第30話 捜索

「畜生ッ! まんまとやられた」



 ドカッと礼拝堂の長椅子を蹴飛ばす。神父とシスターたちが、ビクっと肩を震わした。


 五人の聖騎士の内、一人ぐらいは妖しいかと思ってはいたが、まさか少女のシスター含めて全員がマーラー邪神教会の人間だったとは、思いもつかなかった。



「どうしようカイン」



 奴らと別れて約一時間。街から出ていればかなりの距離を離されている。しかし、



「大丈夫だ。奴らはまだ街の中にいる」


「分かるんですか、カインさん?」



 ソフィアさんが不思議そうに俺に聞いてくる。俺はソフィアさんの首元を指差す。



「隷属の首輪だ。首輪の主人は奴隷が逃げたり、他の奴隷商に捕まった時に、居所が大雑把だが分かるような、僅かながらの感応力があるんだよ」



 普段は意識しないと感じない程度の感応力だが、意識を集中するとレミーナの気配を僅かに感じとれる。まさか隷属の首輪の呪いのような繋がりが役に立つとは思ってもいなかった。


 女の子達はハイネックやストールで隠れている首元の首輪を撫でては、何やらニヤニヤとしている。



「リアナ」



 俺はリアナに声をかけたが、リアナはミルシアナさん達と、この非常時だっちゅうのに、くっちゃべっている。



「リアナッ!」


「は、はい!? な、なに?」


「使い魔を召喚してくれ。レミーナは街の西側にいるようだ」



 召喚魔法は属性魔法と違うため、俺は使う事が出来ない。本職のリアナに頼み、捜索に適した使い魔を召喚してもらう。



「分かったわ。街中なら……」



 リアナが使い魔を召喚すると、教会のシスター達が悲鳴をあげる。リアナの足元に十匹近いネズミが召喚された。


 ネズミぐらいで吃驚びっくりしないで欲しいところだが、教会的にはネズミは疫病を運ぶ悪魔の使いの分類に属する。まぁ、仕方ないか。



「私達も手伝います」



 ミルシアナさんがそう言うと、ソフィアさん、ティアナさんが頷く。三人は精霊魔法の詠唱を始めた。



「風の精霊シルフィー、私の友達を探して下さい」


「お酒の精霊クルラホーン、お酒が大好きなレミーナさんを探して下さい」


「家の精霊ブラウニー、家探やさがしよ! 私の友達がいたら教えてちょうだい」



 三人の精霊使いが異なる精霊達に助けを願う。しかし、酒の精霊クルラホーンは役に立つのか?



「あ、あの……聖女様は……」



 不安げな顔の神父が、ミラ様を気遣っている。彼らは偽の情報で、東門にミラ様を迎えに行っていたとの事だった。



「俺達が絶対に助け出す!」



 あのガキんちょ、子供でも絶対に許さない!



「行くぞッ!」


「「「はい!」」」





 教会から外に出ると、赤い太陽が街を赤く染め始めていた。程なくして街の西側へと着く。この辺りは生産地区らしく、鋳物の臭いや、ガラスが溶けた臭いなど、独特の空気が漂っている。


 仕事帰りの工員風の男達が飲み屋を探して彷徨うろついている道を、レミーナとの希薄な繋がりを感じとりながら俺達は歩いていた。



「地下か……」



 リアナの使い魔であるネズミが、地下の下水道にレミーナの物と思われるハンカチーフを見つけた。


 裏路地にある石積みされた土手の水路にあった下水道の入口から俺達は中へと入る。下水道には整備用の歩道があり、汚水が流れる川に足を入れずにすむ。


 しかし、中は非常に臭い。俺が異臭に顔をしかめると、ソフィアさんが風魔法をかけてくれる。鼻を曲げる程の異臭は嘘のように消えた。


 リアナの杖に魔法の光を灯し、レミーナの首輪に繋がる気配を辿り、下水道の奥へと入っていく。



「この向こうだな」



 石積みされた壁の向こうから、レミーナとの繋がりを強く感じる。



「繋がりそうな水路は見当たらないな」



 ティアナさんの呟きに、皆んなが頷く。



「隠し扉が有るかもしれない。辺りを探してみよう」



 俺がそう言うと、全員で辺りの壁を調べ始めたが、それらしい物は見つけられなかった。


 俺は壁を撫でながらミルシアナさんに言った。



「なあ、ミルシアナさん」


「はい?」


「ここの領主とは面識ある?」



 ハイエルフにしてギルドボス、そしてS級冒険者ともなれば貴族との縁も多少は在るはずだ。



「は、はい。アルカス子爵とは面識は在りますが……」



 なら大丈夫か。俺は今から犯罪を犯す。いわゆる器物破損罪だ。



「少し離れていてくれ。それからリアナは氷魔法の用意を」


「カ、カイン、あれをやるの? 向こうのレミーナ達は大丈夫なの?」


「レミーナもミラ様も神聖魔法使いだ。なんとかなるだろ?」


「…………」



 リアナは俺がやる事に察しがついたようで、壁の向こうにいるレミーナ達を心配している。俺は適当な返事をして皆んなを下がらせた。


 『サバイバル』のギフトが使えない現状で、最強級にして実践では全く使えないクソ魔法の詠唱を始める。


 なにせこの魔法の詠唱はクソ長い。戦闘中に10分近い詠唱を唱えている時間はない。


 そして高等魔法故に、一流の魔法使いしか使用出来ない。


 そしてクソ魔法の最大の理由は超攻撃魔法のクセに接触発動なのだ。接近戦が苦手な魔法使いに超接近戦を要求するこの魔法は、魔法使い界隈では自殺魔法とも言われている。


 しかし、そんなクソ魔法にも使い道があった。あまり褒められた使い方ではないが、ダンジョン攻略におけるディギング攻略法である。つまり穴を掘って階層をスキップするやり方だ。


 長い詠唱が終わり、俺の両手に凄まじい炎の魔力が溜まっている。



「孟火獄炎爆掌ッ!」



 俺の両手が壁に接触し、超高温の爆煉魔法が石積みの壁を真っ赤にして溶解した。



「……あれ? 焼き過ぎたか?」


「「「………」」」



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