第3話 元服前に城下を見て回ろうか、そしてやはり西洋人は日ノ本にとっては害悪以外の何物でもなかろう
さて、体調も治ったし来年である天文16年(1547年)の元服に備えて鹿児島の城下を見て状況把握に努めようかと思う。
もっとも随分都合がいいことだがこの体の幼いころの記憶も未来の俺の記憶も両方残っている。
それに薩摩の方言はなぜか21世紀の現代共通語に変換されているし、俺の言葉も周りには薩摩弁に聞こえているのは助かる。
「お祖父様、体慣らしに城下に出て歩いてまいります」
俺の言葉に祖父が頷く。
「ふむ、体を動かすことも大事だが、供のものを連れて行くのは忘れぬようにな」
「はい、承知しております」
そして当然のごとく弟の長満丸がついてこようとする。
「なんじゃ、それなら俺も行くぞ」
俺は頷く。
俺自身は個人でも集団を率いるのでも武に関してはまったく自信はないが、鬼島津と呼ばれることになる弟と一緒ならば安心できるからな。
「ああ、助かる、では一緒にゆこうか」
「なんじゃ、そんな堅苦しい言い方は兄上らしくないぞ」
「ううむ、そうか?」
「うむ、なんとなく前とは違うようなきがするのだが」
「そうか、そうかも知れぬな」
「まあ、少し変わろうと兄上は兄上だがな」
気にしているのかしていないのかよくわからんな。
まあ偽物だといわれて斬られるようなこともあるまい。
俺たちは居城である中山城の城門から外に出るとそこには伊作川と多宝寺川の流れが見えた。
そして悲しいことに商店のたぐいは殆ど無い。
商売というのは住民に金銭的余裕が無いと成り立たない。
無論月に何度かの市はありそこでのやり取りは多少はあるのだが。
南九州は活発に活動する火山が多く薩摩半島も大半は鹿児島湾北部の姶良カルデラの3万年ほど前の噴火が起きたときの火砕流出によりできた外輪山の上のシラス台地で、関東のロームに比べると粘土が少なく水が浸透しやすすぎて川が少ないし台地上には沼や湖などの水が貯まる地形もない。
そのシラス台地がおおよそ国の半分ほどの割合を占める薩摩は水田に向いた場所はかなり少ないから川が流れている地域をきちんと抑えることは非常に重要だし、重要だからこそ薩摩の分家同士で血で血を洗う闘いを繰り広げてきたとも言う。
「川があればこそ米が植えられて食えるんだからありがたいことだな」
「ああ、当たり前だが兄上の言うとおりだな」
もちろん田圃の水源の川を抑えるための城でもあるし、城の防御のための川でもあるわけだ。
しかし、城の北東部はシラス台地であるためそこは道も畑も何もない不毛な土地だ。
なにせ雨が降っても水がすぐに染み込んでしまうから田圃にはできない。
そして土地が痩せ過ぎているためその他の麦などの作物もろくに育たない。
「しかし、この土地が生かせる作物があれば薩摩ももう少し豊かになるんだろうが」
「だが、この土地で育つような作物はないぞ兄上」
「ああ、今の日の本にはないな。
だが、南蛮にはあるはずだ」
「そうなのか、兄上はよく本を読んでおるしそれで知ったのか?」
「まあ、そんなところだ」
そう日本の本土には薩摩に最初に入ってきたため薩摩芋と呼ばれる皮が紫色のあれだ。
むろん米と違い長期保存はできない欠点はあるが、元々田圃として使えない場所を使って栽培するならば十分だろう。
問題はそれが未だに琉球にも入ってきていないことなんだが、幸い薩摩は東南アジアとの交易ルートがあるからスペインが制圧しているルソンかポルトガルが制圧しているマラッカにならばあるだろう。
これはお祖父様にお願いして入手していただこう。
そしてザビエルの来日はもう少し先だが、イエズス会は西洋国家スペインやポルトガルの侵略の手先だ。
ローマ教皇は勝手に世界をスペインとポルトガルに分割し異教徒ならびにキリスト教に敵対する勢力を攻撃し、対象の地域の所蔵物を奪いとり、それらの地域の住民を終身奴隷に貶める権利を認めていた。
かくしてスペインやポルトガルはアフリカ西海岸で現地の有力部族に鉄砲を与えることでその他の部族と武力の格差を付けさせて黒人奴隷を現地の人間に集めさせたし、フィリピンなどでも同じ手を使って制圧した、日本でも大友が同じことをしようとしたし、島津もそれに乗って豊後の人間をポルトガルに売っている。
だが、俺はそうはさせぬつもりだ。
キリスト教が日本に広まる前にスペイン人やポルトガル人は面倒なので栗毛人とでも言うか。
南蛮人というのは本来は中国から見て南のベトナムやタイ、マレーなどの東南アジアの人間のことだからな、ともかく西洋からの侵略者の首をすべて落とすとしよう。
奴らはこちらを同等の人間と考えていないのだからその報いを受けさせよう。
あくまでも最終的にはだが、奴らから必要なものを手に入れる必要はある。
鉄砲、薩摩芋、山羊などだな。
結果としては豊臣秀吉や徳川家光が宣教師を追放したことで宗教的な侵略は失敗し、日本人が西洋式のマスケット銃である火縄銃のデッドコピーを日本人の鍛冶職人が大量に生産することで栗毛人が支援した大名だけに武力の優位性を持たせることにも失敗した。
栗毛人は大友宗麟と織田信長を自分たちの手駒にしたかったようだがな。
もっとも鉄、鉛、黒色火薬、硝石などは結局かなりの量を海外からの輸入に頼っていたのだから貿易そのものは必要ではあるのが難しいところだが、相手は華僑系でも問題はない。
そして薩摩、大隅、琉球は倭寇の拠点の一つでもあるのだ。
それをうまく利用し比較的簡単に入手できる硫黄を輸出品として貿易を行いたいが、未だに薩摩統一もできておらず、国人も好き勝手に琉球などとの貿易をしている状況を変えるためにも、大友や大内、後の堺の商人などの船を襲って積荷を奪い、薩摩の周囲の海も制圧するために大規模な海軍を作り上げたいものではある。
しかし、腹が減っては戦はできぬのであるからやはり薩摩芋の入手が先であろうな。
「うむ、有意義な外出であったな」
「そうか?いつもと変わらぬ景色だと思うが」
「なに、俺が進むべき方向を決められた。
それだけで十分だ」
「おう、ならば俺は兄上を全力で支えるのみだ」
我ら兄弟は笑い合いながら城に戻ったのだった。
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