第29話 まだ飲みたいのか!

「ミラ様」



 馬車の客車に乗り、ようやくミラ様と話をする事が出来る。なにせ出発してから夜通しの宴会だ。まともに話を出来る状況では無かった。



「は、はひぃ!」



 ここ数日はっちゃけ過ぎて、俺を見てビクビクしているミラ様。背筋をピンと伸ばし、顔を少し引きつらせている。



「だ、大丈夫だよ、そんなに鯱張しゃちほこばらなくても」


「そうよ、ミラ様。皆んなで楽しい時を過ごしたんだから、気にしなくていいのよ」



 リアナがフォローをいれるが、お前は気にしろよな! 護衛の依頼忘れてんじゃねえだろうな。



「あ、ありがとうございます、リアナ様」



 いや、リアナには感謝しなくていいから。



「それで、ミラ様。嫌な事を思い出させるけど、暗黒邪神騎士団に拐われた時の事を教えてくれないか?」


「は、はい」



 ミラ様の話によれば、王都の教会に務めていた聖騎士に教会の神殿で襲われたとの事だ。この依頼を受けた時に聞いた聖騎士の裏切りってヤツだ。


 そして洋館に連れていかれ、そこで待っていたのはマーラー邪神教の高僧であった。そして、妖しい術をかけられ、その後の記憶はないという。



「その聖騎士はどんなヤツだったんだ? 俺達が踏み込んだ時に、そいつはいなかった」


「それが、あまり覚えていないのです。王都の聖教会の人達もうろ覚えで、名前さえも分からないままなのです」



 よくある『あの人の名前なんだっけ』的な、印象の薄いヤツなのか? とは言え、屈強の神聖騎士団に紛れ込むなんざ、並の技ではない。神聖騎士団は王国騎士団と肩を並べる強者揃いだ。ハルバーのような冒険者崩れとは訳が違う。


 聖教会の人間を何処まで信用したものか……。疑いだしたら切りがないんだがな。





 アルカス子爵の領都アルカスの街に着くと、すぐに馬車が止まった。車窓から外を伺うと聖騎士五人と、青い聖衣を着た十歳ぐらいの少女がいるのが見える。



「こちらの馬車に、蒼の聖女様はおられますか?」



 少女が多分レミーナに問いかけている。レミーナと同じ聖衣を着ているのだから、幼いとはいえ彼女は青鳳教会のシスターなのだろう。



「はい。何か御用でしょうか?」



 受け答えをするレミーナの声が馬車の中に聞こえてくる。



「それでは、教会までご同行下さい。本日の宿泊のご準備も出来ています」



 教会? 疑いだしたら切りがないと、先ほど思ったばかりだが、それでも今はミラ様の護衛が最重要だ。俺達の到着を待っていたってのが胡散臭い。


 断れよレミーナ。



「それは応じかねます」



 ヨシ! ナイスだレミーナ。アホ娘などと言ってしまったが、腐っても冒険者。護衛依頼をまっとうする気構えをしっかり持っていたようだ。



「ミラ様とは今宵、美味しいお酒を飲みに行く約束をしているのです。教会に宿泊したらお酒が飲めなくなるではないですか」



 ……そこかよ。もう酒はいいだろ!



「あ、あなたは……」



 少女が顔を紅潮させ、怒り心頭、肩をぷるぷると震わせている。ああ、分る、分るぞ、その気持ち。今夜は飲みに行くから無理とか言われたら、プッツンしたくなるわな。


 

 結局、馬車の外ではかたくなに飲みに行くと訴えるレミーナと、教会に連れて行くと言い張る少女との押し問答が始まってしまった。



「カイン、どうするの?」



 リアナをはじめミルシアナさん、ソフィアさんも俺の顔を伺う。



「いや、どちらも無しだろ? お前ら、散々ぱら呑んだし、教会は王都の件があるから信用するのもな……」



 馬車の窓から、少女の後ろに立つ聖騎士五人に目を向ける。あの中にマーラー邪神教徒と繋がっているヤツがいないとは言い切れない。



「ミラ様の身の安全が一番だ。この街での宿泊は諦めて馬車を進ませよう」



 俺はそう決めて馬車から降りようとした時だ。



「カイン様、待ってください」



 ミラ様が座席から立ち上がり、俺を呼び止めた。






「おい! 話が違うぞッ!」



 ミラ様がこの街の司祭に挨拶だけでもとなったので、馬車で教会に行き、礼拝堂に入ったまでは良かったが、俺たち冒険者は司祭のいる奥の神殿へは入れないとか。



「あなた方は此方こちらでお待ち下さい」


「いや、司祭がここまで出向くべきだろう」


「そ、それは無理です、カイン様」



 青鳳教会が崇める女神ルシャミリアの神像の前で、俺と幼いシスターとが口論をしている所に、レミーナが割って入る。


 レミーナ曰く、レミーナやミラ様は格で言えば修道女シスターであり、格上の司祭を呼びつける事は出来ないとの事だ。



「仕方ねえ、レミーナ、お前だけでも付いていけ」


「は、はい」

 



 嫌そうな顔をする少女に、俺は説明をする。



「レミーナは、こんなんだが聖女候補だ。司祭様も容認してくれるだろう」


「え、この人が!?」



 まさかの聖女候補にびっくりする少女。クスっと笑みを見せた少女は、ミラ様とレミーナ、聖騎士五人を連れて、奥の扉へと姿を消した。





「おっせえな」



 あれから一時間は待っている。俺は礼拝堂の長椅子に座り悪態をついていた。すると、前ではなく、俺達が入ってきた後ろの扉が開き、青い聖衣を着たおじさんが一人と、女性が三人入ってきた


 そして、気になる事を言った。



「おや、





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