第6話 隷属の首輪の呪い

 俺達はこの町を出る為に、王都行きの馬車の停留所に向かったが、朝の騒動で出遅れた為に馬車は既に満員だった。仕方なく歩いて王都を目指す。歩いてもニ日の距離だ。途中には宿場町もある。



「ねえ、怒ってるのカイン~」


「カイン様~」 


「…………」



 宿場町を目指し街道を歩く俺達。ぱっと見は若い冒険者パーティーに見える。すれ違う旅人や商人達はチラリと美少女のリアナとレミーナを見たり、「チッ」と言って俺に殺意の目を向ける者もいる。とんだ勘違いだ。



「機嫌直してよカイン~」


「そうですよ~」



 ギロリと二人を睨み黙らせる。



「機嫌直せだあ~? 機嫌が直る要素が何処に有るんだよ。あ~~~ン?」


「「ひっ」」



 怯んだ二人だが何故かめげない。



「わ、私の笑顔とか?」


「に、ニコニコですよ」


「うるさい! 黙れ! 喋るな! この徒花あだばな女!」



 ギロりと睨む。



「「ひっ」」



 そんなこんなで夕方には宿場町に着いた。



「カイン、カイン! 前に来た時はあそこに泊まったよね!」



 リアナが指差したのは高級宿屋だ。



「俺は泊まってないし、今夜も泊まらない」


「「え~~~~~~~」」


「え~じゃない!」



 ギロりと睨む。



「「ひっ」」



 このスカポンタン娘達は状況が分かっていないようだ。



「俺達にはお金が無い! コツコツ貯めた俺のお金はすっからかんだ!」


「す、少しは有るのよね?」



 俺はリアナをギロリと睨み黙らせる。



「お金が無いなら、借りてみては如何かしら?」



 全く反省していないレミーナにもギロリと睨む。



「今日の宿はここだ」


「「えっ?」」


「じょ、冗談よねカイン?」


「こ、ここって木賃きちん宿……ですか?」


「そうだ。お金の無い俺達はここに泊まる」



 この宿場町でも最低ランクのオンボロ木賃宿。以前来た時に調べてめっちゃ安いのは知っていた。流石にその時は、ここには泊まらなかったが。


 俺はブツブツ言う二人を置いて中に入る。仕方なく二人も俺についてきた。



「3人で泊まれる部屋を一つ頼む」



 宿屋のオヤジにそう告げたが、「はああ~?」とオヤジは奇妙な返事をした。



「お兄ちゃん、うちの宿にその達と泊まるのかい?」


「そうだが、何か?」


「困るよ、お兄ちゃん」



 とオヤジは何故か困り顔だ。



「うちの壁は薄いんだよ。夜中にアンアンされたら他の客に迷惑だ」


「いや、アンアンはしないから大丈夫だ」


「えっ! そんな美少女連れて夜中にアンアンしないだって!? お兄ちゃんはヘタレかい!?」


「し・ま・せ・んッ!!」



 俺はキッパリと言い切った。俺はこの歳になっても女性経験は無い。だからと言ってこの悪女達に手をつけたらマスサス達と同じ運命を辿たどる可能性がある。そんなのはゴメン真っ平だ。


 オヤジが仕方なしといった感じで部屋を用意してくれたのは、ニ階にある三畳間だった。三人が横に寝たらそれで終わりだ。



「ベッドは?」


「無い」


「お風呂は?」


「無い」


「「…………」」


「じゃ、じゃあ夕飯ぐらいは豪勢に食べるわよね!」


「美味しいお酒も付けて下さい!」


「晩飯は干し肉だ。部屋で食べるぞ」


「「えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」」


「え~じゃない! ちったあ状況を考えろアホ娘!」



 俺の財布は流石に一文無しって訳ではないが、節約するに越した事はない。目指す王都の宿屋はそれなりに高い。王都で幾つかクエストをこなしてお金を貯める迄は我慢だ。


 三畳間で干し肉と少しの葡萄酒を飲み、各々がマジックバッグから底冷え対策を兼ねたマットを取り出し敷き詰める。寝袋に包まる程には寒くはないので腹に乗せる程度で横になる。



