第9話 雑魚だよな?

「……成る程。先程の生首と、この鎧が暗黒邪教騎士団のものという事ですね」



 正気を取り戻した受付嬢は、笑顔を引きつりながらも応対してくれている。うちのバカ悪女がご迷惑をかけてすんません。



「道中の馬車で襲撃を受けたんだ。確かにコイツは聖女狩りと言っていた」


「ではその馬車には聖女様候補の方が同乗されていたという事ですか?」



 俺は残念な目でレミーナを見る。その視線を追い掛けた受付嬢が、レミーナと視線を合わせる。



「はい。私がその聖女候補です」


「す、凄いです! 遂にこのギルドにも聖女様候補の方が! しかもこんなに美しい方が!」



 やたらと喜ぶ受付嬢だが、中身は無駄金使いの酒乱女だ。それを知ったらさぞや残念がるだろう。



「……ま、まあそんな訳で俺達は襲われたが、アイツらが超雑魚だったので事無きを得たんだ」


「えっ? 暗黒邪教騎士団が雑魚?」


「その何チャラ騎士団は分からないが、俺達を襲ったヤツらは雑魚だったな」



 リアナとレミーナのジト目視線を感じる。



「そんな筈は無いです。魔導も使う暗黒邪教騎士団の騎士は神聖騎士級と聞いています」


「アハハ。その手の話しには大概尾鰭おひれが付きもんだ。何チャラ騎士団もピンキリって事だろ」


「そうなんですか?」



 受付嬢は俺にではなく、リアナとレミーナに視線を送る。何故か首を横に振る二人。



「私は違うと思うよ。まさかカインが無詠唱でファイヤーエクスプロージョンを撃つなんて誰も思いつかないし」


「私も違うと思います。カイン様のバフ魔法は常軌を逸してましたわ。あの様な雷光の一撃は例え神聖騎士様でもかわせないと思いますわ」


「お前らは俺を褒めすぎだ。まあ、A級程度には強くなっていると思うが、神聖騎士には遠く及ばないさ」



 何故か受付嬢までもが俺を不審な目で見ている。



「……カインさんって魔法剣士ですよね?」


「まあな」


「無詠唱魔法に、神聖騎士級を一撃って……。一度ランクテストを受けてみては如何ですか?」



 ランクテストとは昇級試験だ。確かにA級に上がれれば割のいいクエストも出来る。しかし試験には金がかかる。もし不合格なら無駄金になっちまう。



「そうだな。そのうちに受けるよ。それより今はお金が欲しい。そのシャドウナイトの緊急クエストを受けさせて貰おう」


「承知しました。先ずは暗黒邪教騎士団の情報提供の件ですが、神聖騎士団に確認を取る為、首級と鎧はお預かりして宜しいですか?」


「ああ、構わない。宜しく頼む」



 俺達は王都西側に出没するというシャドウナイトの緊急クエストを受諾する。あとはついでに雑魚モンスターの討伐と薬草採取のクエストも受け取った。


 そして受付嬢から聞いた聖女狩りの情報。どうやら暗黒邪教騎士団をようするマーラー邪神教会は各地で聖女や聖女候補を狙っているらしい。既に何人かの聖女候補が拉致または不幸にも殺害されているとの事だ。


 王都周辺にいた聖女候補の女の子達は、この王都にある神聖教会の大聖堂に逃げ込んでいるらしい。


 ちなみに聖女は、大陸であがめる五大主神をまつる五神教会に各一人いる。聖女は特殊な奇跡力を持つ十代の女性の中から選ばれ、聖女候補と呼ばれている。



「レミーナ、お前も大聖堂に避難するか?」


「えっ!? 行きませんよ? あんな所に引き籠もったら慎ましい生活が待っているだけですから」



 大聖堂をあんな所って言うなよな。



「それに、私にはカイン様がいますから大丈夫です!」


 ……まあ、そういう事にしておくか。


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