第12話 夜逃げ?
「素敵な部屋ね」
「お風呂も有りますよ~」
「……まっ、いいか」
薄暗くなった森を抜け、王都へと戻った。妖しい洋館で倒れていた少女は、森の中にいた神殿兵に預けた。まあ、取られたって言うのが正解だが。彼らの目的は拐われた聖女の捜索だったのだ。
始めは俺達が犯人と疑われたが、そこはそれ、聖女候補のレミーナの説明で神殿兵どもは鼻の下を伸ばして、あっさりと納得した。こいつらも悪女に騙される口だな。
俺は聖女が拐われた経緯や聖女狩りについて神殿兵に問いてみたが、彼らは何も答えなかった。野良の聖女候補であるレミーナならともかく、青鳳教会の聖女様が誘拐されたとか洒落にならないだろ。
それから俺達は冒険者ギルドに立ち寄り、緊急クエストが今日は失敗に終わった事を報告した。受付嬢のソフィアさんからは「明日もあります」と励まされた。
「流石はソフィアさんね! いいセンスしてるわ!」
「ソフィアさんと行くお買い物も楽しみですね」
「明日はみんなでパピオカを飲みに行こうね~」
この宿屋はソフィアさんから紹介された宿屋だ。流石は受付嬢だけあって女性好みの宿屋を知っている。お値段は高めだが……。
そしてギルドで話しをしているうちにリアナとレミーナは、ソフィアさんと仲が良くなったようだ。今度一緒に買い物に行く約束もしていたみたいだ。
「さて、飯を食いに行くか」
「「えっ!?」」
またこの反応。飯を食いに行くも行かぬも同じ反応な気がする。
「流石に今日は疲れたからな、しっかり食べようと思うのだが」
「「賛成~い」」
◆
王都の賑わう夜の街で、久しぶりにまともな飯を食った。何故だか今夜はレミーナの視線がいつもより輝いて見えるのは、お酒を与えてしまったせいだろうか?
「さて、帰るか」
「えぇぇぇ、もうですかぁ~」
「ほろ酔い程度で帰るのが楽しいんだっ」
「なら夜の街を歩こうよ。出店も沢山出てるし」
「いや、冒険者の感が帰れと告げている。そんな気がするんだ」
「「…………」」
何しろ視線が痛い。賑やかにお酒を飲む美少女二人を見る酒場の男達。そして俺を睨みつける殺気を帯びた視線。せっかくの料理と酒が台無しだ!
◆
部屋に戻った俺達は順番に風呂に入る。俺は一番に風呂に入り、さっさとベッドに入る。ベッドは三台あるから今夜はゆっくり眠れそうだ。
風呂場からはキャッキャと二人の笑う声が聞こえる。変な想像を起こす前に俺は眠りについた。
「…………」
「ハアハア」
「ハアハア」
「……オイ!」
気が付けば何故かリアナとレミーナが俺の右腕と左腕に抱き付いて「ハアハア」と
美少女の
「たくっ! ディスペル!」
解呪魔法で呪淫の呪いを和らげる。じきにスースーと寝息を立てる全裸の美少女二人……。ぜ、全裸だとおッ!
呪淫の呪いに憤りしていた俺は、コイツらが全く服を着ていない事に気が付いていなかった。暗いしね!
慌てて二人に毛布をかけて、多分リアナが寝てたであろうベッドに滑り込む。心臓がバクバクドキドキしている。女性の裸を見るのは初めてだった。しかも美少女! 綺麗過ぎる! 暗闇の中とはいえ、バッチリ目に焼き付いてしまった。……寝れそうに有りませんね。
◆
「眠い……」
「おはようカイン。何だか眠そうだね?」
「おはようございます、カイン様。寝れる時にしっかり寝ないと駄目ですよ」
こ、コイツら~。誰のせいで寝れなかったと思っているんだ!
1階に降りて俺達が朝食を食べていると何やら外が騒がしい。
「何でしょうか?」
「みんなあっちに走って行くね」
「俺達も行ってみるか」
冒険者に必要なものの一つが『情報』だ。例えゴシップネタでも知っておいて損はない。宿屋を出て、皆が向かう方へと俺達も足を運ぶ。
「ねえ、あそこって!?」
リアナの懸念。人だかりは冒険者ギルド『天輪の嵐』の前だった。
「何があったんだ?」
ギルドの前には沢山の野次馬が集まっている。ギルドの前には身なりの整った黒服達がいた。俺は野次馬達に聞き耳を立てた。
「ギルドボスが夜逃げしたみたいだ」
「ギルドの金や冒険者の査定品なんかも
「あそこにいるのはバルザニ金融商事らしい。ギルドボスは賭博でかなり借金していたらしいぞ」
「借金の差し押さえってやつか」
……。バルザニ金融商事ってマスカス達が借金した闇金だよな? ここでもかよ。
昨日登録したばかりのギルドがまさかの廃業。って言うか夜逃げ。俺達も運が無いな。
「オイッ!! あれを見ろ!!」
野次馬達が騒ぎだした。ギルドの玄関から黒服達と受付嬢のソフィアさんが出てきた。そしてソフィアさんの首には隷属の首輪が嵌められていた。
「ソフィアさん……」
「どうして……」
リアナとレミーナは奴隷落ちしたソフィアさんを見て青い顔になっている。コイツらも俺が助けなかったら、ああなっていた筈だ。それだけにショックなのかもしれない。
「アイツは!」
ギルドの玄関から出てきたちょび髭は、間違いなくジョバンニだ。俺達の事を暗黒邪教騎士団に売ったヤツだ!
黒服達に連れられて野次馬達の前を歩くソフィアさん。
「オイオイ! ソフィア嬢が奴隷落ちだよ!」
「色町に売られるのか!?」
「マジか! 俺っち絶対え遊びに行くぞ!」
「あのソフィア嬢とアンアンしてえ!」
ゲスな男達の会話だが、その可能性は高いだろう。闇金に捕まった女は大概が色町送りだ。
俺達の前を歩くソフィアさんと視線が重なる。人生の終焉を迎えたその瞳には光は無い。そんなソフィアさんがペコリと頭を下げた。
「ソフィアさん!」
リアナが手を伸ばすが、俺がその手を押さえる。
「辞めておけ。俺達に出来る事は何も無い」
「……でも……」
涙ぐむリアナとレミーナ。どんだけの借金をギルドボスがしたのかは分からないが、高給取りのギルドボスがする借金なんて想像するだけでも恐ろしい金額の筈だ。ソフィアさんが捕まったって事は連帯保証人か何かになっていたんだろう。
俺達はソフィアさんの力にはなれない。しかし、あの男には一言いっておきたい事があった。
「よう、ジョバンニさん」
「…………げっ!?」
俺を見て驚くちょび髭。死んだはずだよお富さんってか!
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