第18話 季節風の向きも変わったし広州で必要なものを買い揃えたら日の本へ帰還しよう

 さて、アユタヤで硝石や火薬、鉛、タイ米、具足用の革、サファイヤやルビーなどの宝石類、香辛料や香料などを買い、マラッカで手に入れた象牙や水牛の角・鼈甲といった細工物の原材料や瑠璃・玻璃・瑪瑙・真珠・珊瑚などの宝石、胡椒・丁字・唐辛子などの香辛料、砂糖などの調味料、西洋野菜やジャガ芋、薩摩芋、豆などの種、種芋、乳山羊なども含めると、とりあえず東南アジア地域に来て入手したいものをほぼ全て手にいれられた。


 そして、ちょうど季節風も北風から日の本へ向かうに適した西風に変わったし、ルソンや台湾、広州、琉球などの港に立ち寄って薩摩へ戻るとしよう。


 宝石などを売りその売った金で家畜などを仕入れる広州はともかくその途中のルソンや台湾に立ち寄って行く必要は交易だけを考えるならばあまりないのだが、ちょこちょこ寄港して新鮮な食料や水をこまめに補給するのは乗組員の体調を維持するために大事なのだな、この時代比較的保存がきく食料は少ないから食料が腐るのは当然だが水も結構簡単に腐るし、それにずっと保存食ばかりなのもいただけない。


「いろいろな場所で色々なものを食ってきましたがやはり日の本の米が一番ですな」


 叔父上はウンウンと頷く。


「ああ、俺もそう思うぞ。

 やはり日の本の米は美味い」


 そして宝石の類は日本ではほとんど無価値なので広州で売っぱらいその代わりに広州の市場で豚や鶏、驢馬などを買う。


 豚や鶏はアユタヤで実際に見たが、狭い空間で飼育でき粗雑な餌でも育ち、その糞は硝石を抽出するにも畑の肥料にするにも役に立つ。


 そして豚や鶏が肉としても美味いのは言うまでもないし、鶏の卵はほぼ完全栄養商品でもあるしな。


 そして驢馬だが中国は軍事的でない乗用や荷運びのためとしても食肉のためとしても飼育されてる家畜であって驢馬はウマの仲間の中では一番小型ではあるのだが、意外と力は強く軍事的な輸送にも役に立つし記憶力もかなり良い、なので中国では驢馬がものすごくたくさん飼育されている。


 だが、古代から中国の影響を強く受けてきたにも関わらず日本では驢馬はほとんど飼育されていない。


 羊は日本のような蒸し暑い気候に弱く放牧に広いスペースも必要なので日本での飼育に適さなかったのだろうことはわかるのだが、驢馬は極暑地から冷地の環境にまで適応できて、粗食にも耐える便利な家畜であるが、何度か日本にはいってきているにも関わらず、日本では家畜としては全く普及しなかったのは、馬に比べ乗馬にあまり向いていない、日本馬とは大きさがあまり変わらない、草の豊富な日本では雑草でもなんでも食べ少量でも良いという粗食のメリットがあまりないなどの理由からだろうと思う。


 しかし、薩摩ではそういった粗食に耐えるというのは大きなメリットである。


 馬が好む草や大豆を手に入れるのは大変だからな。


 また、ロバはよく働くが、自分がどれくらいの大きさの荷物まで運べるか、いつ休息が必要かについては自分の意見を押し通し、無理な時は動かなくなってしまう。


 その点では馬は人間の命令を優先するのでそのせいでつぶれてしまう場合もある。


 どっちが人間として都合が良いかは意見が別れるだろうが、日本では驢馬の人間に対して従順でない所が嫌われたのだろう。


 ちなみに馬は1日の食事の摂取量は青草で25~30kg、干し草で12~15kgほど、牛は青草で50~60kg、干した草で20~30kgだが、驢馬は青草で10~15kg、干し草で4~5kg程度ほど。


 牛馬に比べると驢馬は糞も少ないし、150kg程度の荷物も運べるし、駄馬のように飼葉として大豆を多量に必要ともしない軍馬に適しなかった小荷駄用の荷運びの駄馬は餌はなんでも良いわけではないが、驢馬は適当に雑草を食わせれば満足するというのは素晴らしいし、イネ科の雑草は特にロバの好物だがそれらはたいていちょっとしたスペースがあればすぐに生い茂ってくるような生命力の強い雑草でもあるからな。


 というわけで広州でマラッカやアユタヤで安く購入した宝石を例の商人へ叔父上と仲が良い商人へ高値で売り払って銭を手に入れた俺たちは今は市場で驢馬を物色中である。


 無論繁殖に必要なので番で買うわけだけどな。


 食肉用の驢馬は歳を取ってもう働けないようなものばかりなので労役用家畜の市場で良さげな驢馬を見て回る。


「ふむう、どいつが良いですかな」


 叔父上が笑っていう。


「人間を見たら怯えるようなやつはやめておけよ。

 この市場では目利きができないほうが悪いんだからな」


 うむ、こういった家畜の飼育をしているものが家畜に対して虐待を行っていたりして買い付けた家畜が言うことを聞かなくてもそれを見抜けずに買ったほうが悪いというのが中国大陸らしい。


 もっともそれが続くようでは売り手も信用をなくすはずではあるが、たまに混じっている程度なら見抜けんほうが悪いといわれればそれまでだな。


「ではこいつらにしましょうか」


 比較的人懐こそうなやつを選んで驢馬を買い付ける。


 単純に増やして肥やして食えばいい豚や鶏は病気を持っていないことを確認して適当に買う。


 本当は羊もほしいのだが薩摩や台湾では蒸し暑すぎるし、日向や肥後の高原か台湾等の高原地域を手に入れるまでは飼育は難しいだろうな。


 あと鍋物に必須だと俺は思っている白菜の種も買ってみる。


 これはちゃんと育つかどうかは分からないが鍋にはやはり白菜だ。


 あとは日本で高く売れる生糸や絹織物などを買ったら琉球で食料や水を調達して日本へ戻るだけだ。


「さて、戻ったらやることがいっぱいあるな」


 堺などの商人へ生糸や絹織物、香辛料や香料を売り込んだり、シラス台地にさつまいもを植えたり、家畜小屋を作って家畜の飼育を開始したり、それが終わったら人を買ったりかっさらったりして台湾に田んぼやサトウキビ、木綿などの畑を開墾しつつ、原住民と融和を図るなり、抗争するなりしないといけないからな。


 ああその前に鉄砲を鍛冶職人に作らせなければならないか。


 鉄砲や火薬の作り方は薩摩はすでに知ってると言うのはありがたいけど、日本へあまり広まらぬようにしたいものだな、まあ鉄砲を日本に積極的に持ち込んでるのは日本を支配したいポルトガル人やスペイン人だからそこを叩くべきかね。

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