第16話 大丈夫か、このギルド?

 そのギルド『緑風の地平線』は大通りから薄暗い細道に入った、よく言えば静かな、悪く言えば淋しい通りに立っていた。



「大丈夫なのか、このギルド?」



 はっきり言って見た目オンボロな建物だ。稼げ無い匂いがプンプンする。今朝けさ方に廃業となったギルドからの移籍先だけに、一抹の不安がある。



「大丈夫ですよ。『緑風の地平線』はここ王都でも老舗ギルドです。建物が古いのもその歴史故です」



「ホントかよ?」と思いながらギルドの扉をくぐる。



「いらっしゃ~いって、ソフィアじゃない! 大丈夫だったの!? 変な男に買われていったって聞いてたから、心配してたのよ!」


「大丈夫よ。それにカインさんは変な男じゃないから」


「ふ~~~ん」



 受付嬢と視線が重なる……。ソフィアさんに矢鱈やたらと似ているんだが?



「まあ、ソフィアが言うんならそうなんだね。宜しく坊や」


「ぼ、坊やかよ……。やっぱりソフィアさんの身内?」


「彼女はティアナ。私の双子の姉です」


「あ~、お姉さんね」



 どうりで似ているわけだが……。



「宜しくお願いします。オ・バ・さ・ん」


「ほほお~。このあたしに喧嘩売ろうってかい?」


「嫌だな~、喧嘩なんか売りませんよ、オ・バ・さ・ん」


「よし! その喧嘩買ったぁぁぁ!」


「おうよ! ただで売るぜえ! 持ってけ泥棒!」


「ちょ、ちょっとカインさん、なに始めちゃってるんですかあ」


「も、揉め事は駄目だよカイン」


「お、落ち着きましょうカイン様……」



 俺を止めにリアナ達が入るが、冒険者稼業は、例え美人受付嬢だとしても舐められたらお終いだ。



「おや~? 逃げるのかい坊や?」


「逃げねえよ!」


「ちょ、ちょっと、ティアナも止めてよぉぉぉ」



 こうして成り行きだが、美人受付嬢とのバトルへと突入した。





 連れて来られたのは、ギルドの地下にある武道場だ。



「ここはがっちりとした作りだから、多少の魔法でも壊れないから、全力でかかってきなッ!」



 木刀を持つ俺とティアナさん。『サバイバル』のギフトは今のところ発動はしていない。素での立ち回りになるが、あのダンジョンでかなりの経験値を頂いているから、それなりにはやれるだろう。



「身体強化!」


「へえ、魔法剣士かい。風妖精の加護!」


「ティアナさんは精霊使いか」


「行くよ、坊や!」



 風妖精の加護で身体強化されたティアナさんは、疾風の如く間合いを詰める。


 スピード戦は受けたら後手に回る。初撃を右に交わし、すれ違う背中に剣を打ち込むが、更に加速したティアナさんに当たる事はなかった。かなり速いな。



「加速思考! 加速知覚!」



 速い動きに反応する為のバフ魔法をかける。



「加速のバフッ!? S級冒険者か!」



 俺のバフを見てティアナさんが驚いた顔をした。加速系のバフは俺も最近覚えたばかりだ。


 それでも、右へ、左へとステップを踏み、俺にハイスピードで接近するティアナさん。


 速い相手に対する対応は幾つかある。スピード対スピード。スピード対防御力。そしてスピード対反応速度だ。


 スピード対スピードではスピード戦が十八番おはこのティアナさんに分がありそうだ。防御戦は俺の性分に合わない。だったら反応速度を上げてのカウンター狙いだ。


 更に俺を撹乱させようと、周囲を風の様に動きに動くティアナさん。俺は木刀を構えてティアナさんが打ち込みに来るタイミングをじっと待つ。加速思考と加速知覚によってティアナさんの動きに惑わされる事はない。



「あれ?」



 ティアナさんは動くのを止めた?


 カラ~ンと木刀を投げ捨てるティアナさん。



「止め。無理。あんた強いわ」


「まだ一合いちごうも合わせていないが?」


「あたしが行ったらカウンターされるイメージしか湧かない」


「流石と言っておくかね。無理に戦わない事、逃げる事は冒険者には必須な事だからな」


「あたしは元冒険者だけどね。でもソフィアの売られ先が真面なヤツで安心したよ」



 そう言ってティアナさんがソフィアさんを見ると、ソフィアさんは赤い顔でモジモジしている。身売りされた事がかなり恥ずかしいようだ。



「ってカインは思ってるんだろうな~」


「だから違いますのに」


「「はあ~。朴念仁」」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る