第21話 さて先ずは畑を広げていこう、その後はシラスを使ったシラスコンクリートでの溜池作りだな。
さて、この時代の農民は米を年貢として半分差し出して、家族4人を養うのに農地を6反ほどは必要とされている。
一反の収穫量は米3俵ほどのおよそ180kgくらいで21世紀でも有機栽培だとこのくらいだ。
人間が一年で食うとされる米1石は2.5俵だから子供の分などは二人で年一石と少なく計算されてるのだろうな。
今年は年貢を軽くしても良いが食わせた米の分などはある程度は回収したいところではある。
となると理想は70反=七町ほど畑を開墾することだろうか。
と米で考えてしまったが薩摩芋は一反での収穫量はおよそ1000から1500Kgほど収穫できる。
平成では一反当たり2500Kgくらいまでは増やせていて理論上では3000kgまではいけるはずなのだが実際にはそううまくいくものではないがな。
薩摩芋は連作障害はあまりないが肥料をやりすぎると収穫が減るという特性も持っている。
それでも米の5倍から8倍ちょっとは取れるのだ。
だとすると20反もあれば20000kgつまり20トン程度の薩摩芋は確保できるという計算だ。
半分の10トンを開拓者の人数の46人で割っても一人頭220kg弱は確保できるはずだから多分十分だろう。
「ふむ、20反であれば半月もあれば出来るな」
俺がそういうと弟は首をかしげた。
「たったの20反か?
それでは食って行けぬのではないか」
いやいやと俺は首を振る。
「大丈夫だ、この甘藷は米よりもずっと土地を使わずに多く取れるからな」
そして俺は農民たちに指示をする。
「植える芋の苗の間は一尺(約30cm)間隔にしていけよ」
「はい、わかりました」
種芋をそのまま植えるのではなくそこから芽を出させて、畝を作った後で苗を植えさせているがこれで多分大丈夫だろう。
シラスは粘土などを含まないので掘り起こすのは容易なのもいい。
江戸時代の薩摩の農民は年貢としては米を作りつつも、空いた場所で薩摩芋を栽培していたから厳しい年貢の取り立てが有っても餓死などはしないで済んだ。
そしてスペインが薩摩芋の国外への持ち出しを禁止した理由も肥料などをほとんど必要としないのに米などよりも収穫が多く、単位面積あたりのエネルギー生産力が極めて高いからだな。
ポルトガルの管理は大雑把だったみたいだが。
ジャガ芋の1.2倍、米の2倍、麦の3倍、大豆の5倍程度のエネルギー生産力を持つ薩摩芋はとても素晴らしい作物だ。
では年貢を薩摩芋に変えればよいではないかと思うかもしれないが、残念ながら米と違って薩摩芋は長期保存が難しいし、主食にするには甘みはかえって都合が悪く、輸送時に傷ついて腐敗してしまう可能性が高く、アミノ酸やタンパク質が少ないので芋だけではタンパク質が不足するなどの理由で、俵に入れておけば何年かは持ち、俵に詰めれば運びやすく、アミノ酸のおかげで美味い米と違って薩摩芋は日本では主食にならなかったが、マダガスカルなどでは薩摩芋は主食だったりする。
なのでやろうと思えば薩摩の主食を薩摩芋にすることは可能だろうと思ってる。
タンパク質不足は乳山羊の乳、鶏の鶏卵、山羊や豚や鶏などの肉などで補える予定だ。
20反=2町の薩摩芋畑を作り終えたら今度は溜池を作る。
シラス台地は透水性が高すぎるので水がたまらない、なので台地に池を作るとなると方法は限られてくる。
溜池を掘って作った後で透水性の低い粘土を池の底に貼り付けるのが普通のやり方だろうが、薩摩ならではの方法がある。
シラスと石灰や貝殻、それに灰や海水を合わせることでローマンコンクリートを作るのだ。
幸いシラスはこの場所に大量にあるし掘り返したものを使えばいい。
石灰と海水はよそから運び込まなければならないがそれには驢馬を使って地道に運ぶしかない。
しかし石灰も海水も貴重な資源ではないから使っても怒られるようなこともない。
「まあ、この崖を運び上げるのは大変だがな」
「いや、全くだぞ。
足腰の鍛錬には良いがな」
俺たち兄弟が率先して運びながら開拓志願者たちにも当然運ばせている。
まあこの時代の人間は米1俵の60kgを担いで運ぶくらいは普通にできるとは言え、流石に荷物を担いで急な坂を登るのは辛いのでちょこちょこ休憩しながら運んでいる。
「さて強化漆喰で溜池を作るとするかね」
「そんなことが本当に出来るんかな?」
「まあ、大丈夫なはずだ」
ローマンコンクリートと原理的に同じであるシラスコンクリートの作り方は簡単で砕いて粉にした石灰岩と同じように砕いて粉にした貝殻に掘り返したシラスを混ぜ、それに草木を焼いた灰と海水を混ぜて溜池に流し込んで踏み固め、その上に水をかけて一晩放置しておくだけだ。
そして翌日上手く固まっている様子を見て皆が驚いている。
「こんなにすぐに固まるとは」
「だから言ったろう」
これで雨が降ればここに水が貯まるはずだ。
飲用可能な水が確保できればここに家や家畜小屋を立てることもできるようになるはずだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます