第11話 暗黒儀式

「騒々しい輩だな。我が王となる儀式を邪魔する者には死を」



 暗い部屋に青白く光る魔法陣。その中央にはレミーナの聖依に似た青色のローブを纏った少女が倒れている。


 その魔法陣のかたわらにいるのは、頭蓋骨の頭に黒いローブを纏った亡者だった。


 王となる儀式? 暗黒儀式か?



「魔瘴忌怨波動」



 骸骨頭の骨だけの手から、暗黒の波動が放たれ俺を飲み込む。亡魂達の呪いに満ちた地獄の渦だ。



「聖光乱舞!」



 神聖騎士が使う剣技、聖光乱舞。『サバイバル』のギフトは俺が生き残る為のインスピレーションと力をくれる。聖なる光の剣で暗黒波動を断ち切った。すかさず俺は剣を持っていない左手で魔法を放つ。



「シャイニングバーストッ!」



 斬り裂いた闇の隙間から、神聖魔法の高位魔法シャイニングバーストを放つ。幾重の聖条の光が左手から骸骨頭へと伸び、その体を光が包み込む。



「邪魔招来」



 骸骨頭が魔法を唱えると、床から闇が立ち込め聖なる光を消し去る。



「うッらあッッッ!!」



 俺はその隙に骸骨頭へと踏み込み、聖光を帯びた剣で骸骨頭のローブを斬り裂いた。



「我は不死の王に最も近きし者なり。ぬし如きの剣では倒れはせぬ。腐魔滅羅瘴」



 近接していた俺の左肩に骸骨頭の手が触れた瞬間、左肩が腐臭と共に消失した。痛みに耐え後方に飛び退く。



「エクストラヒール」



 俺は最高位治癒魔法を唱え、消失した左肩を再生させた。『サバイバル』のギフトが無ければとっくに死んでたな。



「中々に楽しませてくれるな、小僧」


「いや、俺は楽しみたくはないんだが、可愛い仲間をやられたからな! テメエは殺す!」


「我は既に死んでいるが?」


「うるせえ! このハゲ! 聖天覇道炎ッ!!」


「せ、聖炎だとッ! ぬ、主は聖帝か……」



 神聖騎士魔法の絶技。聖帝のみが使えると言われる聖天覇道炎。俺の剣に聖なる白い炎が纏う。



「破魔聖炎斬!! 俺の仲間を傷付けた恨みは三十倍返しだァァァァッ!! 未来永劫泣いて謝れェェェェェッ!!」



 骸骨頭を上段から唐竹割りで真っ二つに斬り裂く。聖なる白い炎が骸骨頭を燼滅じんめつさせた。



「たくっ! 何だったんだテメエは!」



 骸骨頭はかなりの強敵であったがシャドウナイトではない。結局、この館にはシャドウナイトはいなかった。詰まるところが、ただ働きだ!!



「ん?」



 コロコロと足元に転がってきた黒い玉。大きさは両手の手の平よりも大きい。



「ま、魔石か?」



 魔石は魔物を退治した時に稀にドロップする。しかし、こんなに大きい魔石は見た事も聞いた事もない。


 あの骸骨頭が何者だったかは不明だが、強力な暗黒魔法を使っていた。その魔力の源とも成れば莫大な魔力が蓄積されている可能性がある。


 俺はその巨大な魔石をマジックバックにしまい込む。



「おっ、そうだ」



 魔法陣の中央に、青い聖衣を纏った少女が倒れていた。息はある。俺は少女を抱き上げ階下へと降りていった。






「レミーナは大丈夫か!」



 1階の広間には顔色はまだ悪いが、頑張って微笑むレミーナの姿があった。



「ええ、レミーナは大丈夫よ。カインも無事みたいで良かったけど、そのは?」



 リアナは俺が抱いている青い聖衣を纏った少女に目をむけた。

 


「骸骨野郎の部屋にいたんだ。だいぶ弱っているみたいで、俺の回復魔法じゃ目も覚まさない」


「骸骨野郎?」



 回復したレミーナと視線が重なる。俺は気絶している少女をリアナに預け、レミーナに駆け寄り抱きしめた。



「良かった! マジ良かったあ!」


「えっ? えっ? えっ?」



 俺が抱き付いた事で戸惑っていたレミーナだが、俺の背中に優しく手を回して俺を抱きしめる。



「はい……。ご迷惑をおかけしました……」


「いや、俺が油断したからだ。ホントすまない」


「ふふふ。大丈夫です。ご褒美も貰いましたから」


「ご褒美? そうだな。今夜は宿を取ってゆっくり休もう」


「……はい」



 そう言ってレミーナが涙を流す。


 頬と頬が当たっていたから、俺の頬がレミーナの流した涙で濡れた。


 宿屋に泊まれるって事が泣くほど嬉しい事なんだな。女ってのは分からない生き物だ。





「ミラちゃん!」



 髑髏野郎の部屋に倒れていた少女を見るなり、大きな声をあげたレミーナ。



「知り合いか?」


「青鳳教会の蒼き聖女様です」


「聖女様? この子が?」



 小柄な少女が着ている服は神官衣だ。青と白の生地はレミーナの神官衣に似ている。豪華な金の刺繍が施されているのは聖女様だからなのだろうか。



「はい。ミラちゃんとは聖都の教会で一緒だったんです」


「しかしお前、聖女様をミラちゃんって……」


「教会にいた時は凄く仲が良かったんです!」



 元気に笑うレミーナが、少女にヒールの魔法を施した。しかし少女は目を覚まさなかった。レミーナ曰く神力をだいぶ抜き取られているとか。神力とは高位神官が持つ奇跡の力の源との事だった。


 少女は俺がおぶり、シャドウナイトは一体も見つけられないまま、俺達は王都への帰路についた。


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