本脳炎などの人畜共通感染症の原因になりやすいのが怖いがな。
山羊や驢馬なども柵で仕切って厩舎を作っているが、こいつらは普段は雑草をもりもり食べさせているので小屋には水くらいしか用意しなくてもすむのが楽だ。
それで家畜小屋ができたら黒色火薬の7割ほどを占める硝石こと硝酸カリウムを作るとしよう。
硝酸カリウムは窒素化合物の一種で古くから肥料や肉のボツリヌス菌対策に使われてきた。
中国やインドなどの天然硝石は、枯れた植物や死んだ動物が分解された土壌中の有機物や、動物の排泄物などの窒素化合物などが空気や水やバクテリアによって、アンモニアになりそのアンモニアを亜硝酸菌や硝酸菌が分解する過程で作られるのが亜硝酸イオンや硝酸イオンだが、亜硝酸菌などはアンモニアを空気中の酸素を用いて酸化して亜硝酸イオン・硝酸イオンを排出する絶対好気的化学栄養細菌なので酸素をちゃんと供給してやらないといけないのだ。
ただ糞尿を草や土と混ぜて山積みにして後はほおっておけばよいというものではない。
「ぐむ、これはまたえらい匂いじゃのう」
弟が顔をしかめてるが掃除が十分でない公衆便所の匂いが濃縮されているようなものだからな。
「まあ、肥料づくりはたいてい臭いもんじゃぞ」
硝石づくりにはアンモニアが絶対に必要なのでしょうがないのだな。
そして土の中のカルシウムイオンと結合して硝酸カルシウムになれば硝石はとりあえず出来るわけだ。
まあ、自然の乾燥地帯ではできた硝石は雨によって土に染み込んでいくこともなく植物に養分として吸い取られることもないのでまとまって鉱石として取れるわけだが。
だが植物も雨も豊富な日本では天然硝石は取れないとされている。
なので戦国時代の火薬や硝石はほぼ輸入に頼っていた。
また廃棄された乾燥した場所の廃屋の便所や土間、人が住んで何十年かたった民家の土間や床下の土を集めて硝石を抽出する方法もあったが量的には多くなかった。
なので、南蛮からの火薬の供給は重要だったわけだが、東南アジアでは飼育している豚や鶏の糞を硝石作りに使っていた。
元の侵攻により火薬がもちいられた時代から東南アジア地域でも黒色火薬をもちいた火器は研究されていたんだな。
戦国時代になるまでは日本ではあまり使われなかった火器だが明もしくは東南アジアからから入手したらしい火器の使用の記録自体はちょくちょく残っていたりはする。
だが湿潤な気候では、硝石は人間を含めた動物の排泄物から抽出するしかないんだが、日本では肉食の習慣があまりない上に鹿や猪がたくさん取れることも有って、ほとんど家畜を飼ってなかった。
東南アジアや琉球のように豚やニワトリを大量に飼ったりしないので、そこから採るのは無理だったわけだから、逆に言えば家畜を飼うようになれば硝石を作るのも楽になるというわけだな。
「よし、糞は肥料小屋に運び込んでくれ」
「わかりました」
硝石作成用の専用の小屋を設け、その中に土・ニガクサ、シヤキ、サヤク、ヨモギなどの草類やそれらを燃やした灰、鶏糞や豚糞、乾燥させた人糞を混合して積み上げ小山を作り、時々混ぜ直して十分に酸素を与えてやり続ければバクテリアの働きで硝石は出来る。
21世紀ならハーバー・ボッシュ法が有るから空気と水と石炭からつくれたりするんだけどな。
まあ、原理的には硝石作りは糠漬けと同じようなものだな、ちゃんと酸素を与えてやらんダメだってことに関しては。
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