第7話 黒衣の騎士
「おはようカイン」
「カイン様、おはようございます」
妙にスッキリ顔の二人と寝不足の俺。
「……はよ」
まだ眠い体を起こすと、何故か二人が俺の腕に体を寄せてくる。
「久しぶりにぐっすり寝れたよカイン」
「とても良い夢をずっと見てた感じです」
「私も私も~」
あれから何度もハアハア言われて起こされた。お前らハアハア言いながらどんな良い夢見てたんだよ。お陰で俺は寝不足だっつうの!
◆
宿場町の停車場で、王都行きの馬車に乗る事が出来た。馬車なら昼には着くから、冒険者ギルドに行ってクエストの一つぐらいならこなせるかもしれない。
ゴトゴトと揺れる馬車の中で俺は虚ろ虚ろとして、知らぬ間に眠ってしまった。
「……柔らかい」
揺れる馬車で目を覚ますと何やら枕が柔らかくてスベスベする。こんな気持ちいい枕は……。
「……太腿? なっ!?」
俺はリアナの太腿から身を起こした。どうやらリアナの膝枕で寝てしまったらしい。
「起きたねカイン」
ニコリと笑うリアナの微笑みにドキッとしてしまう。ホントにコイツは美少女だ。
「わ、悪かったな」
「え、別にいいよ」
頬を赤く染めてリアナはそう言うが、他の同乗者の手前、恥ずかしい思いをさせてしまった。
「カイン様、はいどうぞ」
隣のレミーナがポンポンと両膝を叩いている。
「何がだ?」
「さあさあ、次は私の膝枕で寝て下さい」
「……いや、もう大丈夫だ」
「がぁぁぁぁ〜ん」
何言ってるんだコイツは? そんな恥ずかしい事は出来ないだろ。馬車の中の空気がめちゃくちゃ悪い。
「外が綺麗だな~」
などと視線を外に送りすっ
◆
「ん?」
「……殺気?」
「大分いる感じですね」
街道を走る馬車が突然止まった。馬車の外からガヤガヤと聞こえる男達の声。どうやら野盗が道を塞いでいるようだ。
王都付近での街道に野盗が出るのは珍しい。だから馬車には護衛の冒険者が付いていない。そこを狙われたか?
逃げるか、戦うか……。
「ママ怖いよ~」
「大丈夫よ。ママがいるからね」
同乗者の小さな女の子が、母親に抱かれながら泣いている。
やれやれだな。
俺は馬車の扉を開けて外に出る。馬車の前方には黒衣の野盗達がいる。血の匂い? 見れば馭者は既に弓矢に撃たれ、矢が刺さった血まみれの腹を押さえ、苦痛に顔を歪めていた。
「ファイヤーエクスプロージョン」
爆炎魔法を躊躇なく放つ。猛々な業火が野盗達を焼き尽くす。
「す、凄い……」
続いて降りてきたリアナ。天才魔法少女をもってして、凄いと言わしめた俺のファイヤーエクスプロージョンだが、業火の中に消えない気配がある。
「下がっていろ」
リアナにそう告げて俺は剣を抜いた。
「とんでもねえ魔法使いが居やがったなあ。部下達が全滅しちまったじゃねえか」
炎の中から出て来たのは、黒衣の鎧を着た巨漢の男だった。
「まさか爆炎魔法を行き成り喰らうとは想定外だ。俺様じゃなかったら死んでたぞ、オイ」
「カ、カイン様……あれは暗黒邪教騎士団の鎧です……」
リアナと一緒に馬車を降りていたレミーナが黒衣の騎士を見て震えていた。
暗黒邪教騎士団。この国だけではなく、様々な国で暗躍しているという邪教徒集団の武装集団が暗黒邪教騎士団だ。何でこんな所にいるんだよって感じだが……。
「暗黒邪教騎士団様ともあろう御方が、馬車強盗とは情けないな」
「抜かせ。馬車強盗なんかするかよ!」
「ん? ……じゃあ何でだ?」
「聖女狩りだ!」
「「………」」
俺とリアナが揃ってレミーナを見る。
「わ、私は聖女では有りません。聖女候補です!」
そう、残念悪女は未だに聖女候補として聖教会から認められている。聖女になる条件にお金の亡者や酒乱女は関係ないのだろうか?
