第10話 ヒャッハーな倭寇連中にとって明の軍船はいいかもらしい
さて琉球で硫黄を銭に少し買えた変えた後、その銭で食料や水を補給して俺たちは広州へ向かう。
船は順調に進んでいて、そしてもう少しで広州へたどり着く海域まで来た。
俺は念のため叔父上に聞いた。
「ちなみに俺たちは密入国の密貿易船に当たるのですよね」
叔父上はガハハと笑って言う。
「ああ、そりゃ正式に日本で明との貿易許可を持ってるのは大内だけだからな。
後は皆、密貿易の船ばかりだ。
もっとも賄賂さえ渡せば官憲は見て見ぬふりだが」
元々明の洪武帝は農民出身だから重農抑商の政策を取っていたくらいだしな。
本来の海禁政策で朝貢以外の外国の船を認めないというのもそれが原因だ。
「明国という国の皇帝などの上層部と下級の役人や商人の考えは同じでないということでしょうか」
叔父上は頷く。
「ああ、そういうことさ、国の上がその都合で交易を禁止したところで、それが守られるとは限らんということさな」
まあ、このころの明はかなり落ち目で海禁政策を覆して広州を開放したのも北方などの戦争や倭寇対策で財政的に非常に厳しい状況から交易での関税を取りたかったかららしい。
現在の明は北虜南倭と呼ばれる北側のモンゴルやオイラトなどの遊牧民族の侵入や後期倭寇の活動に頭を悩ませ、多大な財政出費と人的資源の消耗を強いられることで国力を消耗し、財政を破綻させており、明という国は見た目ほど繁栄しているわけではなかったりするらしい。
琉球の馬が明に高く売れるのも北方の遊牧民族との戦いには騎兵のための馬が必要だからなんだが、そのせいで明の軍ははっきり言えば弱い。
これは武装にも現れていて倭寇が用いる刀の刀身長は3尺(約90センチ)だが、明の刀剣は2尺半(約70センチ)ほど。
更に明の刀剣は鋳造で量産した切れ味の悪い鋳鉄だが、日本軍の刀は鍛冶師が魂を込め打ち上げた刃金が用いられている。
これにより夫々の武器には強度と切れ味に格段の差があるのだ。
明国自慢の火器もろくに配備されておらず、古い型のタッチホール式、火縄ではなく熱した鉄の先を押し当てるタイプの古い型の手砲を未だに使っていたりもする。
まあポルトガルやスペインから輸入した大砲やマスケットも所持してる場合はあるけどな。
そして、明で制作された銃の銃身は銅製や青銅製であったためその銃身の耐久力にも問題があり、ある程度連続で射撃すると熱で銃身が破裂したりもする。
明の銃は微妙な性能なわけだ。
もっとも大砲に関して言えば倭寇には存在しないから比較にならないけど。
「おや、お客さんがおいでなすったようだぞ」
叔父上の言う方を見れば明の海軍の船が見えた。
おそらく哨戒のための船だろう。
「で、あれ、やるんですか?」
俺が言うと叔父上はニヤリと笑った。
「ああ、やっちまうさ」
ちなみに薩摩兵児に限らず倭寇は陰流などの剣術を用いて戦うことも明の水兵より強い理由の一つだ。
薩摩剣術と言えばタイ捨流や示現流が有名だが、まだこの時代には新陰流も存在しない。
が、示現流のもとの天眞正自源流は存在するかもしれないし、鞍馬楊心流の元になった総合体術もあるはずだがこのあたりは門外不出の流派なのでよく分からないのが実情だ。
「おら、てめえら、気合い入れていくぞ!」
叔父上が水夫共に活を入れる
「おおう!」
慌てて逃げ出そうとする哨戒船にこちらの船がガツンと接舷する。
”キェェェェェェェ!”
叔父上の部下たちが轟くような鬨の声を上げて、相手の船に乗り込んでいく。
その声にすくむ連中も多いようだ。
「はっはー!その首貰った!」
「命おいてけやぁ!」
日本刀の切れ味の前には明の海軍の水夫が持っている槍や熊手のような長柄武器は柄を切られて無力化され、刀剣で受け止めようとしても刀剣ごと袈裟懸けで一刀両断される。
そもそもろくな給料も出ず装備も支給されない明の海軍が弱いのは当然でもあるのだが薩摩兵児を舐めてもらっても困る。
まあ、そんなことを偉そうに言ってる俺は後ろで見てるだけだがな。
そしてあらかた片付いたところで相手の船の食料や水を強奪した後、船は燃やしてしまい、証拠隠滅を図る。
「ま、運が悪かったな」
叔父上の言葉に俺は頷く。
「全くですな、我々に見つからなければ死なずにすんだでしょうに」
甲板ではうばった食料や水や酒で盛り上がってるな。
まああちらさんは仕事ゆえにしかたないだろうが、ここで俺たちに出会ってしまった不幸を嘆くことさ。
日本刀対策に先の方の枝葉をそのまま残した竹槍である狼筅が使われるようになるのはまだまだ後だしな。
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