第4話 とりあえずは食い物を確保せにゃどうにもならんからまずはシラス台地で育ちそうな作物を植える許可を貰おうか

 さて、薩摩の土地がとても不毛で稲作に向いていない場所が多いことは自分の目で確認した。


 俺達は自分の部屋に戻り思案する。


 薩摩半島の大半はとても蒸し暑く、その上シラス台地は酸性度が高くて保水力が殆ど無い。


 更に台風により作物が根こそぎ倒されたり、桜島の噴火で火山灰を浴びることも度々ある。


 薩摩と条件がほぼ同じ大隅も同じだが他で言えば甲斐や飛騨、伊賀などに匹敵する農耕に向かぬ国ではあるのであろうな。


 もっとも薩摩と大隅は海があり漁業や琉球などとの交易ができる分だけ甲斐、飛騨、伊賀よりは恵まれていると言えるが……。


「やはり最大の問題は飯だろうな。

 しかしよくよく考えて見るに、薩摩は予想以上に農地に向かぬ場所が多い……」


 長満丸は頷く。


「ああ、たしかに兄上の言うとおりだ。

 もっと田圃にできる土地があれば飯もたらふく食えるのだがなぁ」


「その通りではあるが、無い袖はふれんし、シラスの畑でも育つ作物を試してみるしかあるまい。

 できれば南蛮の紫芋があればいいんだが、すぐに手に入るとも限らぬしな」


「ふむ、では畑に何を植えるのだ」


「まずは大根と蕪だな。

 後は陸稲、大豆、油菜ならなんとかなると思う」


 これ等は酸性の土壌でも育つからな。


「ならばなぜいままで畑を作らんかったのだろうか?」


「まずは人が住んでいる低地と台地上の高度差がありすぎて、移動が大変だということだな。

 それに台風が来たら穂はなぎ倒されるであろうし、雨がふらなかったら水が得られず枯れるだろう。

 あまりにも収獲が不安定だから、そこまで労力をかけられなかったのだろう」


「ならばそんな場所に植えても意味が無いのではないか?」


「そうならんようになんらかの工夫をするしかないな」


「ふむ、まあ、やってみる価値はあるのかのう」


「田圃にこだわりすぎるのも良くはあるまいさ」


「まあ、それは兄上の言うとおりだのう」 


 薩摩半島の内紛は簡単に言えば砂漠の中の少ないオアシスを奪い合っているようなものだ。


 それでお互いに略奪や青田刈りなどをしていたらどんどん貧しくもなっていくだろう。


 農地に適した土地が少ないから収穫できる米も少なく、養える人間も少なく、島津の本家も分家もその他の国人なども抱えている戦力に差はあまりない。


 だから、どこかがちょっと突出したら他は同盟を組んでそこを叩き、またどこかが突出したら同盟の相手を変えて叩きを繰り返してきたのだろう。


 そのため薩摩半島の統一には時間がかかってるということなのだろう。


 それに我家は分家の出であることも有って、家格で周囲を従えることもできないから、そこは周囲を圧倒する何かを手に入れなければならない。


 ならば現状ほとんど利用されていないシラス台地をなんとか利用したいものだ。


 たとえば琉球からすでに栽培されているはずのサトウキビを奪ってその栽培で砂糖を手に入れられれば資金源にはなるが、サトウキビも栽培には水は沢山必要だから少し難しい。


 薩摩半島には金山があるのでそれを掘ることで金を得ることはできるが、そのためには鉱夫に喰わせる飯や掘削や運搬のための道具が必要だ。


「やはりどうにかして大勢の人間を食わせることが、できるようにならんとどうにもならんな」


「堂々巡りになっておるな」


「とりあえずは畑を試してもよいか祖父上様に聞いてみよう」


「まあ、うだうだ考えておってもしかたあるまいしな。

 お祖父様にお願いして試させていただいた方が、良いと俺も思うぞ」


「ああ、そうしよう」


 俺はお祖父様のところへ向かった。


「失礼致します」


「うむ、虎寿丸よどうしたのだ?」


「はい、お祖父様この城の北東のなにもないところに、畑を作らせていただきたいのです」


 お祖父様は目を丸くした。


「なに、あの辺りは田圃にできぬ土地ゆえ、ほおってあるのだが何を作るのだ?」


「はい、まずは大根と蕪、後は陸稲、大豆、油菜ならなんとか育つのではないかと思うのです」


「ふむ、まあ試してみるのもよかろう。

 やって見るがいい」


「ありがとうございますお祖父様。

 後、可能であれば南蛮の紫芋を、手に入れたいのですがどうにかなりませぬでしょうか?」


「ふむ、南蛮の紫芋とな?

 ふむ、今度南蛮人が来た時に聞いてみるとしようか」


「どうぞよろしくお願いいたします」


 まあ、おそらくは現状の技術でもなんとか育つはずだ。


 あまりいっぺんに何かをやろうとすると、全部失敗する可能性もあるから、今回はまず畑を試してみよう。


 俺が未来でやっていた農業の知識が役に立つかどうかは結構微妙だが。


 成功した後は豚、鶏、山羊などの家畜を飼育することで肉の確保もなんとかしたいな。


 硫黄島で硫黄を取って硫黄と家畜をマラッカにいるポルトガル人に頼んで交換できぬだろうか?


 いやこれくらいなら琉球経由で明からでも手に入れられるとは思うが。


 正直言えばあまりポルトガル人に関わりたくはないが、明では手に入らないポルトガル人しか持っていない野菜などの食べ物も多いし最低限の接触はしかたあるまい。


 必要なものを手に入れたら、薩摩では儲けが少ないように見せかけて追い払うとしようか、まあ当面先の話ではあるが。


 もっとも薩摩には鹿や猪はいっぱいいるから、狩りでそれらの獣を狩って食えば、肉の確保は十分な可能性もあるし、そのほうが弓や鉄砲の訓練にはなるがな。


 しかし、シラス台地で放牧を試みるよりも、薩摩の周りには豊かな海の幸が取れる海が広がっているのだから魚やクジラを捕る人数を増やしたほうが動物性蛋白質の確保は楽かもしれないぞ。


 特にクジラを積極的に取るようにしたほうが良いかもしれない。


 薩摩半島は地形の関係からクジラの座礁が多くその肉や油を古くから利用してきたからな。


 また漁業を営んでいるものを私掠を行うための海兵に転換することなども考えてみてもいい気はする。


 薩摩は水軍を持っていたが、その規模はあまり大きいものとはいえなかったはずだしな。

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