第1話 ラグ・アンド・ボーンズ (後)
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それから僕は、相場表を片手に帰路についた。
相場表に照らし合わせながら、金になりそうなガラクタを、捨てては拾い、拾いは捨ててを何度も繰り返した。
そんなことをしていたもんだから、拠点にしているバーに戻った時間は、最後のグールを仕留めてから、2時間は経過していた。
バー「ラグ・アンド・ボーンズ」の扉をくぐると、ガタイのいい壮年のバーテンダーが僕を出迎えてくれる。僕の仕事の世話をしてくれるカクタという親父だ。
「おつかれさん、お前さんの端末に金を送っといたぞ。」
「どうせ捨てるもんに金を払う奇特な方々のおかげで、今日もうまい飯が食えるよ」
カクタは「そう腐るな」と言うが、これが腐らずにいられようか。もうちょっと軽い部位が証拠なら、あれやこれやの戦利品をあきらめずに済むのに。
「フユもクズ拾いが板についてきたじゃないか。始めてうちに来たときはそりゃもう死体みたいな顔……いや、アンデッドだから似たようなもんだが」
親父はショットグラスに
僕はそれを一気に呷る。
廃墟を歩き通した乾ききった体に、ほのかな塩味をかんじる甘さが染み渡る。
ヒーッ!効くなぁっ!
「死体みたいなクズ拾いでわるぅございましたね」
「フユ」というのは僕の名前だ。記憶がないので本名など分かりようがない。冬にバーに現れてぶっ倒れたから「フユ」とそう名付けられたのだ。
まるで犬に名前を付けるテンションだ。
なるほど。確かにこの親父は、僕の名付け親でゴッドファーザーであり、第二の親ともいうべき存在なわけだが……。
記憶も身寄りもない、そんないたいけな僕をいつ死んでもおかしくない廃墟に送り出し、こうしてクズ拾いという、立派なやくざものに育て上げた。
「それで? 金受け取って、飲んで、それでもカウンターに粘るってことは何か言いたいことがあるんだろ?」
さすがバーの親父をやっているだけあって、察しがいい。
僕は悩みの種である重量問題について、その解決によって得られる社会的意義をまくしたてながら
「ふぅーん、荷物持ちねえ。 まあ心当たりがないこともないんだが。」
「もったいぶるなよ」
「まあ、それなりに問題あるんだよ、素人さんを連れていきたいか?」
「嫌だけど、場合によるかな、続けてくれ。」
「アラカワを超えた先、サイタマの向こうの農場が野良のアンデッドの大群にやられてな、そこから逃げてきたアンデッドが、クズ拾いになりたがってる」
「農場に居たんなら正業があるだろ。 クズ拾いなんて仕事やる必要ないだろ?」
「それが本人たっての希望でね。今奥にいて、皿洗いの手伝いしてもらってるから、詳しくは本人に聞いてくれ。」
「ここにいるのかよ!?」
しばらくしてから、奥の厨房からアンデッドが現れた。カウンター越しでもわかるその体躯。4本脚の生えた大きな胴に、人間の女性の上半身が継がれている。
人馬一体型の「セントール」というタイプのアンデッドだ。
――わーぉ、すっごい荷物運んでくれそう。
彼女の名前はウララ。童顔で愛嬌のある丸い目、作業の為か、その銀色の髪は後ろで纏められており、人間の体の方には、大きな前掛けの様な作業着をつけている。
とてもじゃあないが、クズ拾いになれそうなアンデッドではない。
もっとこう、クズ拾いっていうのは、救いようのない死んだ魚の目をしたチンピラとか、腐ったチーズの匂いのするジャンキーがなる者であって、こんなキラキラとした目をした、前途ある女の子がなるモノではない。
僕はそこに座っている親父と同類になりたくないので、クズ拾いというものを懇切丁寧にウララと言う女の子に説明したが、それでも彼女の意思は固かった。
「私、どうしてもクズ拾いになりたいんです。理由は……言えないんですけど、それでも、戦えるようになって、確かめないといけないことがあるんです。」
「だそうだが。 フユ、この子を追ん出して他のクズ拾いの小間使いにするか?」
カクタの親父が言う事の意味は、他所だったらこの子、見捨てられるか囮にされて死ぬけどいいの?という脅しだ。
あのねぇ!そこまで言われて断るなんて、出来るわけないでしょうが!
「そこまでやる気があるんなら断らないよ。廃墟をサファリかなんかと勘違いしてるいつもの素人さんだったら断るけど、この子はそうじゃなさそうだ。」
「フユさん! ありがとうございます!」
ああウララさん、そんなキラキラとした目でこちらを見ないでください、僕の死んだ魚の目にはあなたの放つ光が強すぎて、おめめがつぶれそう。
「話は決まったな、じゃあ後は装備だな……まったくの偶然にも、お前たちにおあつらえ向きの依頼が来ていてな?」
「実は最近店を出した新規工房が探し物をしていてな、装備のレンタルありっていう好条件でやる奴を探してるんだ。どうだ?」
えらい偶然が続くもんですね……。まあ、やるしかないよね。
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