「候補でも聖女だ。ここで死んで貰おう」
巨漢の黒騎士が背中のグレートソードを抜き、構える。
「アイスジャベリン!」
俺は剣を持たない左手を突き出し、氷の槍を放つが黒衣の鎧に弾かれた。
「魔法は効かねえよ!」
俺の魔法で傷一つ付かない黒い鎧。なるほど。魔法効果無効に近い加護があの鎧には有るらしい。
「仕方ねえか。武装強化!」
俺は剣に攻撃力アップの魔法を付与する。さらに、
「身体強化! 速力強化! 加速思考! 加速知覚! 剛腕! 強足!」
「ふん、魔法剣士か。そんなインチキで俺様に勝てると思うなよ」
自信に満ちた顔で大剣を両手で握り、大上段に構える黒騎士。
「ハッ!」
俺はブーストした剣戟を、黒騎士の自慢の鎧に一閃。
「あれ?」
「ガハッ」
巨漢の黒騎士は一撃で真っ二つになった。
弱っわっ!!
なんかヤバい様な雰囲気だったから色々とブーストしたが、このオッサンは雑魚でした。肩透かしもいいとこだ!
「たくう! 雑魚なら雑魚って言えつうの! 無駄にブーストしちまったじゃねえか!」
「「…………」」
剣を肩に担いで戻って来た俺を、リアナとレミーナがぽわーんって顔で見ている。
「どうした?」
「つ、強いねカイン」
「カイン様、凄すぎです~」
「そうか? アイツが雑魚なだけだろ?」
先のS級ダンジョンで莫大な経験値を得ている恩恵で、確かに俺は強くなっている。しかしこのおっさんは弱すぎだ。
見れば馭者が痛さの限界を迎えて、泡を吹いて馭者台に倒れていた。僧侶のレミーナが未だにぽわーんとしている。お前やれよと思ったが、それも面倒くさいので、俺が馭者のオッちゃんに治癒魔法をかける。
「ヒール」
オッちゃんの腹から弓矢を取り除いてヒールをかけた。
「凄いです……」
「どうしたのレミーナ?」
「カイン様のヒールが凄いです……」
「ただのヒールでしょ?」
「あれがただのヒールだから凄いのです……」
◆
馬車は動き出した。黒衣の騎士の首級と鎧は聖教会に報告するとの事で、レミーナのマジックバックに収まっている。
「何故、私が狙われたのでしょうか?」
「狂信者のやる事なんか分からんし、分かりたくもないな」
「馬車が狙われたって事は、レミーナがこの馬車に乗っていたのを知っていたのよね?」
「邪神様のお告げじゃね?」
「そ、そんな事があるの?」
「……いや、無いと信じたいな。大方、あのちょび髭が情報を売ったってとこだろう」
俺達が王都を目指している事を知っていそうなのは、闇金のちょび髭ぐらいだ。
「今後も私は狙われるのでしょうか?」
「聖女狩りとか言ってたから、可能性は有るな。余り一人で出歩くなよ」
「はい! 出歩く時はカイン様と一緒です!」
「……いや、リアナと一緒でもいいんじゃね?」
「私じゃ護衛は無理よ。クイックの魔法なんて余り使えないし」
「……確かに」
「カイン様、宜しくお願いします~」
レミーナが俺の腕にしがみ付いて来やがった。柔らかい感触にドキリとするが、騙されるな俺!
「はぁぁ、やれやれだな」
しかし、聖女狩りってなんだ?
馬車の窓から見える草原を見ながら思考するも、邪教徒の考える事など分かる筈もなく、程なくして俺達を乗せた馬車は王都に到着した。
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