第14話 今のうちに高山国こと台湾島をおさえておくのはいいかもしれないな
さて、生糸や染色された美しい絹織物を手に入れた俺たちは広州の港を出て南蛮こと東南アジア地域に向かっているが、最初はフィリピンのルソンへ向かう予定だ。
そしてその途中で立ち寄ったのが高山国こと台湾島だ。
「ほう、ここが高山国でありますか」
俺の言葉に叔父上は苦笑する。
「まあ、国というほどこの島は発展はしておらぬがな。
広州のような市があるわけでもない。
ゆえに俺たちのような倭寇が水とちょっとした食料を補給するために寄港する場所としてはちょうどいいのさ」
俺は叔父上の言葉に頷いた。
「なるほど、そうでありますな」
4万年ほど前に初めて日本にホモ・サピエンスこと現生人類が大陸から日本列島へ渡ってきたのは台湾からであると考えられていて、そのころのヴェルム氷期の時代は寒冷化により海面が21世紀よりも100メートルも下であったことから、台湾はアジア大陸と地続きで、南西諸島も陸続きであった部分が多かったらしい。
そうした理由でこのあたりが地続きになったことからおそらくは荷物を運ぶために船も使いながら北上した人間とともにハブなどの動物も台湾から渡ってきたが、その頃の九州は寒かったことなどもあったので、日本の本土にはハブははいってこられなかったらしい。
それを考えると与那国遺跡なんかは氷河期に住んでいた人間の住居跡であっても全然おかしくないんだよな、インドの海底にも色々遺跡はあるらしいし。
そして台湾から渡ってきたオーストロネシア語族は日本における縄文人の主要なメンバーの一つだ。
その後、2万年から1万7千年くらい前に氷河期が終わり、ロシアやカナダなどの氷床が融解して海水面が21世紀よりも5メートル以上上昇したときに標高の高い島がある場所を除いて、標高の低い島はすべて海面下に水没した時代が有った。
この時、人間は船で島を脱出したが、ハブはすべて死に絶えてしまったので、標高の高い島に棲んでいたバブだけが生き延びた。
南西諸島でもハブが居たり居なかったりするのはこのせいらしい。
それはともかく台湾に話を戻すがこの島に人間が住み着いたのはかなり古いのは間違いないが、長い間大陸の国はこの島には手を出してこなかった。
このあたりはただでさえど田舎扱いされていたからと言うのもあるだろう。
もちろん台湾の存在自体は、東海上にある島として古くから中国人にその存在を認識されている。
蓬莱島は日本列島ではなく台湾である可能性もある。
しかし、戦国時代の現在でも住んでいるのは焼き畑で芋やバナナなどを栽培しながらのんびり狩猟採取生活をしている住民がいるだけで、元や明はこの島を領有地としていない。
なのでこの時代は倭寇の根拠地として使用されるのみであったのだ。
もう少し先になるとオランダやスペインが台湾島を領有し東インド会社を設立して、東アジアにおける貿易の拠点としていったし、21世紀ではFoxconn、ASUS、Acer、BenQ、Realtek、GIGABYTE、HTC、CyberLink、ASRockなどパソコンやスマートホンの部品や本体、ソフトウエアなどを取り扱っているハイテク企業も多数あってかなり工業化も進んでいるんだがな。
ちなみに台湾島は日本の九州と同程度の大きさがあるかなりでかい島だ。
「ふむ、この島を島津の領土とすれば食料生産が捗りそうですな」
俺の言葉に叔父上は首をかしげる。
「そうか?
水田を作るのに適した場所であるとも思えぬのであるが」
たしかに台湾島は島の西部には平野があるのだが、中央と東部は山地で耕作可能地は島の約30%にすぎない、だがそれだけあれば十分とも言える。
少なくとも薩摩の水田に適している地域よりはあるかに広いのだ。
それに夏でも雪が消えぬ高山地域であれば蚕などを飼うこともできよう。
「薩摩の土地にいまから新しく水田を作るよりは遥かに楽でございましょう」
叔父上は頷いた。
「ふむ、なるほど。
それはそうかもしれないな」
俺は言葉を続けた。
「馬や牛、山羊だけではなく山の上の寒くなりそうな場所では羊や蚕なども飼いやすいでありましょう」
叔父上は再び頷いた。
「なるほど、それも確かに一理はあるな」
俺は苦笑しながら言葉を続ける。
「とは言えそのためには人手もたくさん必要でありますな」
叔父上はやはり頷く。
「ふむ、薩摩の食い詰め者を呼ぶだけでは足りなそうではあるな」
俺はその言葉に頷く。
「北九州たとえば博多などで売られておる人間や広州で売られている人間を買ってこの島へ連れてきて土地の開墾を行わせるのが良いでしょうな。
おそらくこの島の原住民には日の本や大陸の農民のような農耕作業は向いておらぬと思いますゆえ。
農民として作業を行うことを刷り込まれておる者のほうが良いかと思います。
無論九州や四国、中国地方の貧しそうな村の農民に食料を与えて台湾島への移住を進めてもよいですし、それでも足りぬならば適当に村からさらってきても良いですな。
できれば糸紡ぎの知識を持つものや機械もさらってこれればなおよろしいでしょう」
叔父上が俺をみて唸っている。
「うむ、さすが父上より英才教育を受けておるだけのことはあるな。
薩摩に戻ったら俺からも父上にこの島を島津が制圧し領有することを勧めてみようか」
「はい、そうしていただければありがたいことです」
ただ単に衣などを原住民に与えて水や芋などを補給する場所で終わらせるのは全くもってもったいない。
しかしながら、いずれヨーロッパの船も来るであろうから、そのときにはそれを打ち払えるようにもしておかねばならぬな。
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