第10話 西の森の洋館
初めて訪れた王都西側の森。既に何組かのパーティーが森に入っていると受付嬢のソフィアさんは言っていたが……。
「アイツらは神殿兵か?」
森には神殿の兵団に所属する神殿兵が三人一組で、あちらこちらにいるのが見える。
「そうですね。シャドウナイトの討伐でしょうか?」
「それは不味いな」
「何でですか?」
「アイツらは対アンデッド戦のプロだ。狩り場を同じくしていたら俺達の方が分が悪い。少し森の奥に入るしかないな」
「でもカイン、奥まで行ったら日が暮れるよ」
「ああ、そうだな」
俺の返事に不思議そうな顔をする二人。今の俺達の状況を理解していないようだ。
「今日は何らかの成果を出さないと帰らないからな」
「「えっ!?」」
「当たり前だろ? 王都の宿屋は高いんだ。稼がざる者、泊まるべからずってヤツだ」
「それ違ぁう! 喰うべからずだよね」
「勿論、晩飯も抜きだな」
「ひゃい~! 悪化してるし~!」
「ではその分でパ~っと飲みましょう!」
「アホかッ! 酒も無しだ!」
「えぇぇぇぇ」
「え~じゃない! まだ陽は高いんだから頑張れば何とかなるだろ。こっちにはレミーナがいるんだからな」
「はい? 私ですか?」
「…………」
このスカポンタン娘。
「お前の職業は何だ?」
「そ、僧侶です……?」
「だよな。で?」
「……何でしょう?」
ポカ
金髪美少女の頭に容赦なく拳骨を落とす。
「サーチマジックだろうが!」
「そ、そうでした~!」
全く~。サーチマジックには幾つかの系統が有る。僧侶の使うサーチマジックは霊的存在を感知出来る。聖女候補とまで言われるレミーナの奇跡力は大きい。広範囲での霊的存在を索敵出来るのに、残念聖女候補は忘れてやがった。
◆
「ここまで来れば神殿兵もいないだろう」
少し森の奥に入るつもりが、結構森の奥へと踏み入ってしまった。神殿兵の数が思っていた以上に多かったからだ。奴らはシャドウナイトの討伐ってよりも、他に目的があって森の中に入っている、そんな感じだった。
「サーチマジック!」
レミーナが神聖魔法を唱え、この森の霊的存在の感知を始めた。
瞳を閉じて集中するレミーナ。その姿は美しく、聖女様と言われれば信じてしまう程に神々しく見える。まあ、俺は騙されないけどな。
「強い霊力を感じます。更に森の奥です!」
レミーナに導かれ俺達は森の奥に進んだ。そしてそこには古びた館があった。館の壁はぎっしりと蔦の葉で覆われている。
「……怪しさ満載だな、オイ」
「凄い霊力です……」
「どうするカイン?」
今のところ、俺達の稼ぎは少しばかりの薬草だけだ。シャドウナイトに至っては、その姿さえ見ていないし、雑魚モンスターは神殿兵に狩られていた。
「まだ陽も有るし、中を少し調べてみるか。シャドウナイトの棲家かもしれないしな」
アンデッド系は一般的には陽の光に弱い。いざと成れば建物を破壊して陽光を差し込ませれば、それだけでデバフ出来る。
行き成り建物を破壊するってアイディアも有るが、逃げられては後が面倒くさい。
「中にシャドウナイトを確認したら、一度表に引くぞ」
「「はい」」
俺達は壊れてそうで壊れていない扉を開けて中に入る。館の中は真っ暗だった。ガラス窓は裏打ちされており陽光が差し込んでこない。
「ライトの魔法を使いますか?」
「そうだな」
相手が霊体である場合、明るかろうが、暗かろうが、相手はこちらが見えている。だったら明るい方が良い。足元が暗くては戦闘もままならない。
「ホーリーライト」
低レベルの神聖魔法のホーリーライトをレミーナが唱える。低級のゴーストとかならこの光から逃げ出すが、シャドウ級なら逃げ出したりはしない。
明るくなった部屋を見渡すとそこは広いホールで、足の踏み場も無いほどに骨だらけだ。
「な、何これ?」
リアナが驚くのも無理もない。そこには人、獣、魔物と様々な骨で埋め尽くされている。
「……悪霊召喚……ですね」
「「悪霊召喚?」」
俺もリアナもそっち系には疎い。
「生き物の命、いえ魂を触媒に悪魔や悪霊を召喚する暗黒魔術です。この館から感じる悪意は……奪われた魂の悲しみの渦の様な……キャァァァァァァ」
「どうしたレミーナ!」
見るとレミーナの瞳、鼻、耳から血が流れ出ている。
「リアナッ!! ありったけのポーションをレミーナに使え! 脳を破壊された! 激ヤバだ!」
リアナに指示を出した俺はヒールを何度もかける。俺のギフト『サバイバル』は仲間の死には反応しない。
「ヒール! ヒール! ヒール! ヒール! ヒール!」
レミーナの顔に血の気が戻る。何とか命は取り止めた。まさか聖女候補のレミーナがクラッキングされるとは思わなかった。クラッキングとは、サーチ魔法を逆探して、術者を攻撃するカウンター魔法だ。
「カイン!」
リアナが館内に広がる不快な気配に気がつく。レミーナをクラッキングした野郎が、俺達に向けた殺意を剥き出しにし始めた。
サンクス!!
強烈な殺意が俺のギフト『サバイバル』を呼び起こした。
「サーチマジック!」
俺はサーチマジックを無詠唱で唱える。
命の危機の強度によって俺のギフト『サバイバル』の強度も変わる。僧侶しか使えない霊的存在を感じとるサーチマジックも今の俺なら発動出来る。
「上かあッ!」
レミーナが喰らったカウンターマジック。レミーナの強い奇跡力を倍返しで返された。なら俺は三倍返しだ! 絶対え許さねえ!
2階のドアを片っ端から開けてソイツのいる部屋へと走り込む。
薄暗い部屋にいたのは、髑髏頭の骸骨だった。
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