第24話 赤竜の爪

 突然のお姉様発言から始まったこの依頼。


 依頼内容は至極明快でマーラー邪神教会と暗黒邪教騎士団による聖女狩りが暗躍している中で、王都を訪問していた青鳳教会の蒼の聖女様をラフランギス公爵領まで無事に送り届ける事だ。


 当然、聖教会はヤクザな冒険者ではなく、聖騎士団による護衛で送り届ける事になる筈だったのだが、何と聖騎士団の中にマーラー邪神教会と繋がりのある騎士が見つかり、蒼の聖女様の信用がガタ落ちになってしまった。


 そこで冒険者に白羽の矢がたった……もとい冒険者に依頼する事となった。


 この話しは当初、大手ギルドの『赤竜の爪』に行く筈だったのだが、西の森での救出劇から始まり、救出した冒険者の中に蒼の聖女様であるミラ様が、むかし懇意にしていた聖女候補のレミーナがいる事を知った事から、レミーナを名指しで指名依頼をしたんだとか?




「誰だ、アイツら?」



 王都を出立しようと南門に向かう俺達の馬車の前に、ガタイがいいドレッドヘアーのおっさんと、三人の冒険者風の男女が、道を塞ぐように立っていた。



「止まれぇぇぇッ!!」



 前方で大声を張り上げるおっさん。御者台に座っている俺は、手綱を握るソフィアさんに聞いた。



「あ、あの人は『赤竜の爪』のドゴールさんです」


 

 チンピラみたいな風体ふうていだが、王都でも最大手のギルドボスにして、冒険者ギルド協会の議長。そんな超大物が朝っぱらから大声を出して、近所迷惑もはなはだしい。



「このまま引いちまうか?」


「だ、駄目ですよぉ。それに、あの人達はS級パーティーの『霧の幻影』のメンバーです」



 ドゴールの脇にいるのは、大きなタワーシールドを持つ若い聖騎士、小狡こずるい顔の小柄なシーフ、破壊力抜群の巨乳魔法使いのお姉さん。



「まじか? ソフィアさん、馬車を止めてくれ」



 馬車を止め、御者台に置いてある剣を持ち、御者台から降りた。ドゴールはミルシアナさんを手籠めにしようとした男だ。


 俺は用心しながら馬車の前に出る。



「貴様がカインだな」


「あんたみたいな大物が、俺の名前を知っているってのは、あんまりいい話じゃなさそうだな」


「貴様が、美少女冒険者や受付嬢を片っ端から春奴隷にしている行為は看過できない」



 俺に太い指をビシッと向けて、いかつい顔で俺を睨みつける。どこで情報を仕入れたかは知らないが、多少の齟齬そごが有るようだ。



「な、成り行きだ! 好きで奴隷にしたわけじゃないし、春奴隷じゃない、借金奴隷だ!」


「何を言うか! 聞けば淫呪の首輪を付け、夜な夜な不埒ふらちな行為におよんでいるとは、羨ま……ゴホンゲホン、許せんッ!」


「そ、そんな事はしていないッ! 俺が襲われてるんだッ! てか、早朝の往来で変な事を言わせるなッ!」



 まだ、歩いている人は疎らだが、それでも野次馬が集まり始めている。



「どうかしましたか?」



 馬車が止まった事で、心配になったのか、ミルシアナさんが馬車から降りてきた。



「おお、ミルシアナ! いま助けてやるからな!」



 ドゴールがミルシアナさんを見て喚く。ドゴール的には俺が悪者らしいが、俺が聞いた分ではドゴールがミルシアナさんを手籠めにしようとしていたとしか思えない。



「カイン、ミルシアナを開放しろ!」


「それは出来ない。あんたも知っているだろ。隷属の首輪の解除には、お互いの合意が必要だって事を」


「だから貴様が開放すればよいのだろうがァッ!」



 激昂した顔で怒鳴り散らすドゴール。だが実際は逆なのだ。俺もギルドボスのミルシアナさんを奴隷にするのは不味いと思い、奴隷契約解除の話をミルシアナさんに持ちかけた。


 なにせギルドボスを奴隷にするという事は、ギルドを乗っ取ったようなものだ。冒険者の倫理上、そんな事があってはいけない。


 しかしミルシアナさんの結果はいなだった。なんでやねんと思うが、彼女なりの責任の形と言われてしまい、俺はそれを否定する事が出来なかった。


 などという事情をドゴールに説明しても聞く耳は持たないだろう。だから俺は口角を上げ――。



「やだね!」


「このチンピラがァ! ならば貴様を捕えるまでだ!」



 そのドゴールの声に合わせて、聖騎士が一歩前に出る。



「君の行為は冒険者として恥ずべき行いだ。ギルドマスターや受付嬢、更には侯爵令嬢、最たる悪行は聖女候補のお方を奴隷にした事だ! 正義の名のもとに君を斬罪するッ!」



 左手のタワーシールドを高々と上げ、右手は白銀に光る剣を抜刀する。


 しかし斬罪ときたか。奴隷の主人が死ねば、奴隷契約上の主人は一時だけ空白になる。そこに新たな主人が名を上書きすれば、奴隷契約は次の主人に引き継がれる。


 つまりドゴールの野郎は、俺を殺して女の子達を全員かっ拐うくわだてのようだ。


 そして小柄なシーフが、眼前から姿を消し、紫電が走る。


 『加速アクセル


 俺のギフト『サバイバル』が発動し、数コンマ何秒という時間で、『加速』スキルが発動。加速反射により、シーフが振るうダガーの鋭い一閃をギリギリで躱す。


 これはもう、やるしかないみたいだな。


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