第17話 アユタヤは貿易町として結構繁栄してるな

 さてマラッカを出港した俺たちはシャムのアユタヤ王国へ向かった。


 21世紀のタイとカンボジアの一部をあわせた地域に当たるこの王朝は仏教のとても盛んな国でもあるしアユタヤ日本人町が出来ることでも有名だな。


 そしてヨーロッパの植民地にならなかった数少ない地域の一つでもあるし、21世紀においてタイは親日国でもあるな。


 植民地にされなかった理由はインドシナ半島の内部に存在していたから海路を考えると交易の中継点としては微妙だったのとジャングルが多くて、内部への侵攻が難しかったからだとは思うけどな。


 イスラム勢力がはいってこなかったのもそのためだろう。


 そしてマラッカなどと同じように地理的に中国とインドの間にあるという地の利を生かし、貿易が活発に行われてる国でもある。


 またタイは農業国でありタイ米の産地としても有名で20世紀のコメ不足の年にタイ米を輸入をしたことも有ったがこの時代でも明への輸出品は米だったりもする。


 もっとも日本人の口にはタイ米はパサパサしてるという理由であまり好まれなかったが、戦国時代ではそんな文句をいうやつも居ないだろうしタイ米を大規模に輸入するのも食料入手の一つの手だと思うな。


 アユタヤは中国・日本・琉球などの東アジア国家、東南アジアの島々の国々、西のインド・アラブ・ペルシアやポルトガルなどとも活発に貿易を行い、莫大な富を蓄えたのだ。


 そしてしばらくするとアユタヤの町並みが見えてきた。


「おお、見えてきましたな。

 あれがアユタヤの街ですか」


 叔父上が頷く。


「うむ、マラッカとは違いポルトガル人が支配しているわけでもないし、仏教徒が迫害されているわけでもない。

 かなり栄えている場所だな」


 たしかにルソンのトンドを更に華やかにしたような感じだ。


 すでに寂れつつある琉球とは比べ物にならないな。


 そして華僑の姿が多いのは変わらないがペルシアやアラブなどのイスラム商人やインドの商人の姿も多い。


 市には米や鶏、豚などの食料品などと一緒に東西から運ばれてきた様々なものが並べられている。


 アユタヤと敵対しているビルマ(ミャンマー)のタウングー王朝に対する防衛戦力として戦い慣れしている日本人傭兵の姿も目につくし、アユタヤには日本の刀や槍が大量に輸出されて使われてもいる。


 明ではあくまでも日本刀は芸術品扱いだったが、アユタヤでは実際に現地で使いやすいように改造されつ実際の戦闘にも使われたのだ。


 朱印船貿易貿易の最盛期の17世紀初頭ではアユタヤの武器の多くは国内生産の武器よりも日本製輸入品のほうが多かったとも言われるな。


 逆に日本の輸入品は生糸や絹織物以外だと陶器や、サメや鹿などの革製品が主でこれは鎧に使うためだな。


 その他では硝石や鉛なども輸入されていて戦国時代に使われた弾の25%程度は東南アジアからの輸入品だったらしい。


 もっとも日本の貿易量が他の国の貿易商の合計よりもずば抜けて多くなってしまったことから、華僑やポルトガル人などの他国の商人だけでなく日本人の高い戦闘力からアユタヤ王室からも日本人による乗っ取りを警戒されるようになり、1630年に山田長政が暗殺され、日本人町は「謀反の動きあり」として焼き払われて住民は虐殺されたあと、1635年に江戸幕府は、東南アジア方面への渡航と、この地域に永住する日本人の帰国を禁じたために日本人街はほぼ消滅したのだが。


 市に関しての規模は広州よりは劣るがマラッカやルソンのトンドよりは活発という感じかな。


 もっとも明で安く買える生糸や絹織物をここで買う必要はない、逆にそこそこ高く売れるからここでは残りの生糸や絹織物などを売って、鶏糞や豚糞、コウモリ糞などから抽出されている硝石や火薬、鉛、タイ米、具足用の革などを買っていく。


 とは言えやはり言葉はわからないのでやるのは叔父上だけどな。


「うーむ、言葉を覚えるというのは大切なのですな」


 叔父上は頷く。


「うむ、海を渡って商売をするならまずはそれが大切だな」


 このあたりは米、硝石に鉛に加えて広州に持っていけば高く売れる品質の良いルビーやサファイアなども含んだ宝石類も安く手に入る。


 香辛料や香料のたぐいも安いから買いだな。


 交易先としては確実に抑えておくべきだな。


 まあ日本では真珠も含めて宝石は全く見向きもされないんだが。


「さて、これで後は高山国と広州に立ち寄って日の本に帰るだけですな」


「ああ、どうだ船旅をしてみた感想は」


「日の本など狭いものではあると思いますがやはり日の本が一番ですな」


「うむ、その意見は俺も同じだ」


 そう言って俺と叔父上は笑いあったのだ。


 色々いい経験では有ったと思うし、シラス台地を活用しての薩摩芋の栽培による食料の増産や高山国の農地を開発して水田やサトウキビ、綿などの栽培も出来るのではなかろうか。


 まあ、やるにしても少しずつではあるけどな。


 そして市にある食料品を扱っている場所の端にある屋台でうまそうなものを見つけた。


「叔父上あれは?」


「ああ、ゲーンキョワーンか?

 辛くてなかなかうまいぞ」


「では、ぜひ食べてみたいです」


 ゲーンキョワーンはいわゆるタイ料理のグリーンカレーだ。


 そしてタイでは米が普通にあるのでスープカレーとしてセットで食える。


「では腹ごしらえをしていくか」


 叔父上が屋台で注文をする。


 俺たちがテーブルの付属の椅子に座って暫く待つとしばらくし緑色のスープカレーとたかれた米が運ばれてきた。


「おお、いいですなぁ」


「そうかそこまで感動するほどのものでもないと思うが?」


 ゲーンキョワーンは多数の香辛料やハーブなどを石臼ですり潰して粉やペーストにしてそれを炒め、それにココナッツミルクやナンプラーをくわえて、具としてナスと鶏肉や豚肉、エビや魚を加えて煮込んで作るものだ。


 そして運ばれてきたものを木匙ですくって飲む。


 うむ、ココナッツミルクなどの甘みと香辛料などの辛味が程よいハーモニーを奏でているな。


「お、おお、これは良いものです」


 叔父上は怪訝な顔だな。


「?」


 叔父上はそれほど美味いと感じていないようだが、うんこれは美味いぞー!


 これはぜひマサラを教えて欲しいが悲しいことに言葉が通じぬのだよなぁ。


 次回来るまでにはタイの言葉や文字は絶対覚えておこう。

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