第8話 新パーティー結成

「ここが王都か」


「可愛いお店が沢山有りますね」


「街の女の子達も可愛い服着てるね」



 馬車は王都の大通りを走り停車場に着いた。馬車を降りた所には幾つもの屋台が並んでいる。



「なんだアレ? 凄い行列だな」


「私ちょっと見てくる」


「わ、私も行きます~」



 浮かれた二人が長い行列の屋台を覗いて戻って来た。



「パピオカっていう飲み物売ってたよ」


「カラフルでとても美味しそうでした~」


「あっそ。行くぞ」


「えっ! 買わないの?」


「並びましょうよ~」


「買わない。時間が勿体ない。お金もない」



 俺はそう言って歩きだす。「「えぇぇぇぇ」」と文句を言いながら二人は付いてきた。



「ねえ、どこに向かうのカイン?」



 人通りの多い通りを街の山の手目指し歩きだす。



「王都の侯爵家だ」


「…………え!?」



 リアナは今ではこんなんだが、侯爵家のご令嬢だ。娘が借金奴隷になっているのだ。事情を話せば1億ぐらいポンと出してくれるだろう。



「む、無理よ、無理! あたしが死ぬからやめてッ!」


「アハハ、何でお前が死ぬんだよ。王都に来たときぐらいは、親父さんに顔見せてやれよ」


「侯爵家に行ったら、美味しいお酒が飲めそうですね」


「駄目よ、駄目! 絶ッ対に駄目ぇッ!」



 リアナは金遣いが荒くて半勘当状態とは聞いていたが、そんなに家の敷居が高いのか?



「親父さんに殺されるって、何をしでかしたんだ?」


「え、えっと、応接間に飾ってあった剣を質屋に入れたら、その剣は家宝の剣だったとか、宝物庫の壷を骨董品屋に売ったら、その壷は王様から頂いた壷だったとか、かな?」


「……それで?」


「それがバレて、お父様があたしに剣を差し出して、腹を切れって言うから、そのまま家を飛び出して、お父様とはそれ以来会っていないわ」



 とんでもないご令嬢だな、オイ。



「つまり、侯爵様にお前を突き出せば、旅の路銀ぐらいは手に入ると言うわけだな」


「そのお金で美味しいお酒が飲めますね」



 レミーナの聖女候補とは思えぬ言動に、リアナの顔が青ざめていく。



「冗談ですよ、リアナさん」


「お、驚かさないでよ!」


「冗談じゃないぞ。行くぞ」


「いやぁぁぁぁ! やめて、やめて、本当にやめてぇぇぇぇぇぇッ!!」




 

 リアナが死ぬほど嫌がっていたので、候補家に行くのを諦め、俺達は冒険者ギルドを目指す事にした。


 王都には冒険者ギルドが幾つか有るらしいが、停車場近くの冒険者ギルドを見つけて中に入る。以前いた町のギルドよりも大きい建物だ。冒険者の数も多いのだろう。



「こんちは」



 昼過ぎのギルドは何処も空いている。受付嬢もノホホンとお茶を飲んでいた。



「こんにちは」



 美人顔の受付嬢がニコリと微笑む。



「こちらのギルドは初めてですね」


「ああ、今さっき、王都に着いたばかりなんだ」


「冒険者ギルド『天輪の嵐』にようこそいらっしゃいました」


「『天輪の嵐』か。何だか物騒なギルド名だな」


「ふふ、冒険者ギルドは何処も物騒ですよ」


「そりゃそうか。パーティー登録と今日出来るクエストが有ったら紹介してくれ」


「はい」と言って美人顔の受付嬢がパーティー登録申請の紙を出した。


 ん? パーティー名?


「なあ……」


「「はい?」」



 ……コイツらは俺とパーティー組むんだよな? いいんだよな? 断られたりとか? 一抹の不安……。



「お前ら俺と一緒のパーティーでいいんだよな?」


「当たり前でしょ」


「一生着いて行く契約ですよ」


「そうよそうよ」



 いや、一生とは言ってないぞ。一緒だ! 一緒ッ!!


 はっ、まさか!


 コ、コイツら一生金を返さないつもりか! くっ、悪女め!



「絶対、金は返してもらうなからなッ!!」


「「?」」


「まあいいや。パーティー名は……どうする?」


「カインが決めなさいよ」


「じゃ、まあ、……アオっと」


「何それ、単純!」


「パーティー名なんて何でもいいだろ?」


「何か意味が有るのですか?」


「いや、単に青色が好きなだけだが?」


「「えっ!?」」



 そう言ったリアナは自分の空色の髪の毛を指でクルクルと指に絡ませ遊びだし、レミーナは青色の僧衣をヒラつかせてクルリと回っている? 何がしたいんだお前達は?



 パーティー名に『アオ』と書き、メンバーには


魔法剣士カイン クラスB級

魔法使いリアナ クラスA級

僧侶レミーナ  クラスB級


 と書いた。



「A級とB級の方のパーティーですね。メンバーは三人だけですか?」


「ああ、そうだが?」


「パーティーランクは総合力判断の為、C級登録となりますが宜しいですか?」

 

 パーティーは通常五人で組む。クエスト難易度は、概ね五人パーティーに併せて決められている事が多い。その為に少数パーティーは個人の技量レベルよりもパーティーランクは落とされてしまう。



「まあ、仕方ないな」


「それから、これが本日受けられるクエストになります」



 受付嬢が幾つかのクエストを紹介してくれた。ペラペラと紙をめくり眺めるが、薬草採取や低級モンスター討伐ぐらいしか無い。



「もう少し金になるクエストはないか? C級でも一つ上のB級クエストは受けられる筈だが?」


「B級クエストですと、今日中に達成可能なクエストは有りませんね。……そうだわ、今、緊急クエストが発令中なんです。そちらに参加されますか?」


「緊急クエスト?」



 緊急クエストとは国や教会、大手商業ギルドなどからの緊急性の高いクエストで、達成報酬も高く、参加報酬なども貰える場合がある。



「はい。西の城壁近くの森に出現するシャドウナイトの討伐または情報収集です」


「シャドウナイトとはまた厄介なヤツが現れたな」



 シャドウナイトは、シャドウの上位種にあたるアンデッド系モンスターだ。幽体にして剣豪のスキルを持ち、シャドウ同様に精神系デバフも使う。物理攻撃や火水風土の4大魔法にも耐性が高い。


 ただシャドウナイトは、普通は廃墟と化した墓場や、アンデッド系ダンジョンなどでしかお目にかからない。森の中で彷徨うモンスターでは無い筈だが。



「しかも複数体いるようなのです。森を職場にしている木こりや狩人など、既に数人が森から帰ってきていません」


「マジか? 最近近くで騎士級の死亡案件とか有ったりするか?」


「いえ、そういった事は無いのですが……、気になる事件が最近おきているのです」


「それは?」


「マーラー邪神教会による聖女狩りです」


「あう」



 俺はがっくりと肩を落とし、リアナとレミーナは顔を見合わせる。



「何かご存じなのですか?」


「……レミーナ、アレを出してくれ」


「はい」



 俺はレミーナに道中の戦利品をマジックバックから出すよう促す。



「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」



 絶叫する受付嬢。レミーナが取り出したのは生々しい首。



「生首じゃねえよ! 鎧だ! 鎧!」


「あっ、すみません」



 行き成り受付カウンターの上に、暗黒邪教騎士の生首をだされて卒倒した受付嬢。そりゃそうだ。全く、神聖教会でどんな教育を受けてきたんだ!


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