第18話 またお前か!

「嫌がらせ?」



 何故だか成り行きで、このギルド『緑風の地平線』が多額の借金をする事になってしまったのかを聞く事になってしまった。



「何で大手ギルドの『赤竜の爪』から嫌がらせを受けるんだ? 商売敵って言うにはギルド規模が違い過ぎる」


「……零細ギルドで悪かったわね!」



 ブスぅと、頬を膨らますティアナさん。



「そうなんです。何故こんな事になってしまったのか、私にも分かりません……」



 悲しい顔で俯くミルシアナさん。



「そして今日の緊急総会では、『天輪の嵐』の破産に伴う各ギルドの負担金で1億7千万も支払う事になってしまって……」


「ミルシアナ様! それがおかしいよ! あたし達みたいな小規模ギルドの負担金にしては金額が多すぎる!」



 ティアナさんはテーブルをバンッと両手で叩き憤りを見せる。



「どう言う事だ?」



 ギルド経営やらギルド協会の事なんかは、一介の冒険者である俺達にはさっぱり分からないので、元受付嬢のソフィアさんに質問をした。



「普通こういった負担案件は、各ギルドの支払い能力に応じて調整をするのです。今の『緑風の地平線』では支払う事そのものが厳しいので、免除されるのが普通なんです」


「でもそうならなかったと?」


「……何があったのですか、ミルシアナ様?」


「……議長のドゴールさんに押し切られてしまいまして……」


「ドゴールがあッ!」



 またまたテーブルをバンッと両手で叩き興奮するティアナさん。



「ドゴール? 誰だ?」


「総会議長のドゴールさんです。『赤竜の爪』のギルドボスでもあります」


「……また『赤竜の爪』か」



 俺の質問にソフィアさんが説明してくれる。一連の流れからして、これも『赤竜の爪』の嫌がらせとしか思えない。



「……あたしは最近になって分かってきたよ。そして今回の件で確信した。『赤竜の爪』、……いやドゴールの狙いはミルシアナ様だ。ミルシアナ様、ドゴールの野郎から何か言われなかったかい?」


「え、えと、困った事が有れば相談にのると、お優しい顔でそう仰ってましたが……」


「……で、ミルシアナ様は何と答えたの?」


「その折りにはお願いしますと」


「それ駄目だから! お願いしちゃ駄目なやつだから!」


「……そうなんですか?」



 あか~ん。流石の俺でも分かる案件だが、ミルシアナさんは分かっていないようだわ。


 つまりはこのギルド『緑風の地平線』を弱体化させて、弱り果てたエルフの美少女ミルシアナさんに甘い言葉で近付き、手籠めにしようって魂胆が見え見えだ。


 そんな折にギルドの扉をノックする音が聞こえる。そして玄関の扉を開けて入ってきた男は見覚えのあるちょび髭の男だった。またお前かあ!



「げっ!?」



 ちょび髭を見て吃驚びっくりしている俺の顔を見て、ちょび髭ことジョバンニも吃驚している。まあ、そりゃそうだわな。



「カ、カイン様とは何かと縁がありますね……」


「……そんな縁はいらないんだが」


「同感ですね……」


「で、俺に用じゃないよな?」


 「はい」と答えたジョバンニは、鞄から丸く包まれた書類を二通出して、うち一通を広げて俺達に見せた。



「私はバルザニ金融商事のジョバンニと申します」


「バ、バルザニ金融商事ぃ!?」



 バルザニ金融商事は表向きも裏向きも悪徳金融として有名だ。バルザニ金融商事と聞いて、ティアナさんの声がひっくり返った。



「ミルシアナ様宛ての借用書と督促状を冒険者ギルド協会より預かって参りました」



 借用書? 督促状? そして何故バルザニ金融商事のジョバンニが来たかだが。


 ジョバンニが広げた借用書には、借りた金額2億ゴールドの貸主がバルザニ金融商事となっている。貸していたのは協会だったと聞いていたが?



「こちらはどうしたらいいのですか?」



 その借用書を見たミルシアナさんだったが、



「内容を確認の上、血判を押して下さい」


「分かりました」



 えっ!? ミルシアナさんは流れる様な動作で腰のサーベルを軽く引き抜き、親指を軽く切って血判を押してしまった。これには全員が驚いている。



「み、ミルシアナ様!? だ、駄目ですよ! そんなに簡単に押しては! それに何で借りたお金が協会ではなく、こんな悪徳金融に!?」



 驚いた顔のティアナさんはミルシアナ様の顔を見た。



「はい。今日の臨時議会で満場一致で決まりました。協会も運営が厳しいようですわ」


「だ、だからってミルシアナ様も賛同したのですか?」


「はい。ドゴールさんが悪い様にはしないので賛同して欲しいと頼まれましたので?」


「「「…………」」」



 駄目だこりゃ。よくこのギルド、今まで潰れなかったな。


「(ヒソヒソ) ソフィアさん、ミルシアナさんってギルドボスだよな? よくこのギルドやって行けてたな?」


「(ヒソヒソ) ミルシアナ様はとても面倒見が良くていい方なのですが……」



 いい人って言うか素直過ぎる……。このペースではちょび髭の言いなりになりそうだ。さてどうしたものか。



「では、督促状を読まさせて頂きます」



 そう言ってジョバンニはもう一通の紙を読み上げる。



「督促状。『緑風の地平線』はバルザニ金融商事より借用した2億ゴールドの支払いが、借用日より3カ月間の期間中に1ゴールドの返済も無かった為、本日その督促を行うものとする。本日中に借用した2億ゴールドの返済を行う事。返済出来ない場合はギルド事務所の差押えを行い、これに充当するものとする」


 

 うがっ! 強硬手段に出たな! 流石に事務所差押えはギルド解体と同義だ。不味すぎるだろ。


 見ればミルシアナさんとティアナさんは青い顔になっていた。

 

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