第5話 悪女と奴隷

 今年の春、旧メンバーの3人が田舎に里帰りする為に、パーティーから抜けた。たまたま魔法学院を卒業したばかりのリアナに声をかけたらメンバーになってくれた。そして聖都から修行に来ていたレミーナも加わった。


 美少女が二人もパーティーに入って喜ばない男はいない。当時の俺も浮かれていた程だ。


 リアナはさっさとマスサスにくっついた。俺もレミーナといい関係になるのかと期待していたら、その後に加わったハルバーとレミーナが速攻くっついた。


 クソッ! リア充は爆発しろ! パーティー内恋愛禁止だ! などと思っていた時期も有りました。


 子爵家三男のハルバーは、親から渡された支度金を沢山持っていた。ハルバーは運が良かったのか悪かったのか。レミーナにしたら運が良かった。そして、今となっては俺も確実に運が良かったと言えるな。悪女に捕まらなかったのだから。





 マスサスとハルバーが衛兵隊に捕まりパーティーは解散だろう。しかしリアナとレミーナは見た目良し、才能良しだから直ぐにパーティーは決まるだろうな。


 悪女二人はこの後も何処かのパーティーを破滅に導くのだろう。可哀想なそのパーティーと悪女二人の噂を聞くのも忍びない。俺はこの町を離れ明日は王都へと移動しよう。二度とあの悪女二人に会わない為に。





「…………」


 ボロ宿のある寂れた通りは、この町でも下層の人達が朝の仕事始めの為に世話しなく行き来している。


 そんな中に綺麗な花の如く、可愛い洋服を着た二人の美少女が立っている。行き交う男達は必ず一度はそちらに目を向けていた。


 ヨシ!


 見なかった事にしよう!


 俺はそんな美少女二人をスルーして歩き出した。



「助けて下さい~」



 綺麗な金髪の長い髪をなびかせ駆け寄る美少女僧侶のレミーナ。美少女から助けを求められたら普通の男なら助けたくなるだろう。だから俺以外の男に声をかけてくれレミーナ。



「カイン、お願いだから」



 もう一人の、空色の髪の魔法使いの美少女リアナも声をかけてきた。ヨシ! 今からカインという名前をやめよう! ゴメンな母ちゃん、俺はもうカインじゃない! だから関係無いッ!!



「カイン様~」


「カイン~」



 金髪美少女が俺の右腕にしがみ付くと、空色髪の美少女が左腕にしがみ付く。二人の豊かな柔らかい膨らみを腕に感じる。


 くっ!



「「お願いします~」」



 美少女の強烈なアタックに、流石の俺も心が揺らぐ。命の危機では無いので『サバイバル』のスキルも発動しない。何でだ!



「レジスト、レジスト、レジスト、レジスト、レジスト、レジスト、レジスト」



 悪女二人からのお願いを、俺は自力でレジストする。



「『黄昏の流星』さん達だね」



 そこに現れたのは、小太りで身なりが整ったちょび髭オッサン紳士。



「あんた誰だ?」



 質問した俺だが、腕にしがみつくリアナとレミーナは顔を青くしてブルブル震えている。



「わたくし、バルザニ金融商事のジョバンニと申します」



 バ、バルザニ金融商事だと! 表向きも裏向きもバリバリの闇金融じゃないか! コイツら何てとこから金借りてたんだよ!



「さて、今日が返済期限でございます。お金はご用意出来ましたか?」



 俺の腕にしがみ付いて震えている二人を見れば聞かなくても分かる。昨夜、マスサス達が盗っ人まがいの事をしたのも、相手がバルザニ金融商事なら納得だ。


 噂では借金を払えなかった男達は内臓を売られ、女達は躰を売られるって話だ。



「お金を返済出来ない場合は、契約書に記載されている通り、奴隷商への引き渡しとなりますが」


「カイン~」


「カイン様~」


「こらこら、俺は関係ないだろ!」



 泣きすがる美少女二人を俺は突き放す。酷いヤツと思われようが、これはコイツらの身から出た錆だ。



「さあさあ、お金を支払って頂けますかね。お友達二人は衛兵隊に捕まってしまったようですが」



 マスサス達が昨夜捕まっていた事を既に知っていたジョバンニの腕には、隷属れいぞくの首輪が二つ握られていた。隷属の首輪をはめられたら最後、奴隷確定だ。


 俺は元パーティーメンバーの女の子二人の顔を見た。涙と鼻水でせっかくの美貌がだいなしだ。


 やれやれ。昨夜、こいつらには関わらないって決めたのにな。



「俺が払うよ。幾らだ?」


「こちらにになります」



 ジョバンニが契約書に書かれている金額を見せる。0が多すぎてよく分からない?


「…………」


「1億になります」


「はっ? 1億?」


「はい。1億でございます」


「1億カッパー?」


「1億ゴールドでございますよ」


「ち、違う! 私達そんなに借りてない!」


「利息でございますよ」



 闇金融の利息がどれ程かは知らないが、余りの金額に肝が冷える。



如何いかがされますか?」


「…………ぐう」



 流石にぐうの音が出た。



「やっぱり無理……かな……」


「お願いカイン!」


「お願いします、お願いします、お願いします~」



 いや、お願いされて出せる金額かコレ?



「諦めたら?」


「嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌」


「何でもします! 何でもしますから~!」



 更に涙目になる美少女。何でもしますは昨日も聞いたな……。とりあえず昨日の金銀財宝のお宝はまだ換金していないから、幾ら有るかは分からないが、かなりの金額にはなる筈だ。



「ジョバンニさん、あんた今、お宝の査定出来るかい?」


「それは勿論ですとも」



 そう言って取り出したのはマジックバッグだ。冒険者や商人が使っている収納型ではなく、これは鑑定型だ。中に物を入れるとその価値が分かる。


 俺は昨日のお宝をマジックバッグから取り出し、ジョバンニに査定して貰う。



「締めて6436万ゴールドです。足りませんねえ」



 はあ〜、と溜め息を付いて俺は、更に自分の貯金や今までのクエストで手に入れた宝石やレアアイテムをマジックバッグから取り出した。



「これでいいか」


「はい。確かに1億ゴールドです」


「ついでにだが、その隷属の首輪を売ってくれ。コイツらに逃げられたら目も当てられないからな」

 


 闇金融のジョバンニは去って行き、俺の足元で泣き崩れている二人に、俺は隷属の首輪をはめた。



「主従契約をここに命じる。お金を俺に返すまで逃げない事!」



 隷属契約には色々あるが、俺はこの二人が逃亡しない事を命じた。後になって追加契約も出来るので、今のところはこれだけでいいだろう。



「ありがとうね、カイン……」


「ありがとうございます、カイン様……」



 頬を赤く染めてモジモジと御礼を言う美少女二人。この姿しか見ていなければ、俺に気が有るかもなどと勘違い100%だが、俺はだまされない。



「勘違いするなよ。流石に奴隷、特にお前らならあっち系の春奴隷にされるからな。元メンバーとして忍びないと思って助けただけだ。お金はきっちり返して貰うからな」


「「はい!」」

 


 いまだに頬を赤く染めて「はい」と言う二人。ん? やけに素直だが……これも罠だな。気を付けよう。


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