第32話 聖女救出作戦

 ハゲ騎士こと『天輪の嵐』の元ギルドボスのゴルアークをブッチボコボコにしている頃、ソフィアさんとティアナさんは、マーラー邪神教のクソガキ少女と魔法の打ち合いをしていた。


 あのクソガキ少女は思った以上にやりてだった。ソフィアさんとティアナさんの放つ魔法の全てを、闇属性魔法の魔弾で全てを迎撃している。その顔には笑みさえも浮かべ、全くもって余裕の顔をしていやがる。


 しかし、その均衡は崩れようとしていた。クソガキ少女は右手で魔弾を放ちながら、左手に大きな魔力のかたまりを作っている。二重詠唱は高度な魔法技術だ。まだ年端も行かぬ少女が使えるような技ではない筈だが……。


 そして放たれる闇属性の上位魔法。



「ダークネスフレアー!」



 闇の炎流がプラズマをまとい、ソフィアさんとティアナさんに襲いかかる。


 二人は精霊魔法の風の盾と水の壁を展開するが、闇の業火はそれを貫通し二人は黒い炎に包まれた。



「「キャアアアアアアアア」」



 彼女達の絶叫が部屋の中に響き渡る。俺はゴルアークに強打を当て吹き飛ばすと、すぐに彼女達の元へ駆け出す。



「ファイヤーアロー!」


 後方警戒をしていたリアナが、入口から魔法を放つが、クソガキ少女は右手から魔弾を放ち相殺する。器用なヤツだ!


 そして、黒い炎の中にいた彼女達の姿が突然消えた。



『カインさん、大丈夫ですよ。二人は精霊界に連れて行きました』



 俺の耳元で囁く声が聞こえる。姿は見えないがミルシアナさんだ。


 なるほどな。祭壇を見れば、囚われていたレミーナとミラ様の姿も見えない。ミルシアナさんが上手くやってくれたようだ。


 俺は祭壇の上にいるクソガキ少女に剣先を向ける。



「オイ、クソガキ! あとはお前だけだ。素直に投降しろ!」



 無駄だろうな。ただのガキならまだしも、上位魔法が使えるガキだ。絶対にあらがってくるだろう。



「き、キサマッ、何をしたァッ!」



 闇の炎に包まれた二人が消し炭になった、とは思っていないようだ。まぁ、術者なら手応えぐらいは分かるからな。



「手品だよ。お前の隣も見てみなよ」



 そこでようやくレミーナとミラ様が消えている事に気が付くクソガキ少女。


 この救出作戦のかなめはミルシアナさんだった。俺とソフィアさん、ティアナさんは囮だ。救出に来ました感を演じつつ、奴らの注意を引き付ける役だ。


 S級冒険者であるミルシアナさんは、最上位精霊魔法『精霊化』で、不可視である風の精霊となって祭壇に行き、更に彼女のギフト『精霊門スピリットゲート』を使い、レミーナとミラ様を精霊界に避難させた。


 更に闇の炎に包まれたソフィアさんとティアナさんも精霊界に避難させたようだ。二人は大怪我を負っている可能性があるが、聖女であるミラ様が何とかしてくれる事に期待しよう。



「い、いつの間に……。このあたしが出し抜かれただと!?」


「ああ、お前が間抜けなヤツで良かったよ」


「ま、間抜けだとォ〜。小僧ォォォ、キィサァマァァァ、舐めるなよッ!」



 俺を小僧と言うクソガキ少女。お前の方がガキだろうと言いかけて、言葉を呑み込んだ。そんなツッコミをいれていられる状況では無かったからだ。


 クソガキ少女の目が釣り上がり、口元が引きり、可愛かった顔が醜く歪んでいく。


 マジか!?


 クソガキ少女の白目と黒目が反転し、口には大きな牙が生え、髪は真っ黒に染まった。


 ベキボキと音を鳴らし、背中には蝙蝠のような翼が生える。


 魔族か!? 超災害級モンスターじゃねえか!


 魔族の話は聞いた事はあったが、見るのは始めてだ。魔族は魔界に住み、人間界に顕現する事はほとんど無いとされている。


 一説によれば、魔族は人間界の綺麗な空気の中では、長く活動が出来ないからだとか。



「聖女を何処にやった」


「手品だって言ったろ。マジシャンはタネを明かしたりはしないんだよ」


「ならばキサマの脳みそに直接聞くまでだ。邪操心魂遊戯!」



 矢鱈やたらヤバげな精神魔法が俺の脳みそに襲い掛かってきた。サバイバルが発動し、その魔法を無効キャンセル化する。



「あたしの魔法を無効キャンセル化しただと……」



 人間をなめている魔族のプライドが傷ついたのか、歯をギリギリと鳴らし俺を睨んでいる。


 更にサバイバルが発動し、魔族を倒す為の魔法が使えるようになったのだが……。


 その魔法は『シャイニングスマッシャー』。最上位光魔法の超超高熱光線だ。そんなものをぶっ放したら、地下の天井をぶち抜いて、地上にある民家も一瞬にして蒸発させてしまう。


 サバイバルは一見無敵なギフトに見えるが、あくまで俺が生き残る為のギフトで、仲間や周囲の事は考慮されない。


 近接するしかないな。


 石畳を力いっぱい蹴り、魔族目掛けて跳躍する。


 魔族が魔弾を放ち俺を迎撃する。



「リフレクターシールド!」



 左手を突き出し、上位光魔法の魔法を反射する光の盾を展開し、魔弾を魔族に向けて跳ね返す。


 接近する直前にサバイバルが炎の剣聖奥義を選択した。



「炎聖剣 焰煌斬ッ!」



 業火を纏った剣撃が、魔族の胴体を真っ二つにする。魔族の悲鳴が地下室に響く。


 やったか!?


 と思ったら、上半身のみで羽ばたき、天井に向けて魔法を放った。


 魔族の魔法によって天井の石が崩れ、降り落ちてくる。魔族を追いかけたいが、生き埋めになるリスクが高い。



「クソッ!」



 俺は追撃を諦め、瓦礫を掻い潜りながら入ってきた扉から脱出をした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る