第3話 お前らを助ける義理はない

 最下層から上がる事、5階。薄暗い回廊の先にある前方の部屋では、戦闘が行われているようだ。


 部屋の扉に立ち中を見ると、でっぷり肥えた3メートルを超える巨大なギガオークが3体いた。そして、死んではいないだろうが倒れているマスサスとハルバー。


 リアナはでっぷり肥えたギガオークに捕まり、レミーナはペタンと座り込み錫杖を握り締めて震えている。


 リアナを右手に握り締めている淫猥いんわいなギガオークは、だらしなくよだれを垂らし、ダラリと舌を垂らしながらリアナを見ている。


 レミーナの周囲には2体のギガオークが、巨大に隆起させた醜いモノをおっ立てていた。



「た、助けて……」



 リアナが涙と鼻水を流しギガオークに懇願こんがんしているが、ギガオークの耳には聞こえていても無駄だろう。



「助けて、助けて、助けて、助けて、助けて……」



 錫杖を握り締めているレミーナも、神への祈りも忘れてブルブル震えているだけだ。


 やれやれ。


 マスサスとハルバーは1体のギガオークも倒せずに昏倒とは情けない。確かにギガオークはオークキング並みに強いA級モンスターだが、奇襲でも受けたか? 今までは俺の『サバイバル』の恩恵で奇襲された事はなかったからな。



「よう」



 ギガオーク三体とリアナとレミーナが俺を見る。



「よう、お疲れ~。頑張れよ。俺は先に上がるわ」



 とまあ、俺はをスルーして地上を目指す。最下層で追放された俺に、彼女達を助けてやる義理は無い。



「た、助けて……」


「た、助けてください」


「はあ?」



 俺に助けを求める二人だが、最初に見捨てられたのは俺の方だ。残念ながら助ける気はない。ダンジョン内で見知らぬパーティーを助ける事もある。所謂いわゆるお互い様ってやつだが、今回は逆の意味でお互い様だ。



「お前ら、何を言ってるんだ?」


「お願い、助けて!」


「な、何でもしますから、助けてください……」


「いやいや、女の子が何でもしますなんて言うもんじゃないよ」


「ほ、ホントに何でもするから助けてッ! ヒえア」



 既にさかり始めたギガオークはよだれまみれの舌でリアナの頬を舐める。リアナは捕まれた手の中で暴れるが、魔法少女の力では振りほどける筈もない。


 これが悪女の末路かと思い、部屋の出口に向かおうとする俺の前に、レミーナを襲おうとしていたギガオーク2体が立ち塞がる。


 やれやれ。



「何でも言う事を聞けよ!」



 どうせ倒しついでだ。「は、早く助けて!」と泣き騒いでいるリアナは後回しにして、目の前のギガオーク2体に斬り掛かる。



「フレイムエンチャント!」



 鞘から抜いた剣に炎の付与魔法をかける。普通の剣も炎をまとった魔剣に見える。これが魔法剣士の醍醐味だ。


 軽く跳躍して三メートルを超えるギガオークの頭を真っ二つに斬り裂く。斬られた頭は魔法の炎で炭とかす。今までのフレイムエンチャントよりも切れが良い。


 頭を焼失したギガオークが倒れるのを待つこと無く、その後ろにいたギガオークに向かって走り、太い大木の様な腿を一刀両断。前のめりに倒れるギガオークの首を斬り裂き、巨大な豚頭が炎に包まれ宙を舞う。



「アイスジャベリン!」



 氷の槍がリアナを襲うギガオークに突き刺さり絶命した。



「「…………」」



 一瞬で三体のギガオークが倒れるのを、リアナとレミーナは呆然と見ていた。



「さて、約束だ」



 倒れているリアナを見下ろして、ギガオークによってはだけた衣服から見える綺麗な体を見る。


 流石は魔性の女だ。こんなん見たらどんな男でも一撃アウトだ。リアナは俺の視線に気が付き、はだけた衣服を寄せて体を隠す。



「や、約束だから……い、いいわよ」



 赤い顔をしてリアナが呟く。



「そうか。なら身包み全部出して貰おうか」


「こ、ここで?」


「当たり前だろ」



 更に赤い顔になり涙ぐむリアナ。同情なんかはしない。



「早くしてくれ」


「わ、分かったわよ……。ぬ、脱げばいいんでしょ」



 リアナは立ち上がり、ボロボロになった上着を脱ぎ始める。



「な、何やってんだお前ッ!」



 慌てて俺はリアナの腕を押さえた。



「な、何って……」


「何で脱いでんだよ、お前はッ!?」


「……私のからだが欲しいんでしょ?」


「アホか! いるか、んなもん!」


「えっ?」


「出せってのはお宝だよ! ボス部屋のお宝を全部出せっつってんの!」


「何で?」


「お前らの命、救ったろうが! 何でも言う事きくって言いったろ!」


「だから……私の躰……?」


「それはいらない! ほら、レミーナも出せ! ってお前もかあッ!!」



 振り返って見れば、レミーナも青い聖衣を脱ごうとしていた。聖女候補が簡単に脱ぐんじゃありません!


 俺はリアナ、レミーナ、更には気絶しているマスサスとハルバーからもお宝を回収した。全没収した俺だが、リアナもレミーナも怒っている雰囲気はない。



「な、何で……?」



 赤い顔でリアナがつぶやく。



「何でだって、元々五分の一は俺の取り分だ。それにお前らは命が助かったんだから、全部没収しても安いもんだろ」


「ち、違う……。そうじゃなくて……」



 真っ赤な顔のリアナ。



「何で躰を求めなかったって事か?」



 コクリとうなずくリアナとレミーナ。



「悪女に手を出すほど落ちぶれちゃいないよ。それじゃ、今後こそホントにサヨナラだ」



 俺はそう言ってギガオークがいた部屋から立ち去る。無事にダンジョンを出たら、辺りは暗くなっていた。



「さて、ボロ宿に戻るかね」



 月が照らす薄暗い獣道を、俺は一人で町を目指して歩き出した。




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