第20話 シラス台地を開拓して薩摩芋を先ずは増やそう

 さて、元服を終えた俺は城下に家畜小屋を作らせ、山羊や驢馬、豚、鶏などは一旦そこに入れて飼育することにした。


 そして張り切ってシラス台地の開拓、畑作りに取り掛かったのだ。


「まずは土地の開拓の志願者を集めねばな」


 俺は城下の村人などに対してシラス台地を開発するための村人を志願制で募集した。


 その際には開拓の最中などはこちらから米を支給し生活に必要な道具も用意することを付け加えた。


 とはいえシラス台地は作物が育たない不毛な土地だからこそいままで放置されてきて、道の整備すら行われなかった。


 行き交う人間がいないのだから当然だが、そんな場所を元服したばかりの俺や弟と一緒に農地を開拓しようなどと言ってもまともに田畑を持っている人間がやってくるわけはない。


 だから開拓に志願してきたのは田植えが終わったため余剰労働力の口減らしとなった、老人達や三男三女以降などの土地を継げない男女などだ。


 実数としては男が20人、女が20人、連れられてきている子供が6人ほどだな。


 明らかに支給する飯目的できてるだろうし、全員が開拓要員として扱うことができるかは微妙だがまあいい。


 来たものたちは要は口減らし要員で戦があれば雑兵として戦に参加して略奪を働き、人買い商人が来れば売られていくような連中だ。


 城下に集まったそいつらに俺は言う。


「よし、お前らよく来てくれた。

 まずは皆で飯を食おうではないか!」


 俺のその言葉に弟は苦笑している。


「うむむ、いきなり連中に米を食わすのか?」


 俺は頷く。


「そりゃあ、飯が食えれば皆文句も言わなくなるだろうさ。

 みな飯が目当てだからな」


 俺はアユタヤで買い付けたタイ米を釜で炊き、飯に梅干しを添えて、薩摩の郷土料理であるさつま汁も作らせる。


 さつま汁は豚汁のような動物の肉のはいった汁物で味付けもほとんど同じ。


 薩摩は貧しい土地柄であるため、一般の農民などでも肉食に対する忌避感は少ない。


 そして猪や鹿、狸、鳥や兎、もしくはつぶれた牛馬などの肉を大根や蕪などの根菜とともに味噌で煮た汁料理がさつま汁だ。


 さつま汁は闘鶏に負けた軍鶏をぶつ切りして野菜と一緒に煮たのが始まりともいわれてるし、薩摩鶏肉を使うからさつま汁と言う名前になったともいわれるが肉は鶏肉でないといけないわけではない。


「はあ、米と梅干しと汁を食えるなんてうれしいね」


「こりゃあ頑張らんとな」


「おいしー」


 おそらく集まったものたちは久方ぶりにまともに飯を食えたのであろうな。


 皆がうまそうに食っている。


 なにせこの時代雑兵になれば飯が食えると戦に加わるものも少なくない時代だ。


 実際の所、土地の開拓などというものは成功するか失敗するかわからない財産や生命をかけた博打のようなものだから、すでに安定した生活ができている人間にとっては必要のないもの。


 21世紀であれば一部上場や公務員がわざわざベンチャー企業で働いたりしないのと同じだな。


 だが、家にいても穀潰しと揶揄されるような立場の者にとっては今回の募集はまたとない機会でもあるわけだ。


 そしてシラス台地の開拓が成功すると本気で思ってるのは俺以外だと俺を尊敬してくれている弟たちくらいなものだろう、その思いはありがたいが知識による裏付けによるものではない。


 そして祖父や父は反対しなかったが別に開拓に失敗してもさほど影響はないから許可したのだと思う。


 失敗しても土地の開墾とはそんな簡単なものではないと成人したばかりの俺たちにその身でわからせることが出来るからな。


 集まったものたちの住居は一旦は中山城の城下の空き家に住まわせることにする。


 シラス台地にいきなり建物を立てても水源がなくては渇き死んでしまうかもしれないからな。


「では、皆の衆行くとしようか」


 俺の言葉に弟が頷く


「おう、はじめるとしようぞ。

 おう、皆行くぞ!」


「あーい、了解です」


 余った米で握り飯を作り、中に梅干しを入れて笹の葉で包んで弁当にして、竹筒の水筒に水を詰めて皆で持っていく。


 そして弟の掛け声で皆動き出した。


 やはり現場での統率力は弟のほうが上らしい。


 そして俺たちは驢馬に水樽などをくくりつけ、雑草を喰わせるために山羊も連れ出し、集まった皆には鍬や鎌、火付け道具や薪などを持たせて、雨が降ったときだけ水が流れる枯川にそって下ってくる斜面を台地の上へと上がっていく。


 シラス台地はその高度差を利用して山城としても利用されており、俺たちが住んでいる中山城もシラス台地の端にある作りになっている。


 そして台地の上のたどり着くとそこはススキや雑草の生い茂る原野だった。


 シラス台地は不毛の土地として別名シラス砂漠などともいわれるがそれはあくまでも農作物の育成に適さないというだけであって、雑草も生えない砂や岩ばかりの場所というわけではない。


「ふむ、では先ずは一反ほどの大きさで畑をつくるとしようぞ。

 皆協力して作業を行うように。

 まずお前たち男十人は草刈り。

 お前たち男十人は土を耕せ。

 お前ら女十人は山羊と驢馬の見張りをせよ。

 残りのものは刈り取った雑草を焼き、掘った土にかけるのだ。

 よいな!」


 1反の広さは畳600畳分で31.5m×31.5mの約992㎡ほど。


 狭いと思うかもしれないが全て手作業の時代ではこれでも十分大変なのだ。


「はい!」


「分かりました!」


 まずは鎌を手にとって草を刈っていき、草の刈られた後を鍬で耕していく。


 除草した草を焼いてそれを耕された場所にその灰を混ぜ込んでいく。


 山羊や驢馬は雑草をもりもり食べていってくれてるからそれだけでも除草は捗る。


 薩摩芋はこうして刈り取った雑草を焼いた灰を混ぜる程度でも十分育ちそれ以上追肥はいらない、もともと中米の火山地帯が原産なので成長期以外なら乾燥にもとても強く、根菜なので台風などの風害の被害も受けない。


「では各人芋を植えていってくれ」


「はい」


 本当は芋を植えるより蔓を植える方が良かったのだが最初はしょうがないな。


 いま芋の芽を育ててているからしばらくしたら苗で植えるようになるはずだが、急がないと植え付けの時期を逸してしまう。


 そして3ヶ月もしたらちゃんと収穫は出来るはずだ。


 一反当たりの収穫はおおよそ一石程度だから70反くらいは作らねばならぬかな。


 ここでの薩摩芋の栽培が成功したら徐々に大豆なども作付けを行っていこうか。


 ただ大豆は窒素固定能力があるから肥料はいらないが乾燥に弱い、酸性土壌にも適していない、連作障害があるなどの欠点もあるから、まずは芋が十分に取れるようになってからだな。

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