第27話 心の友はいらないから!


「良い天気だなソフィアさん」


「そうですね」


「「アハハハ……ハハ……はあ~」」

 


 馬車は王都から南に伸びる街道をポックリポックリと走っていた。まだ陽も昇り始めていなく、薄い朝靄が、街道と辺りの草原をおおっている。


 旅人も商人もまだいない静かな街道……の筈なんだが……。



「もう1本開けちゃいましょうかあ」


「流石ですは、お姉様ぁ~」


「ドンパ~リ! ドンパ~リ!」


「このお摘まみ美味いなあ」


「あらあらドンパリはまだ早いですよリアナさん。先ずは押野八戒をググ~ッと行きましょう、ググ~ッと」



 馬車の客車の中では宴会が始まっていた……。




 赤竜の牙のギルドボスとのいざこざの後に王都を出立した俺達。


 それは門を出た直後のミラ様の爆弾投擲から始まってしまった……。



「お姉様! ミラはお姉様の為にお小遣いをはたいて、お姉様の心の友をご用意してきましたわ!」



 馬車の中にある木箱を開けた瞬間、レミーナはミラ様の背中に神々しい光を見たとか何とか。


 木箱の中には大量の酒とお摘まみが入っていた。俺は思いましたね。終わったなと……。





 王都を出て2日目、これまでの道中は低級モンスターがチラチラ出るぐらいで概ね順調だった。そして後ろの馬車の中も順調に宴会が続いていた……。



「ソフィアさん~、馬車を止めて下さい」


「またか」



 後方からレミーナの声。多分リアナかティアナさんが飲み過ぎで気持ち悪くなったのだろう。ミラ様はお酒を一滴も飲んでいないし、レミーナとミルシアナさんはザルだからな。


 馬車が止まるとリアナが草叢くさむらに走りだす。



「う~、気持ち悪い……」



 介護の為にミラ様がリアナに付き添うのだが……。



「み、ミラちゃん……お願い……」


「分かりました。神よ! この病に倒れる者に清浄なる祝福を! リフレーッシュ!」



 …………。



「あ~~~、スッキリした~。ありがとうミラちゃん」


「いえいえ。旅はまだ始まったばかりです。楽しい一時を過ごしましょう!」


「よ~し! 飲み直しね!」



 オイ! そこまでして飲むなよ! てかミラ様、そんな事で神様に祈祷しちゃ駄目でしょ!





 そして4日目、道中のアルカス子爵の領都アルカスまで、後数時間の距離まで来ていた。今夜は宿でゆっくり寝れそうだな。俺はここ数日寝不足だった。


 理由は二つある。一つは小さな宿場町には泊まれなかった。何せ大酔っぱらいの美少女が5人もいるのだ。小さな町ではどう考えても悪目立ちしてしまう。ミラ様の護衛をするからにはそれは避けたい。


 もう一つはソフィアさんだ。


 後ろの酔っぱらい達は昼夜を問わず飲んでは寝て、起きては飲んでを繰り返しているので既にほったらかしだ。


 つまり馬車の御者台には俺とソフィアさんが代わる代わる馬車を走らせている。


 問題は夜に起きる例の発作。馬も休ませないといけないのだから安全そうな場所で夜を過ごす。


 しかし俺はまったく安全じゃなかった。


 狭い御者台で二人っきり。まさに襲って下さい的なシチュエーション。普通逆じゃね? と思わなくもないがハアハア言う淫靡いんびで魅力的なソフィアさんにディスペルをかけては寝て、かけては寝ての繰り返しでまったく寝れていなかった。



「カインく~ん! お酒なくなっちゃうよ~」

「カイン~、お酒買って来て~」

「カイン様~、お摘まみもお願いします~」



 …………………………プチッ



「酔っぱらい共は黙ぁ~とれいッ!!」



 俺は馬車の手綱を思いっきり握り、馬車を右に左に手綱を取る。



「「「キャァァァァァァァァ!」」」


「ガハハハハ! ハイヨー、シルバー!」


「や、止めて~」 


「き、気持ち悪い~」


「キャァァァ」


「ガハハハハ! この呑ん女衛共が~! 死にさらせぃ~!」



 しばらく馬車をジグザグ走ると後ろがピタリと静かになった。


 ヨシ!!




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