第19話 また増えた

「督促状。『緑風の地平線』はバルザニ金融商事より借用した2億ゴールドの支払いが、借用日より3カ月間の期間中に1ゴールドの返済も無かった為、本日その督促を行うものとする。本日中に借用した2億ゴールドの返済を行う事。返済出来ない場合はギルド事務所の差押えを行い、これに充当するものとする」



 うがっ! 強硬手段に出たな! 流石に事務所差押えはギルド解体と同義だ。不味すぎるだろ。



「ちょ、ちょっと待ちなさいよッ! 何で借用期間までバルザニ金融商事に差し替わっているのよッ!」



 ティアナさんも黙ってはいられない状況だ。



「こちらの借用書にその旨も書かれています。この血判された借用書にです」



 ニコニコと笑みを浮かべるジョバンニ。ミルシアナさんが血判した以上、あの借用書は有効なものとなってしまった。



「だ、だからといって今日中になんて無理よ!」


「ではギルド事務所の差押えですね」


「そ、それも無理なんです。既にギルド事務所は銀行の抵当に入っていまして……」



 涙声で訴えるミルシアナさん。この状況を招いたのがドゴールだとしても、ギルドボスとしてのミルシアナさんの迂闊さにも問題が有る。もう諦めるしかないな、こりゃ。



「お金は払えない。ギルド事務所も無理。それではどうしましょうかねえ?」


「「………」」



 ミルシアナさんとティアナさんには代替案は出ないようだ。それを嫌らしい笑みでジョバンニが見ている。事務所が銀行の抵当に入っていた事を知っていたな。


 そしてカバンから隷属の首輪を二つ取り出しテーブルの上に置いた。



「ま、待ってくれ!」



 ティアナさんが隷属の首輪を見て、悲鳴に近い声を出す。



「お、お金は必ず返すから、それは下げてくれ!」


「返す宛てが有るとは思えませんが?」



 「うぐっ」と口をつぐむティアナさんだが、そこでミルシアナさんが首輪を一つ取りジョバンニの前に置く。



「一つは閉まって下さい。負債の責任は私にあります。私が身売りする事で、納めてはくれませんか?」


「ふむ、……まあ、いいでしょう」


「「ミルシアナ様!」」



 ティアナさんとソフィアさんが悲鳴を上げる。彼女達に取ってミルシアナさんは大切な人なのだろう。



「ちょびヒじゃない、ジョバンニさん」


「……はあ~。またあなたですかカインさん。流石のあなたでももう、お金もアイテムも無いのでは有りませんか?」


「流石に2億ゴールドは無いな」



「ホッ」と息を吐くジョバンニ。



 俺はアイテムボックスから全財産をテーブルの上に置く。ドキリとした顔をするジョバンニ。



「ここに1億8千万ゴールドある」


「す、少し足りませんね」



 「ホッ」と顔に出るジョバンニ。



「しかし金の心当たりなら少しあるんだわ。仕方ないから、取って置きの情報を神聖騎士団に売るとするかなぁ。今なら聖女狩りの情報は高く買ってくれそうだからなぁ」


「な、な、なんですか、その情報とは!?」



 ジョバンニの顔が真っ青になる。



「いや、俺の知っているヤツがさぁ、聖女狩りや暗黒邪教騎士団について、何か知ってそうなんだよな~。しかしソイツの名前がイマイチ思い出せない! ん~、なんだったかなあ~。ジュ~だったか、ジャ~だったか、ジョ~……」


「わ、分かりました! 2千万はサービスします! カ、カイン様はお得意様ですから!」



 真っ青のジョバンニが、慌てて口を挟んできた。



「あっ、さっきの話しは俺の勘違いみたいだな」


「そうです! 金輪際そんな勘違いはしないで下さい!」


「ああ、金輪際勘違いしないと約束するよ」


「ではこちらを」



 そう言って督促状て借用書を俺に手渡し、俺はそれを破り捨てた。



「リアナ、レミーナ、豪華な飯も美味しいお酒もお預けだがいいよな?」


「もちろんだよカイン!」


「鉄管ビールで私は大丈夫です、カイン様!」



 悪女だと思っていたが意外と良いなのか? 笑顔で答える二人を見て俺の勘違いかと錯覚してしまう。クッ! だまされるな俺!



「ミルシアナさん、俺が2億貸してやる」


「「えっ!?」」



 驚くミルシアナさんとティアナさん。そして呆れた顔でジョバンニが俺に話しかけてきた。



「しかし、カイン様。金遣いが荒いって怒られませんか?」


「た、確かに……」



 ジョバンニの指摘は正鵠を得ている。リアナとレミーナで1億、ソフィアさんで2億、そしてミルシアナさんとティアナさんで2億になる。金遣いが荒いのレベルを超えているな……。


 だからと言って、騙された女の子が春奴隷になるのを黙って見送るってのも気が引けるし、今回は『赤竜の爪』、そしてドゴールのやり口も気に食わない。



「はあ~」と溜め息を吐くジョバンニ。



「確かにお金は受け取りましたよカイン様。しかし、数日間で春奴隷を買いまくる男も珍しい」


「いや、待て!? ミルシアナさんとティアナさんはまだ奴隷にする何て言ってないぞ!?」



 吼える俺だがジョバンニが指をさす。そこにはミルシアナさんとティアナさんがいるのだが……オイ!



「あんたら、何勝手に首輪付けているんだ!」



 テーブルの上に置かれていた隷属の首輪を、いつの間にか首に付けているエルフとハーフエルフの美少女は、ペコりと、俺に頭を下げた。


 いや、だから、なんでそうなる!



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