天文15年(1546年)
第19話 さて日の本に戻ってきたし、元服を済ませようか
さて広州で必要なものを買い入れた俺たちは台湾、琉球経由で薩摩へ戻ってきた。
薩摩を出てからすでに一年近く経って天文15年(1546年)になっているから帰ったら元服を行うことになるであろうな。
「久方ぶりに日の本の土を踏みましたがやはり日の本が一番ですな」
叔父上は頷く。
「ああ、俺もそう思うぞ」
そして坊津へ帰港した俺たちはマラッカや広州で手に入れた家畜や野菜、芋、豆などの種や種芋を船から降ろして家畜や鶏に青草や雑草の落ち穂などを食べさせた。
「うむ、やはり青草のほうがうまいようではあるな」
山羊や驢馬、豚、鶏はうまそうにそこら辺に生えている雑草やその落ち穂などをはんでいる。
こういった雑食性は牛や馬にはないから良いことだ。
ブタは雑食性だが厳密に言うと草食主体の雑食性で昆虫や茸などは食べるがネズミなどを食べるわけではないからな。
その他の香辛料や香料、生糸や絹織物と言ったこれから別に売りさばくための積み荷は蔵へと一旦運び入れた。
「では叔父上、俺は祖父上に挨拶に行ってまいります」
「おう、俺も後で行く」
叔父上と一旦別れ居城である中山城に戻ると俺は祖父の部屋へと向かう。
「虎寿丸です、只今戻りました。
お祖父様、お部屋へ入ってもよろしいでしょうか」
俺の言葉に祖父から返答が有った。
「うむ、入れ」
「では失礼致します」
祖父は俺の顔を見てニッと笑った。
「うむ、良い面構えになった。
お前にとっても良い経験になったようだな」
俺は祖父の言葉に頷いた。
「はい、色々と良い経験をいたしました。
そして島津にとって有益なものも手に入れられたと思います」
そう言って俺は薩摩芋を前においた。
「ふむ、何やら毒々しい色だがこれは食えるのか?」
「はい、これは南蛮人が持っており唐や琉球にもまだはいってきておりませぬ甘い甘藷でございます。
焼いても蒸しても汁に入れても美味いですし。
豚のエサにも良いものでございます。
そしてお祖父様一つお願いがございます」
お祖父様は笑った。
「戻ってきてそうそうまたお願いか?
しかし、元服を済ましたならばそうフラフラ海外へ行かれても困るぞ」
俺は頷く。
「はい、お願いでございます。
いいえ、今度は海外へ行くのではございません。
元服いたしましたらばこの城の北東の台地に、小さな村を作らせていただきたいのです」
お祖父様は首を傾げた。
「村とな?
あの場所は何も育たぬ不毛な場所だが」
シラスも高位段丘のシラス台地、台地と川の間にできるシラス急崖、川の周りの低位段丘や氾濫原であるシラス低地があり水田があるのはシラス低地。
シラス低地とシラス台地の間の高さの差は80~150mもある。
もっともシラスは掘り起こすこと自体は簡単だが。
問題は湖や沼、池などの貯水池のない水が乏しいシラス台地に住むには、水をどうして得るかが大問題だ。
村の端にでも火山灰と石灰をもちいたローマンコンクリートを用いて大きめの貯水池を作り、その他に屋根の樋の下に大きな貯水樽などをおいて天水を貯めて使うか、100mの急坂を上り下りして低地まで水汲みに行くか、深井戸を掘るかだが、労力的に掘るのも組み上げるのも深井戸は最初は難しいだろうから貯水池や桶などに天水を溜めつつ驢馬に水樽を背負わせて台地下の湧水まで水汲みに行くしかないかもな。
「はい、そのための甘藷でございます。
また村びとに食べさせるための米もアユタヤで購入してまいりました」
其れを聞いた祖父上は感心したように言った。
「ふむ、あの土地が有益に使え、今よりも多くの者を食わせることができるようになるのであればそれに越したことはない。
食わせるだけの米を買ってきたというのであれば援助も不要であろう。
シラス台地はもともと誰かのものというわけでもない場所ゆえ好きなようにやってみよ」
俺は深々と頭を下げた。
「はい、ありがとうございます」
よしこれでシラス台地の開拓をお祖父様に認められたぞ。
そして現状のシラス台地はお祖父様の言うとおり誰のものでもないから土地の権利で揉めることもない。
薩摩では田畑に向いた場所は少ないからそれこそ水争いで死者が出ることも少なくはないからな。
「それでは父上や弟達にも話をしてまいりますのでこれにて失礼致します」
俺は祖父の部屋を出て、まず父の部屋へ向かう。
「父上、只今戻りました」
父上は俺の顔を見てニコリと微笑んだ。
「うむ、良いことが有ったようだな」
俺は父上に頷く。
「はい、南蛮にて色々手に入れて参りましたゆえお祖父様の許可をいただきこの城の北東に新たに村を作る許可をいただきました」
父は鷹揚に頷いた。
「うむ、父上が許しておるなら私からは言うことはない。
お前ももう元服して一人前と見なされるゆえ行動には責任が伴うことは忘れぬようにせよ」
「はい、ありがとうございます。
父上のお言葉忘れぬように精進いたします」
そして父の部屋を出た後、弟の長満丸の部屋へ向かう。
ちょうど長満丸の更に2歳下の弟も一緒だった。
「お前たち、今戻ったぞ」
長満丸は笑って言う。
「おう、兄上無事戻ってきてホッとしたぞ」
その下の弟、後の島津歳久も笑って言う。
「海外では文も届けられぬしな」
俺も弟たちに笑って言う。
「うむ、心配をかけたようだが俺はピンピンしているぞ。
それと俺が元服したらばこの城の北東に村を作っての良いとお祖父様に許可を頂いた、お前たちも手伝ってくれるか?」
二人は頷いてくれた。
「うむ、当然手伝うぞ」
「当たり前じゃ、手伝うに決まっておろう」
俺は二人の言葉にうなずきながら努めて明るく言う。
「うむ、二人共ありがとうな」
出立前にも聞いたが当然のように答えてくれるのはありがたい。
そして俺と長満丸の元服式が行われる
おれは島津又三郎忠良と名乗り、長満丸は島津又四郎忠平と名乗ることになった。
元服はもともと中国古代の儀礼に倣った男子成人の儀式で、「元」とは首つまり頭、「服」とは冠の意とされ要するに頭に冠をかぶり元服式を済ませることで官庁へ出仕して役所仕事を行えるようになり、それとともに婚姻の準備もできたことを周囲に示すわけだ。
元服の日を境に子供の服装から大人の服装に着替え、前髪を落とし髪の毛を結い上げ冠をかぶることによってやっと社会的に一人前の扱いを受けるようになる。
とはいえ今時頭に冠をかぶるのは古臭い公家くらいで武家は烏帽子になるんだがな。
「これで俺たちもやっと一人前扱いか」
島津又四郎忠平となった弟は嬉しそうに言う。
「いや、まだまだ半人前扱いだろう。
一人前と認められるには何か功績を上げぬとな」
俺がそういうと弟は苦笑いを浮かべた。
「うむ、確かに首の一つも取らねば一人前とは確かに言えぬのう。
どいつの首を取れば一人前と認められるかのう?」
いや、そういう意味で言ったわけじゃないんだけどな。
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