第12話 唐人は仲間と認めたものには義理堅いがそれ以外は全部敵と考えてるらしい

 さて、干鮑が結構な値段で売れたので、気を良くした俺たちは叔父上とつながりがあるこの港の好事家の大商人の元へ日本刀や硫黄を持ち込むことにした。


「さて、主人はご在宅かな」


「少々お待ちくださいませ、どうぞお入りください」


 屋敷の門番に話しかける叔父上に対して門番は頭を下げた後屋敷に入るように告げたらしい。


 俺や部下たちが荷車に積んだ硫黄や日本刀が入った箱を運び入れると、屋敷の主が愛想よく叔父上を屋敷に迎き入れた。


 中国の人間は親しい相手でもあっさり裏切るようなイメージもあるし、基本国家という組織の庇護が得られることをあまり信用していないが、信用した人間に対しては実際はかなり世話をすることもある。


 彼らは将来の投資ということで若い人間の面倒を見たりする場合もある。


 彼らは個人的な商業取引においての信用のつながりはとても大事にするのだな。


 まあ、それ以前には海の上でバキバキドカドカやりあったりもしていたらしいが、やりあって部下をどんどん失うよりこっちを抱え込んで商取引させたほうが良いと判断したのだろう。


 倭寇は相手の出方によって戦闘も略奪もするが正当な商取引だってするのさ。


 敵ばかり増やして行くのも得策で無いしな。


「どうやらお前さんの歓迎のための宴席を設けてくれるようだぞ」


 叔父上が俺の身分を告げたら将来におけるいい取引相手とあいては考えたらしいな。


「ほう、それはありがたいですな」


 叔父上はにやりと笑う。


「ああ、うまいものがたらふく食えるぞ」


 そして案内された豪華な宴席の間にはうまそうな料理が大皿で並んでいた。


 まず中央にはでんとこんがり茶色く焼けたうまそうな臭いをさせる小豚の丸焼きや鶏の姿揚げがおいてあり、その脇には海鮮炒飯や蝦焼売、つぶ貝の強火炒め、牛肉のオイスターソース油炒めなどがやはり大皿に盛られており、干し椎茸と鶏肉の蒸しスープ、卵とワカメのスープなどがはいった容器からはうまそうな匂いを立てる湯気が上がっていた。


 中国でこういった宴席で大皿や大きな容器から取り分けて食べるのは毒殺を警戒してのことではあるが素直にどれもうまそうだ。


「うむ、素晴らしいですな」


 俺の言葉を叔父上が伝えるとあちらさんも素直に喜んでいるようだ。


 そして叔父上の紹介でこの屋敷の主の王(ワン)氏がこれからもよろしくと言ってるらしいことはわかったが俺の心は料理でいっぱいだった。


 弟たちも連れてきてやったほうが良かったかな。


「では、乾杯」


「乾杯」


 紹興酒を盃に注いで皆でそれを飲むと料理を小皿に取り分けて食べてゆく。


 俺は飯を食いながら叔父上に聞いた。


「結局商いの方は上手く行ったのですか?」


 叔父上は腕組みをしていった。


「うむ、刀の方はほぼこちらの言い値で売れたが、硫黄はだいぶ負けさせられた。

 それを考えるとトントンだな」


 ふむ、硫黄のほうが重くて運んでくるのが大変だったのだがな。


「そうなると今後の商いで重要になるのは鉱石ではなく、海鮮の乾物や刀剣などであると考えたほうがよろしいのでしょうか?」


 叔父上は俺の問に頷いた。


「そうだな。

 硫黄は火山がある場所であれば簡単に取れるし最近は日の本だけでなく南蛮からの取引も増えてるらしい。

 取引が増えれば値が崩れるのは当然だからな」


 ふうむと俺は息を吐く。


 硫黄は薩摩で取れる特産物であったがそう甘いものではないらしい。


 ここで言う南蛮とは中国の南方のいわゆる東南アジア地域だ。


 そして南蛮船というのは東南アジアの方から来る船という意味なのだ。


 なのでマラッカを制圧したポルトガル人やスペイン人などの西洋の白人もベトナム・タイ・マレーの人間も一緒くただ。


 中国の中華思想では東の東夷は日本、北の北狄は遊牧民たち、西の西戎も遊牧民たち、南の南蛮はベトナムやタイなどを主に指してると思う。


「希少なものであれば高く売れるが希少でなくなれば、当然のごとく値も下がるということですなぁ。

 商売というのはなかなか難しいものでありますな」


「まあ、お前はそのあたりが理解できるだけましだな」


 確かに田畑を広げて米の収穫量が増えれば良いとだけ思っているものでは、商いはなかなか理解できないものではあろうな。


 どの場所ではどのようなものに需要があり、供給が足りているかというものを把握する必要があるのだから。


 やがて宴席は終わった、大量に料理は残っているが残ったものは下男下女のようなものが食べるらしい。


 叔父上は今後とも宜しくというと、銭を受け取った。


 まあまあの量のようではあるな。


 そして俺たちは屋敷をでた。


「では生糸の買い付けにでも行くか」


「はい、叔父上」


 中国から商品を輸出する場合でもっとも利益が大きいのは生糸や絹織物だからな。


 俺たちはそういった繊維品や衣料品を売っている路地へ向かうことにしたのだ。

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