第4話 盗っ人

 俺は元パーティーメンバーが泊まる超高級宿には泊まらずに、毎日ボロ宿で寝泊まりをしていた。


 ボロ宿は一日3シルバーだが、リアナご指定の超高級宿は一日20ゴールドだ。そんな宿に泊まっていたら月の稼ぎが三日で無くなる。


 まだ暗い真夜中に「ゴトッ」と物音がして目を開ける。暗闇の中に二人の盗っ人がいる。



「ライティング」



 俺は光魔法のライティングを唱えた。低レベルであれば『サバイバル』のギフトが発動しなくても無詠唱で一通り使える。


 「ウワッ!」と突然の眩しい光に目が眩む盗っ人達。素早くベッド脇に立て掛けてあった剣を取り、ベッドから跳ね起きる。



「ま、待てカイン!」



 聞き覚えのある声は元パーティーリーダーのマスサスだ。隣にいるのは聖騎士のハルバーだった。



「何やってんだお前?」 



 まあ、盗っ人やってるんだが……。俺の質問を無視してハルバーが俺の部屋を物色している。



「俺達のお宝を取りに来たに決まってるだろ」



 訳の分からん事を言うハルバー。



「お前らのお宝はここには無いよ」


「何処に隠したッ!」



 こんな深夜に大声を張り上げるハルバー。


 アホだなコイツ。


 なるほど、昨日のダンジョンでのお宝を奪いに来たのか。



「隠したも何も、ここには無い。有るのはだ。そうだろマスサス」



 マスサスは憎悪のこもった目で俺を睨む。



「カイン、宝を渡してくれ」


「ダメだな」



 俺の否定した言葉に剣を抜いて答えるマスサス。銀色のやいばがライティングの明かりにキラリと光った。


 あ〜あ。


 ドンドンと部屋のドアを叩くのは隣部屋のオッちゃんだ。ボロ宿の壁は薄い。ハルバーの大声に気が付かない方がおかしい。



「オイ! どうしたカイン!」


「盗っ人だオッちゃん」


「何だとおおおッ!」



 扉を蹴破り入ってきたオッちゃんは、マスサスとハルバーを睨みつける。



「誰だテメエ!」



 臆すること無く言い返すハルバー。




「悪党に名乗る名前はねえッ!」




 カッコよく啖呵たんかをきるオッちゃんだが、水玉の可愛いパジャマに同じ水玉のナイトキャップ、小脇にクマのぬいぐるみを抱えている。どんなコントだ? 笑かしに来たのか?



「下がっていろ、オッちゃん」



 このオッちゃん、けして弱くはないが得物えものがクマのぬいぐるみでは戦えない。


 狭い部屋に剣士、聖騎士、魔法剣士の剣が三本。大立ち回りは不可能だ。てな訳で、



「バインド!」



 俺は拘束魔法のバインドを二人にかける。以前の俺なら二人に軽くレジストされていたが、今は違う。圧倒的に増えた魔力によって、A級剣士のマスサスを持ってしても簡単にはレジストできない。



「くっ」


「グオオオ」



 バインドによってろくに口も聞けない二人が唸り声を上げるが、完全に動きが止まった。



「オッちゃん逮捕!」


「ああ、任された!」



 隣の部屋に住むオッちゃんは衛兵隊の隊長さんだ。強盗殺人未遂の現行犯。もはや言い逃れはできないだろう。


 真夜中に急遽きゅうきょ駆け付けた衛兵隊に連行されていく二人。俺はそれを2階の部屋から見送る。



「オッちゃん、あの二人は牢屋で2、3週間、頭を冷やさせてやってくれ」


「そんなんでいいのか? 立派な証拠もある。死刑にだって出来るんだぞ」


「いや、いい」



 これで悪女の毒っ気が抜ければ、二人は真面になるだろう。なまじ綺麗な女の子には、関わり合いを持つもんじゃないな。俺も気をつけないとな。


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