第29話 まだ飲みたいのか!
「ミラ様」
馬車の客車に乗り、
「は、はひぃ!」
ここ数日はっちゃけ過ぎて、俺を見てビクビクしているミラ様。背筋をピンと伸ばし、顔を少し引きつらせている。
「だ、大丈夫だよ、そんなに
「そうよ、ミラ様。皆んなで楽しい時を過ごしたんだから、気にしなくていいのよ」
リアナがフォローをいれるが、お前は気にしろよな! 護衛の依頼忘れてんじゃねえだろうな。
「あ、ありがとうございます、リアナ様」
いや、リアナには感謝しなくていいから。
「それで、ミラ様。嫌な事を思い出させるけど、暗黒邪神騎士団に拐われた時の事を教えてくれないか?」
「は、はい」
ミラ様の話によれば、王都の教会に務めていた聖騎士に教会の神殿で襲われたとの事だ。この依頼を受けた時に聞いた聖騎士の裏切りってヤツだ。
そして洋館に連れていかれ、そこで待っていたのはマーラー邪神教の高僧であった。そして、妖しい術をかけられ、その後の記憶はないという。
「その聖騎士はどんなヤツだったんだ? 俺達が踏み込んだ時に、そいつはいなかった」
「それが、あまり覚えていないのです。王都の聖教会の人達もうろ覚えで、名前さえも分からないままなのです」
よくある『あの人の名前なんだっけ』的な、印象の薄いヤツなのか? とは言え、屈強の神聖騎士団に紛れ込むなんざ、並の技ではない。神聖騎士団は王国騎士団と肩を並べる強者揃いだ。ハルバーのような冒険者崩れとは訳が違う。
聖教会の人間を何処まで信用したものか……。疑いだしたら切りがないんだがな。
◆
アルカス子爵の領都アルカスの街に着くと、すぐに馬車が止まった。車窓から外を伺うと聖騎士五人と、青い聖衣を着た十歳ぐらいの少女がいるのが見える。
「こちらの馬車に、蒼の聖女様はおられますか?」
少女が多分レミーナに問いかけている。レミーナと同じ聖衣を着ているのだから、幼いとはいえ彼女は青鳳教会のシスターなのだろう。
「はい。何か御用でしょうか?」
受け答えをするレミーナの声が馬車の中に聞こえてくる。
「それでは、教会までご同行下さい。本日の宿泊のご準備も出来ています」
教会? 疑いだしたら切りがないと、先ほど思ったばかりだが、それでも今はミラ様の護衛が最重要だ。俺達の到着を待っていたってのが胡散臭い。
断れよレミーナ。
「それは応じかねます」
ヨシ! ナイスだレミーナ。アホ娘などと言ってしまったが、腐っても冒険者。護衛依頼を
「ミラ様とは今宵、美味しいお酒を飲みに行く約束をしているのです。教会に宿泊したらお酒が飲めなくなるではないですか」
……そこかよ。もう酒はいいだろ!
「あ、あなたは……」
少女が顔を紅潮させ、怒り心頭、肩をぷるぷると震わせている。ああ、分る、分るぞ、その気持ち。今夜は飲みに行くから無理とか言われたら、プッツンしたくなるわな。
結局、馬車の外では
「カイン、どうするの?」
リアナをはじめミルシアナさん、ソフィアさんも俺の顔を伺う。
「いや、どちらも無しだろ? お前ら、散々ぱら呑んだし、教会は王都の件があるから信用するのもな……」
馬車の窓から、少女の後ろに立つ聖騎士五人に目を向ける。あの中にマーラー邪神教徒と繋がっているヤツがいないとは言い切れない。
「ミラ様の身の安全が一番だ。この街での宿泊は諦めて馬車を進ませよう」
俺はそう決めて馬車から降りようとした時だ。
「カイン様、待ってください」
ミラ様が座席から立ち上がり、俺を呼び止めた。
◆
「おい! 話が違うぞッ!」
ミラ様がこの街の司祭に挨拶だけでもとなったので、馬車で教会に行き、礼拝堂に入ったまでは良かったが、俺たち冒険者は司祭のいる奥の神殿へは入れないとか。
「あなた方は
「いや、司祭がここまで出向くべきだろう」
「そ、それは無理です、カイン様」
青鳳教会が崇める女神ルシャミリアの神像の前で、俺と幼いシスターとが口論をしている所に、レミーナが割って入る。
レミーナ曰く、レミーナやミラ様は格で言えば
「仕方ねえ、レミーナ、お前だけでも付いていけ」
「は、はい」
嫌そうな顔をする少女に、俺は説明をする。
「レミーナは、こんなんだが聖女候補だ。司祭様も容認してくれるだろう」
「え、この人が!?」
まさかの聖女候補にびっくりする少女。クスっと笑みを見せた少女は、ミラ様とレミーナ、聖騎士五人を連れて、奥の扉へと姿を消した。
◆
「おっせえな」
あれから一時間は待っている。俺は礼拝堂の長椅子に座り悪態をついていた。すると、前ではなく、俺達が入ってきた後ろの扉が開き、青い聖衣を着たおじさんが一人と、女性が三人入ってきた
そして、気になる事を言った。
「おや、留守にしている間にお客さんが来ていましたね」
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