第33話 悪い予感しかしないよな
俺達はあの後すぐに街を出た。日が沈んだ街道を俺は手綱を握り、二頭立ての馬車で快走させていた。
ソフィアさんとティアナさんは大きな負傷を負ったようだが、ミラ様の治癒魔法で完治している。今は後ろの客車で体を休めていた。
レミーナやミラ様も元気で得に心配するような怪我とかはない。同じく二人も後ろの客車だ。
「魔族ってのは本当に化け物だな」
A級冒険者二人に
「はい。魔族は闇属性魔力の結晶体のような生き物です。ですので魔力が尽きるまで死ぬような事はありません」
そう説明をしてくれたのは、御者台で俺の隣に座る、この道二百年の大ベテランであるミルシアナさんだ。
「だから半身になっても生きていたのか」
「魔族を倒す方法は、魔力が無くなるまで魔力を使わせる事です」
「って事はあれで半分近くは魔力を削れていたんだよな。口惜しいぜ」
「いえ、魔族相手に誰一人欠ける事なく生き延びたのです。それを祝するべきですよ」
人族と比べたら桁違いの魔力を持つ魔族。魔族一人で国が滅んだ逸話もあるぐらいにヤバい相手だ。マーラー邪神教会はこの国を滅ぼすつもりなのか?
「追ってきてくれねえかな」
俺は馬車を操りながらそうぼやく。
「もう、物騒な事を言わないで下さい」
俺達が街に宿を取らずに、夜もまだ宵の口に街を出たのには理由がある。
先ずは、また魔族が襲ってくる可能性があった事、その時に街中での戦闘は避けたかった事が理由だ。
さっきの戦闘で俺がシャイニングスマッシャーを撃てなかったのもそうだし、魔族が広範囲を焼き尽くす戦術魔法を使ってくる可能性だって有る。そうなれば関係のない人達が巻き込まれてしまう可能性が高い。
その点、街道であれば多少の被害は出るだろうが、無関係の人達を巻き込む可能性は低い。
しかし、魔族の襲来もなく夜更けには次の宿場町に辿りつく。入場門は閉じられていたため、街道脇に馬車を停めて、俺達は門が開くのを待つ事にした。
◆
「流石に何処かでゆっくり休みたいな」
朝一番で町に入る。
早朝だけに門番の二人以外に誰も町の人を見かけていない。馬車をゆっくりと走らせながら俺がそうぼやくと、ミルシアナさんが思案げな顔をする。
「それなら、良いところが有りますよ」
めちゃめちゃニコニコしながら俺を見るミルシアナさん。知り合いの宿屋でも有るのかな?
朝の町が動き始めると、女の子達は俺を馬車で荷物番にして、買い出しと称して出かけて行った。「酒ばっかり買ってくるなよ!」と念押しをしたが果たして……。
◆
「うおっと!!」
御者台から寝惚けて落ちそうになり、目が覚めた。馬車で待っている間に寝てしまったようだ。
「まだ帰ってないのか? 腹……減ったな」
御者台の椅子は、座席下に収納できるスペースがあり、俺は座席を開けて中から干し肉の入った袋を取り出す。
干し肉をかじりながら待つ。
待つ…。
待つ……。
ま………………zzz。
◆
「カイン、お待たせ〜」
またまた居眠りをしていたようだ。目を覚ますと、御者台にはリアナが座っていて、俺の顔を覗き込んでいた。
「待たせ過ぎだ」
「よく寝れたでしょ」
「どうせ寝るならベッドで寝たいよ」
リアナのおでこに、ちょこんとデコピンをして、リアナの顔をどかす。
「痛っ! もう」
おでこを押さえて、俺をプンプンと睨むリアナ。
「皆んなは?」
「後ろに乗っているよ。はい、差し入れ」
リアナから食べ物が入っている袋を渡された。「変わるよ」とリアナに言われ、手綱をリアナに渡し、俺は遅い朝食にありついた。
「あれ? 何処に行くんだ?」
馬車は町を抜けてしまい、南門から出てしまった。
「んフフフ、いいところよ」
ニヤニヤと笑うリアナ。なんだか嫌な予感しかしないんだが……。
◆
そして馬車が止まったのは、街道から少し離れた場所にある湖の
「着いたよカイン」
「なるほど……」
畔に立つ二階建てのログハウス。ここでなら魔族に襲われても、他人を巻き込む心配はない。ミルシアナさんが言うように、確かに良い場所だ。良い場所なんだが……。
「……悪い予感が当たりそうだな」
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