第22話 また来ちゃった

「あれ?」


「……なくなってるね?」



 昨日はあった怪しい館は綺麗さっぱり消えていた。館があったであろう場所は広い広場となっている。



「どういう事だ?」



 辺りを見回すが、ここが深い森の中ってだけで、更地になった土地以外に怪しいところは見当たらない。ん?



「オイ、何かくるぞ!」



 森の奥から近づく怪しい気配。俺達は剣を抜き、杖を構えて臨戦態勢を取る。



「来た!」



 草叢を揺する事なく黒い影が襲いかかってきた。



「エンチャントウェポン!」



 そいつを見た俺は咄嗟に剣に魔法を付与した。前衛の俺がそいつの剣に合わせて初撃を防ぐ。



「シャドウナイトだッ!」



 亡霊系アンデッドのシャドウの上位種であるシャドウナイト。魔法を纏った武器以外ではダメージを与えられない厄介な相手だが、俺達のパーティーは全員が魔法を使える戦闘型パーティーだ。



「風精霊の加護!」


「水精霊の加護!」



 ティアナさんとソフィアさんも剣に魔法をかける。


 更に3体のシャドウナイトが森の中から現れた。



「ホーリーブレス」



 レミーナの聖魔法が1体のシャドウナイトを光で包み込み動きを止めた。


 俺に2体、テァアナさんは1体を相手取る。ソフィアさんが俺の援護に駆け寄ろうとするがそれを制する。



「ソフィアさんは周囲を警戒! 3人から離れるな!」



 ソフィアさんを後衛の守備に回す。シャドウナイトがこの4体だけとは限らない。


 シャドウナイト2体の剣戟をあしらいながら俺も周囲を警戒する。


 シャドウナイトは亡くなった騎士の亡者と言われている。中々に良い剣筋だが、俺の敵ではなさそうだ。



「緑風の羽衣!」



 ミルシアナさんのバフ魔法がパーティー全員にかかる。体が軽くなり行動速度が大きく上がる。



「パワーフィールド!」



 ほぼ同時にリアナのバフ魔法も発動。パーティー全員の攻撃力がアップした。


 リアナは攻撃特化型の魔法使いだが、亡者系アンデッドに有効な炎魔法を選ばずに支援魔法を選択した。流石はリアナだ。近接戦での炎魔法での援護は爆音や爆煙などで時として邪魔になるからな。



「うらぁぁぁぁーーッ!」



 バフ強化された俺は1体のシャドウナイトを両断し、返す剣で更にもう1体を屠る。


 見ればティアナさんもシャドウナイトを倒し、レミーナの聖魔法を喰らった1体は、光に包まれ消失していた。



「なかなかやりますね」



 そして森の中から現れた黒衣の騎士。前に見た事がある鎧。



「暗黒邪教騎士か!」



 銀色の長髪が風になびく優男。前に見た暗黒邪教騎士とは雰囲気が違う。



「如何にも、僕は暗黒邪教騎士団西方方面軍ふ「5千万!」……え?」



 キザったらしく自己紹介していた暗黒邪教騎士の言葉にリアナが割って入る。



「暗黒邪教騎士の首級と鎧はギルド協会に持って行けば5千万ゴールドになるわよ!」


「「「5千万ゴールドッ!!」」」



 リアナのその言葉に4人の美少女達の目に$マークが見えたのは気のせいだろうか? 女の子が次々に詠唱を始めた。



「ウィンドスラッシュエンドレス!」

「アクアドラゴントルネード!」

「ファイヤーエクスプロージョンマキシマム!」

「シャイニングスパークフルバースト!」

「エクストリームグリーンワルツ!」



 一斉に超強力魔法が暗黒邪教騎士に襲いかかる。ってかオイ! エクストリーム何チャラって極大魔法だろ!



「「「……………………」」」



祗園精舎の鐘の声、

諸行無常の響きあり。

娑羅双樹の花の色、

盛者必衰の理をあらわす。

おごれる人も久しからず、

唯春の夜の夢のごとし。

たけき者も遂にはほろびぬ、

偏に風の前の塵に同じ。



 ……巨大クレーターの底には暗黒邪教騎士の鎧だけがあった……。





「何で3千万ゴールドなのよ! 納得いかないわ!」


「まあまあリアナさん。それでも大金なんだし」


「一気にお大尽だいじんですね!」


「久々に美味いものが食べれるな!」


「美味しいお酒も付けましょうね」



 ホクホク顔の美少女5人。哀れな最期を遂げた暗黒邪教騎士の鎧は冒険者ギルド協会で3千万ゴールドで買い上げて貰えた。


 あの巨大な魔法でも燃え尽きなかった鎧はかなり強力な魔法無効化が施されていた様だが、超高エネルギーの魔法爆弾においては、中身の人間までは保護されていなかった。



「お前らさぁ、何か忘れていないか?」


「「「?」」」



 キョトンと首を傾げる美少女達。



「しゃっ・き・ん・だッ!」



 この世の終わりの様に真っ青な顔になる美少女達。



「1人10ゴールド! 後は貯金だ!」


「「「え~~~~~~~ッ!」」」


「え~ッじゃない! 特にリアナとレミーナは節制を覚えろ!」


「「ぶう~~~~~ッ」」



 まあ、俺も鬼じゃないから、その日の晩飯は酒場で豪勢に振る舞った。みんな笑いあい自分達が借金奴隷である事も忘れ大いに楽しんだ。


 ……俺以外はな!


 何せ美少女5人に男は俺1人。周りからの刺さる視線に死線を感じた。


 結局寝る場所はギルド『緑風の地平線』の寝室を使った。みんな浴びる様にお酒を飲んでいたから、今夜はぐっすりだろう。


………………


ぎィィィ~



「カインくん――――」



 俺の寝室に、ハアハア言いながら現れたのはミルシアナさん……。



「カイン~、ハアハア」

「カイン様~、ハアハア」

「カインさん~、ハアハア」

「カイン~、ハアハア」



 続いて現れた4人の美少女。



「カインくん、また来ちゃった、テへ」


「テへじゃねええええええッ!」



 今夜も俺のサバイバルが始まった……。



――――――――――

【作者より】

第1章の借金奴隷編が終わりました。次章からはもう少し聖女狩り事件に巻き込まれていきます。


引き続き【聖女狩り】を宜しくお願いします。


カクコン異世界週間ランキングも、何とか100以内を現在(12.28)はキープ。最高位は28位でした。ありがとうございます(⁠^⁠^⁠)


面白いと思って頂けましたらレビュー評価の★をお願いします。花咲は★1でも嬉しいので、気兼ねなく評価して下さい。


宜しくお願いします。









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