「おい!」


「なに?」


「はい?」


「何で俺が川の字の真ん中なんだ?」


「何でと言われましても~」


「ねえ」



 何言ってんだコイツらは? まあいいか。寝よ寝よ。



「カインとこうやって寝るの初めてね」


「……マスサスじゃなくて悪かったな」


「?」



 横を向けばリアナが不思議な顔をしている。



「マスサスとは寝てないわよ?」


「は?」


「か、勘違いしているかもしれないから言っておくけど、私、そういう経験無いからね」


「わ、わ、私もです……」


「はあ~? あんだけアイツらにみつがせておいて、何やってたんだ?」


「貢がせてなんかいないわよ! 勝手にマスサスが色々と買ってくれたの」


「そ、そうです。ハルバー様が美味しいお酒をいつもご馳走してくれただけです」


「…………」



 あ、悪女怖えぇぇぇぇぇ。



「でも、それなりにしてたんだろう……き、き、キスとか……」


「してないわよ!」


「していませんわ!」


「え? じゃあ何してたの?」


「何もしてないわよ?」


「頭を撫でてあげましたわ」


「…………。お前らってアイツらの彼女だろ?」


「違うわよ?」


「違いますわ?」



 あ、あいつらが可哀想過ぎる……。



「だ、だったら何で俺が川の字の真ん中なんだよ」


「だ、だってカインは……助けてくれたし……」


「……な、何でもすると……や、約束……致しましたし……」


「……いや、いい、いらない、怖い、寝る」



 俺は寝袋を頭から被り目を閉じた。


 悪女怖い、悪女怖い、悪女怖い、悪女怖い、悪女怖い、悪女怖い、悪女怖い……。



 しばらく寝ようと頑張って目を閉じるも中々寝付けない。鼻にくすぐる微香。腕に伝わる柔らかい感触。両隣には腐っているとはいえ美少女が寝ているのだ。健全男子としては寝れる筈がない。野営で一緒に夜を明かした事は何度も有るが、今の雰囲気はそれとは違う。


 安宿を選んだのは失敗だった。アンアン出来ないからじゃないぞ! 離れて寝れないからだ!


 俺の悶々とした気持ちが伝わってしまったのか、両隣の美少女達が俺の腕や足に絡み付いてくる。「ハアハア」と何やら甘いささやき迄もが聞こえてくる。



「ハアハア」


「ハアハア」



 やめて! 耳に息を吹きかけないで! 嫌々マジでやめて! 段々と二人の息もハアハア激しくなってくる。S級ダンジョンで莫大な経験値を貰った俺だが、こっち方面のレベルは全く上がらなかったみたいだ。



「ハアハア」


「ハアハア」



 ちょ、ちょ、ちょい待てえいッ!


 左を見るとレミーナが紅潮した頬に、つやっぽい唇でハアハアと何やら妖艶ようえんな雰囲気をかもし出している。白いブラウスの胸元がはだけ、豊満な谷間が見える、って言うかこぼれそうだ。右のリアナも以下同文だった。


 何かがおかしい。


 俺は少し冷静になり二人を観察すると、今朝けさ二人に付けた隷属の首輪に、薄らと紫色の呪印が見える。



「じゅ、呪淫じゅいんかよ! あ・の・ちょび髭えええッ!!」



 俺がちょび髭から買った隷属の首輪は、呪淫の首輪だったらしい。首輪の主人もしくは主人の指示に従いみだらになってしまう呪いだ。


 つまりはさっきの俺をほのめかす様な言葉も、今のこのさかってる姿も、この首輪の呪いって訳だ。そうと分かれば対処も出来る。



「ディスペル」



 俺は解呪の魔法を二人にかける。隷属の首輪の呪淫は解呪出来ないが、効果を和らげる事は出来る。落ち着いてきた二人は幸せそうにスースーと寝息を立てている。よし、俺もこれで寝れそうだ。





「…………」


「ハアハア」


「ハアハア」



 幾らか寝た頃に、また二人は興奮し始めた。


 またかぁ~いッ!!



―――――――

※徒花女は作者の造語です。見た目が綺麗なだけで中身が伴わない女性って意味合いです




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